第164話:決着-重すぎる期待。


「うへぇ、まだ出てくるの!?」


「ふん、全ていなしておいてよく言う」


 エクスは新たに黄金の鈎爪を取り出し肉弾戦まで始めた。

 近距離は鈎爪、中距離は長尺の剣、距離が離れたら弓矢。

 それらを器用に使い分けていたのだが、そのうち弓を自分で放つ事すらしなくなった。


 黄金の弓は空中に浮かび、自動的に光の矢を装填し次々と放つ。

 おそらくディグレ……レナの英傑武器に近い物かもしれない。自分では無い何者かが弓を引いているのか、或いは繊細な空間操作で弓を装填し放っているのか……。


 どちらにせよ尋常では無い。

 これでひたすら矢の援護を受けながら戦う事が出来る。


 しかし恐ろしいのはその全ての攻撃を楽しそうに全て無力化していくティリスティア。


 巨大なダンテヴィエルを片手で軽々と振り回し、矢を弾き、剣を受け流し、鈎爪は広い刀身を盾にして受け止め、それでいて攻撃の手を止めない。


「あははっ♪ いいねいいね! こんなに楽しい戦いは久しぶりだよ!」


「余はこんなに面倒な相手は久しぶりだ!」


 そんなふうに悪態をつきながらも、エクスは満面の笑みだった。

 英傑祭と言えど毎回彼を楽しませる相手はいなかったのだろう。


「じゃあこれはどうかな?」


 舞台の上に突風が吹き荒れ、風の刃が飛び交い障壁内が見えなくなってしまう。

 あの女が初戦でやったやつだった。


 しかし、エクスの「片腹痛いっ!」という声と同時に風の刃が全て消え去る。


「貴様はここが密閉されている事を利用して一定方向に一斉に風の刃を展開する事で流れを作り竜巻を作ろうとしたのだろう? そんなもの逆回転かけてやればどうという事はない。一度見た攻撃が通用すると思うな」


 言うは易しだが大量の風の刃は存在する訳で、それを全てかき消すほどの攻撃をエクスも繰り出したという事だ。相変わらず底の見えない奴である。


「凄いね……本当に、こんな楽しい事があるなんて感激だよ」


「ふふふ……しかしこれではらちがあかんな。余の本気を見せてやる。これを受け切れば貴様の勝ちだ」


「えー、そうなの? じゃあ私の勝ちだね♪」

「ふふっ、よく吠える!」


 この戦いを見ている全ての人々が、見入ってしまっていた。

 強者同士の戦い、その火花が散る展開に息をのむ。もっと見たい。終わらないでほしい。

 しかしどちらが勝つのかは知りたい。


 そんな矛盾した気持ちがせめぎ合って拳を握りしめる。


「いくぞ。貴様ならば大丈夫だとは思うが……よもや死んでくれるなよ!」


 エクスが両手を広げると、その背後背後からおびただしい数の何かが現れた。

 ……なんだあれは。筒?


 無駄に豪華な彫刻が施された金色の筒が大量に現れた。一瞬銃かと思ったが、俺の知っている銃よりも短く、太い。

 人の頭ほどのサイズの豪華な筒。


 あれも英傑武器なのか? こいつ何種類持ってるんだよ……。


 もしかしたら英傑になる度に特別な武器貰ってるとか?


『……あれ、ヴェッセルよ』

 なんだって?

『あれは本来砦とか、そういう大きな場所を守る時に複数人で魔力を装填して使う防衛装置……大昔に見た事があるわ』

 それを一人で操作して、その全てに魔力を装填しているって事か。分かってはいたが明らかに異常な野郎だな……。


 エクスの呼び出した無数の筒は、小さな大砲のような物らしい。弾は魔力。

 操作にも装填にも発射にも、勿論弾丸にも膨大な魔力を消費する。


 エクスは一気に決める気だ。後の事など考えていないように思う。

 その後は俺しか残っていないからここで力を使い切ってもいいと思ってるのかもしれない。


「わーお♪ 懐かしいわね! でも……それなら一度攻略済みよ!」


 魔力砲が一斉に轟音を響かせ発射される。

 その一撃一撃が圧縮された魔力弾で、対象に触れた瞬間に大爆発を起こす。

 舞台は一瞬で大爆発、噴き出した煙に包まれた。


「……どうする? まだ続ける?」


「一つ聞きたい。今の攻撃をどうやってかわした?」


 煙幕が消えた後、そこにはエクスと、平然と立つティリスティア、見る影もなくボコボコになった舞台。


「かわしてないわ。あんなのいちいちかわそうと思ったら大変でしょう?」


「ふむ……ならどのように?」

「えへへ、簡単な事なのよ。あの魔力砲弾は対象に接触すると大爆発を起こす。だけど直接受けなければ自分に障壁かけときゃなんとかなるのよね」


「……なるほど。それは分かったが……」

「つまりね、私は自分の身体に障壁をかけるでしょ? そしたら地面をぶん殴って、大量の石とか瓦礫を用意するでしょ? そしたらそれを全方位に向けてぶん投げるっ!」


「……そんな事で?」

「そうよ? そんな事で対処できてしまうのよ。さすがに細かい土煙とかじゃ反応しないけど、手のひら大の石ぶつければそこで爆発するから私は散弾銃みたいにむちゃくちゃに石をまき散らせばいいってわけ♪」


 エクスはぽかんと口を開け、そして段々とその表情が笑みに変わる。


「くくく、ははははっ。いいぞお前、余の妻になれ」


「うん、それ無理♪」


「ふむ、そうか。ならば仕方ない。立て続けにフラれるとなかなか傷付くものだな」


 あの野郎どさくさに紛れてなに言ってやがる。結局俺とかじゃなくたって強い女なら誰だっていいんじゃねぇかよ!

『あれ、嫉妬? ねぇ嫉妬?』

 ちげーよ!!


「でさ、どうする? 私は続けてもいいけど? 君と戦うの楽しいし♪」


「馬鹿を言うな。余は出せる手を出し尽くしてしまった。これ以上続けても何も出来ぬよ。しかもお前はまだ実力の半分も出してないだろう?」


「ありゃ、分かる?」


 ……え? マジで言ってんの? あのティリスティアって奴マジで何者?

 エクスも人間としては相当無茶苦茶な奴なのはよく分かったが、あの女は完全に常軌を逸している。


「余の完敗だ。今年の英傑王はお前かミナトに任せるとしよう」


 エクスが俺の方をチラリと見て笑う。


 その目はまるで、「貴様ならこいつに勝てるか?」と言っているかのようだった。


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