第174話:相応しき者。
「許さないだと? それはこっちのセリフだ! 貴様さえ邪魔しなければ……!」
「でももうお前を生かしておく理由もないからな。英傑祭優勝の実力見せてやるぜ」
獣化の件が全く心配いらなくなったのは大きい。
「断る」
……は?
デルベロスはそう言うと完全に俺を無視して王へと飛び掛かった。
「従わせる事が出来ないのならせめて貴様だけでも消してくれるわ!」
あの野郎! 俺と戦うのは分が悪いとみて王を殺す事を優先しやがった!
慌ててデルベロスに攻撃をしようとするが、既に王とデルベロスが俺から見て一直線上に並んでしまっているので下手な攻撃をしたら巻き込んでしまう。
仕方ないのでやり方を切り替えその背後へ剣を突き立てようとするが、間に合わない。
「まったく……私は対処をミナトに任せた筈だが?」
デルベロスが見えない壁にでもぶつかったように停止し、大きく弾き飛ばされる。
「ヴァールハイト……!」
「こちらは大丈夫だ。それより早くその汚らしいのを始末してくれないか」
この野郎……それだけの力があれば自分でどうにでもなりそうなもんだがな。
「新たな英傑王の力を直に見せてくれ。そのイルヴァリースの力を」
……この男、いったいどこまで知ってる?
イルヴァリースの事まで知ってるってなると全部この男の掌の上だった気分だ。
『……それは意外と当たってるかもしれないわよ』
あん? それはどういう……?
『今は目の前のこいつをどうにかしてしまいましょう。話はそれからよ』
それもそうか。
「おいデルベロス。もう俺と戦うしかないみたいだぜ? 覚悟を決めろ」
「くそっ、ヴァールハイト……忌々しい奴だ。あいつがずっと王の傍にいるから手を出せなかった。もうこの計画は破綻している。これ以上拘れば身を亡ぼすか……」
やけに冷静になったデルベロスが構えを解き、ここから撤退しようと何か魔法を使った。
が、そんなの見逃す訳ないだろう?
「……む、これはどうしたことだ!?」
「お前は転移まで使えるのか? だとしてもここからは逃げられねぇよ。既にこの部屋は外から隔離してるからな」
デルベロスがやっとこちらに向き直る。
「……貴様という奴はどこまでも……こんな事なら英傑祭など待たずにティリスティアを使って王を無理矢理暗殺すべきだった」
その発言に再び俺の中に炎が灯る。
「勝手な事言ってんじゃねぇよ。テメェの身勝手であの女がどれだけ苦しんでいたか……」
「それがどうした!? 私が蘇らせてやったんだ。都合のいいように使って何が悪い! もっとも、言われた事も完遂出来ない出来損ないだったようだがな!」
「黙れよ」
俺は空間を断裂させデルベロスの首を切り落とす。
「ぐあっ、何をした!?」
げ、こいつ落ちた首が普通に喋ってやがる。
デルベロスはすぐに落ちた首を拾い上げ、元の場所に押し付ける。
「くそっ、やはり私では勝ち目がないか……しかしただでは死なん。せめてこの命と引き換えに貴様だけでも……」
今度はターゲットを俺に切り替えたらしい。といってもこの状態では俺と戦うしかないのだから当然だ。
『死ぬ気になった相手って結構面倒よ?』
分かってる。油断はしないさ。
「貴様が俺の身体に触れたが最後、原子レベルでその身を蒸発させてやる」
原子なんて言葉が出て来た事に驚いたが、どうやらこいつは自爆でもするつもりらしい。
障壁でも纏っていれば死ぬ事はないだろうが、命と引き換えの攻撃ともなるとどれだけの火力があるか分からない。
少し慎重にいくか。
空間断裂は便利なのだがあまりやりすぎるとズレが出ていろいろ歪みやすい。特に建物内などは特に注意する必要がある。
なので、俺は空気を圧縮させた刃をデルベロスへ放つ。
「あまくみないでもらおう!」
奴はそれを拳で、まるでアッパーでもするかのように下から突き上げ刃を粉砕する。
なんだかんだ言って幹部クラスともなるとそのくらいはできるか……。
「なら手が回らねぇくらいの数で切り刻んでやるよ。コピー、ペースト、コピー、ペースト」
新たに生み出した空気の刃を増やしていく。その様子を見ていたデルベロスは額に汗を浮かべながらも、受け切るつもりのようで身構えた。
「行くぜ? 受けれるもんなら受けてみろよ」
一斉に空気の刃を奴に向けて放出。しかし……。
「貴様が協力な遠距離攻撃を使うのを待っていたのだ!」
デルベロスが懐から何やら八卦炉のような物を取り出し、翳す。
するとそれに俺が放った魔法がしゅるしゅると吸収されてしまった。
「これは相手の魔法を吸い込み、魔力へと変え自在に操る事が出来る魔道具だ。魔王の攻撃すら吸収したのだから大した物よ」
この野郎……自分の力の足りない部分を魔道具で補っているのか。
こいつの話を聞く限りキララはこの道具で魔力を吸い取られ、やられたらしい。
こんな奴に?
こんな雑魚にキララ、お前がやられちまったのかよ。
別にキララが死んだのはどうでもいい。俺からしたらせいせいするし安心だ。
だけどな、それをしたのがこんな奴だってのは気に入らねぇな。
「魔力を吸われるならよ、物理でぶん殴ればいいよな?」
俺は腕を竜化させ、デルベロスへ近付く。
自爆とかもうどうでもいい。一刻も早くこいつをぶっ殺したかった。
ティアの件も勿論そうだが、何故かキララの事で尚更こいつに対しての殺意が増す。
「馬鹿め! 貴様の魔力さえ手に入ればこの空間の隔離など解除できるわ!」
『あいつ逃げる気よ!』
「させるかよ」
俺はデルベロスが何かする暇を与えず再び空気の刃を投げつける。
「くっ、そんな物……再び吸収して……」
「その為にその道具を使わなきゃいけないよな?」
「しまっ……」
デルベロスが俺の魔法を吸収している隙に、その腹部へ竜化した拳を、ドラゴンの一撃をぶち込む。
「ぎ、ぎゃぎゃぎゃ」
奴の身体が光り輝き、内側から爆ぜた。
四肢は勿論、全身がいくつもの肉片になって部屋中に散らばる。
「なんでこんな奴に……」
「……まったく、倒すにせよもっとスマートな方法は無かったのかね」
ヴァールハイトが王を守っていた障壁を解除し、俺の元へ近付いてくる。
「とにかくご苦労だったね。ミナトにはいろいろ話さなければならない事が……」
視界の隅で、何かが動いた。
嫌な予感がした時にはすでに肉片の幾つかが集まって王に飛び掛かっていた。
「私の勝ちだぁぁぁっ!!」
その声を聞いてヴァールハイトが初めて焦った顔をしたけれど、俺は焦ってはいない。
既に手は打ってある。
奴の体が吹き飛んだ際何か光る物が見えた気がしたが、俺の考えが正しければそれがこいつの本体であり、それさえ無事なら死ぬ事はない。そういうタイプの魔物だろう。
六竜も確か核があるとかなんとか言ってた気がするし似たような物か?
こいつはずっとこんな絡め手で生き延びてきたんだろう。
でもそれも今日で終わりだ。
なんである程度予測がついていたのにこいつの本体を放置したのかといえば、それはこいつを殺すべきなのは俺じゃないから。
もっと相応しい奴がいる。
そうだろう?
「じゃじゃーん♪ 勇者様のおでましだゾ♪」
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