第175話:決着とヴァールハイトの正体。


「なっ、この声はティリスティア!? なぜ貴様が生きている!!」


「デルベロス君は知らなくてもいい事だよ?」


 デルベロスがその姿を捉えるより早く、ティアはダンテヴィエルを肉塊へ振り下ろす。

 そして彼女は見事に一撃で奴の本体を真っ二つに切断した。


 お前ならそれくらい出来ると思ってたよ。


「がっ、きさ、ま……!!」

「あらまだ喋れるの? てか君どうやって喋ってるのかな? いい加減に……消えちゃいなっ!!」


 二つに割れ、転がっていた球体をティアが思い切り踏みつけ、今度こそ完全にデルベロスは砕け散り、消滅した。

 あちこちに飛び散っていた肉片もじゅわじゅわと蒸気をあげて消えていった。

 酷い臭いだけを残して。


「うわくっさーっ! 性根が腐ってると死んでも腐臭がするんだね……」


 鼻をつまんで「くちゃいくちゃい!」と騒いでるティアへ歩み寄り、声をかける。


「おかえり」

「えっ? ……うん、ただいま♪」


 一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になって俺に飛びついてきた。


「うわ、だからお前軽率にそういう事するなって……」

「軽率にじゃないもん。私はセティが、そしてミナトが好き」

「……お、おう」


『反応に困ってやんの』

 うるせぇなぁ。こういうストレートなのには弱いんだよ。

『ネコちゃんが好き好き言ってる時もそうなるもんね』

 あいつは別だ。いつも途中でエロ方面に話が傾くからなぁあのアホめ。


「あっ、でも急に何の説明もなく私を変な所に閉じ込めたのは怒ってるんだからね!」

「すまんすまん。でもあの時はああするしか無かったんだ。真剣勝負に水を差すような真似をして悪かったとは思ってるけど、それはお前も同じだろう?」


 ティアは「うっ、それを言われると辛い」と呟きながら俺から離れる。


「私はあそこで終わってもいいと思ってた。デルベロスなんかの言う事聞いてやるくらいなら死んだ方がいいって。でもまさかミナト君が助けてくれるなんてね……まるでヒーローみたい。せめて説明は欲しかったけどね」


 そんな暇なかっただろうよ……。


「悪かったな。でもうまく行って良かったよ」



 俺はあの時、ジュディアの一撃が炸裂する瞬間に割って入った。

 もう攻撃を止める事が出来なかったので慌てて俺はティアをカットしてストレージ内に放り込んだ。

 勿論ただ放り込んだだけじゃない。ストレージ内に結界の部屋を作り、その中へ隔離した。

 デルベロスが黒幕なのはティアから聞いていたので、気配などを察知されないようにする必要があった。


 突然何もない空間に放り込まれたティアは不安だっただろうし、ストレージ内に人間放り込んで無事なのかどうかも分からなかったが、あの時咄嗟に出来る事はこれしかなかった。


 結果としてうまく行き、きちんと後でちょっと待つように告げた。


 そして今ようやく、デルベロスを確実に始末できる状態を用意できたので、ティアにケリを付けてもらったという訳だ。



「あーでもせいせいした! こんな糞野郎に従わなきゃいけないのがあんなにストレスだとはねぇ……」


 デルベロスはおそらく卑怯な手を使ってキララを手にかけた。

 そして、方法は分からないが初代勇者であるティアを蘇らせその魂に楔を打ち込む。

 逆らえばデルベロスの術によりその命は失われる運命だった。らしい。

 あのデートの後にティアに聞いた話はこれだけではない。


 デルベロスはティアを操り、英傑王となる事で姿を見せない王との接触、あわよくばヴァールハイトを始末して王を傀儡とする。難しければ二人とも始末して自分が王となる事でどちらにせよ魔物とリリア帝国の両方を手に入れるつもりだったそうだ。


 魔王軍ってのも一枚岩では無いらしい。ぽっと出のキララという魔王に従いたくない連中も多かったんだろう。

 キララに拘っていたギャルンの奴は何をしていたんだ?

 ……もしかしたらギャルンの奴もイリスの一撃で深手を負ってそれどころじゃなかったのかもしれないが……。


 どちらにせよキララは死に、俺の作戦が上手くいった事でデルベロスも死に、ティアは生き残った。


 結果オーライ、というやつだろう。


「やれやれ……一時はヒヤヒヤしたものだが結果的には上手くやってくれたようだねミナト」

「だからお前なんでそんなに馴れ馴れしいんだよ」


 ヴァールハイトは俺の動向、そして置かれている状況に詳しすぎる。こいつは絶対何か裏があるぞ……。


「ふむ、君には説明しないといけないな」


「ミナト様ぁぁぁぁっ!! わたくし怖かったですわ! でも無事父上と再会できて、わたくし、わたくしなんとお礼を言っていいか……もうこの身を捧げるしか!」


 ぽんぽこが俺に飛びついてきたので受け止めるものの遠心力でその場をぐるぐる回ってしまった。


「ほっほっほ……儂からも礼を言わせてもらうぞミナトとやら。そなたと……ティア、二人は共に英傑王の名に相応しい。特にミナトよ、そなたはポコナをずっと保護して守ってくれていた恩もある。ポコナさえよければ次期リリア国王に……」

「お、お父様! お父様が応援して下さるなら百人力ですわ! ミナト様すぐに挙式を!!」


「おいおい落ち着け。感謝の気持ちは受け取るがそれ以上はいらん。お前も姫なら姫らしく軽々と俺なんかと結婚しようとするな馬鹿」


 ポコナは俺の言葉に突如物凄い剣幕になった。


「馬鹿とはなんですの馬鹿とは! わたくしは真剣に考えてわたくしの人生のパートナーはミナト様しかいないと……!」


「まぁ積もる話しもあるだろうがここは少し抑えて頂けますかな姫よ。私はこのミナトと少しばかり大事な話がありますので。何を隠そう私とミナトは旧知の仲なのですよ」


 ……はぁ?


「だから誰だよてめぇ。俺はお前なんか知らねぇぞ」


「ふふ、確かにこの姿では分からなくても無理はないか。君にも分かる姿になろうじゃないか……これでどうだ?」


 ヴァールハイトが手に持った小さな杖をくるくると回し、その姿が変化していく。


「私にはいくつもの顔があってね。君にもこの姿なら覚えがあるのではないか?」


 俺は開いた口が塞がらなかった。


「……シルヴァ?」


 そこに立って見覚えのある薄ら笑いを浮かべていたのは、俺がかつてアドルフ達とパーティを組んでいた時に共に行動していた魔法使いだった。





――――――――――――――――――――


覚えている方はまずいないと思いますが、シルヴァという名前自体はミナト君が冒頭で崖から落とされた際パーティの一員として一度だけ名前が出てきています(;´∀`)

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