第176話:ヴァールハイトの更なる正体。
「いやはやアドルフにも困ったものだよ。まさかあそこまで馬鹿だったとはね」
「いやちょっと待て、なんでシルヴァがこんな所に居るんだよ! てかなんで俺の今までの事知ってるんだ!?」
目の前の男、ヴァールハイトはもはや完全に見知った男シルヴァへと変貌を遂げていた。
よくよく考えればどうも聞いた事のある声だと思ったんだ。
あの小憎らしい喋り方もそう。姿がまるで違うから頭の中で同一人物と繋げる事が出来なかったが、言われてみれば確かに、という点は多い。
「君の事なら大抵の事は知っているさ。なにせずっと見ていたからね」
「ずっと……?」
「ああ、正直に言わせてもらうと君達とパーティを組んだのはほんの気まぐれだったし、強いて言うならアドルフがどこまで道を踏み外すかを見て見たかっただけなのだがね、しかしミナト、君には何か不思議な物を感じていたんだ。それが今ならば分かるよ。君がどれだけ特別な存在なのかをね」
「いや、俺にはさっぱり分かんねぇんだが……どうやって見てたか聞いてんだよ俺は。リリアの偵察魔法みたいなやつか?」
シルヴァは軽く首を傾げ、「うん?」と不思議そうに呟く。
「そうではないよ。私は……いや、君と居た頃の一人称に戻そうか。僕は僕の能力で君を見ていたのさ。まさかアドルフも君を落とした先にイルヴァリースが居るとは思わなかっただろうね愉快愉快」
「何が愉快だふざけんなよ! こっちはどれだけ大変な思いをしたと思ってんだ!」
シルヴァは特に気にする素振りもなく俺をまっすぐ見つめ、言葉だけの謝罪を述べた。
「すまんすまん。人間を観察して久しいが君程興味を惹かれたのは初めてだよ。君の境遇に、そして生き方に、そして何より君自身にね」
「気持ち悪い事言うな」
『わおモテモテね♪』
野郎にモテても嬉しくないわ! ただでさえこいつはいろいろ距離が近くて怪しいんだからよ。
「いやいや、僕は本気だよ。君が歩んだ道も、君の選んだ選択も見てきた僕が言うんだ間違いないさ。今まで見てきたどんな人間よりも好意に値するよ」
好意……って、おい、この流れ知ってるぞ。
「つまり……」
「やめろその先を言うな」
「好きって事さ」
言いやがった……!!
「どこまで分かって言ってるか分からんが腹立つなぁ……無駄に顔と声が良いからってなんでも許されると思うなよ……!!」
「ふむ、そうか。この外見を気に入ってくれているのなら今後はずっとこの姿で居る事にしよう。君に好意を持ってもらえる姿の方がいいからね」
「だからその好意って言い方やめろ!」
マジで腹立つなこいつ!!
「だから結局お前は何者なんだよ! その能力は上位スキルか何かか? ずっと見てたとか気持ち悪すぎるわ!」
まさか男からもストーキングじみた事をされるとは……。
「そうかそうか、君にはまだきちんとした自己紹介をしていなかったものね。困惑するのも無理はない」
シルヴァは自分の服を軽く手ではたき、姿勢を正して、とんでも無い事を言いやがった。
「僕の本当の名前はシヴァルド。六竜の一人さ」
「……は?」
「久しぶりだねティリスティア。そしてリース。ミナトの中にいるジュディアもね」
シルヴァが六竜……? 嘘だろ? 俺はママドラと知り合う前から六竜と一緒に居たってのか? まったく気付かなかった。
確かにこいつはいつも飄々としていて掴めない奴だったが、それにしたってまさか六竜の一人とは。
「お久しぶりですシヴァルド様、あの時はお世話になりました」
「いや、僕は何もしていないよ。君達とマリウスにほんの少し助言をしただけなのだから」
ティアとシルヴァ……じゃなかった、シヴァルドが知り合いって事は、ティアは本当に初代勇者という事になる。俺にもすげぇ知人が増えたものだ。
初代勇者は六竜のマリウスと共に、初代魔王である器を手にしたイヴリンを討伐したとアルマが言っていた。その際にシヴァルドも多少協力していた、という事だろう。
「僕はあの時も今も主に観察しかしないからね。何かが助けになったのだとしたらほんの気まぐれだよ」
「だったらなんでこんな所で王を守ってたんだよ」
人間観察が趣味の奴にしては随分人間の深い所まで関わってるじゃねぇか。
「それこそ気まぐれさ。僕の見立てでは獣人と人間はルーツが同じだと思っていてね。この国は特に獣人が多いだろう? だから本格的な調査をしたくて血の濃い王族に接触した、という訳だね」
「どうやってクイーンに案内させた?」
「クイーン……あぁ、あの時僕を案内してくれた優しい英傑の事だね。怒らないで聞いてくれるかい? いきなり王に会わせろだなんて無理だろう? だからちょちょいっと記憶を改竄させてもらったんだ。一時的に僕を疑う事の無いようにね」
……なんて奴だ。だからクイーンがこいつの事を思い出そうとした時に頭に靄がかかったみたいになってたのか……。
「しかしここに居る王、リリア十二世は僕が六竜だと明かすと快く協力してくれたよ」
それは怖くて従うしかなかったのでは……?
「あらかた調べものにも満足してこの国を出ようか、という頃合いでね、あの先祖返り事件が起きた訳さ。さすがにこの状況を放り出して出ていく訳にはいかないし、王が先祖返りをした時点で僕の仮説が立証された訳だからね。責任もってなんとか解決しようと頑張っていたのさ」
「そこに俺達が来た、と?」
「姫の事も勿論心配していたんだけれど、見つけた時には既にミナトと一緒に居たからね、こちらに居るよりは安全だろうと君に任せる形になってしまった。すまないと思っている」
「いや、それはいいけどよ……だったら俺達を迎えに来てくれるとかいろいろやりようがあったんじゃねぇのか?」
傍に置くのが姫にとって安全かどうかという話は分からんでもないが、俺達をここへ呼び寄せればその心配だって無くなっただろう。何故何も言わずに放置した?
しかし、そこでシヴァルドはさも不思議そうにこめかみに指を当てて考え込む。
「……どうして? そんな事をする理由が僕にあったかな? ミナトには会いたかったけれど放っておいてもそのうち来るだろうと分かっていたし敵がどんな手を使ってくるか分からなかったからあまり余力を割きたくなかったし……それにね、君達がここに来るまでにしてきた事はとても価値のある事だよ。この国のこれからにとってね」
そこまで言い切ったシヴァルドは、俺の良く知っているとても悪い微笑みを浮かべていた。
……そうだった。こいつはこういう奴だった。
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