第163話:英傑王VS〇〇。


「貴様に聞いておきたい事がある」


「何かな? 女の子の秘密は簡単には教えてあげられないけれど言える範囲なら答えてあげるよ?」


 エクスとティリスティアは激しい攻防を繰り広げながら、息一つ乱す事なく平然と会話をしていた。


「貴様の名前……フルネームを聞いても?」

「ふふん、そんな事? 私の名前はティリスティア・マイ・メビウス・メロディよ♪」


 マイ……なんだって? まいめろ? だめだよく聞き取れなかった。


「そんな馬鹿な話あるわけないわ」


 そんな言葉を呟いたのは、何故かアルマだった。


「どうかしたか?」

「……いえ、何でもないわよ」


 それだけ言ってアルマは引っ込んでしまった。

 思わず表に出て来てしまうほど驚くような何かがあったのか?


「ほう……やはり余の勘は正しかったな。貴様が何故その名を語っているのかは分からないが、それにふさわしい実力である事は認めよう」


 ……? 名を語る? どういう事だ?

『……』


 ママドラも何か思う所あるのか何も返事をしてくれない。


「名を語るだなんて失礼だなぁ。でもそう思われても仕方ないわよね。あれからすっごく時が経ってるもの。でもこうやってまた君みたいな強い人と戦えて私は嬉しいわ」

「……? 本人だとでも? だとしたら過去の亡霊はお呼びではない。今は余等の時代だ!」


 今まで素手でティリスティアの攻撃を受け流していたエクスが、ついに英傑武器を取り出す。

 それは異様な長さの剣。

 おそらくエクスの身長よりも長い。二メートル近くあるその剣を、まるで手足のごとく自由自在に操りティリスティアへと切りかかる。


 会場全体が息を呑むのが分かった。

 俺もその一人だから。


 エクスの連撃はまるで舞の達人の動きのようで、美しく、無駄がない。

 そして長い刀身は薄く、彼の動きに合わせて軽くしなりながら宙に軌跡を描いた。


 あの薄い刀身では相手に当てる角度を間違えた時点で刃こぼれか、下手をしたら折れてしまうだろう。


 アレを使いこなせる卓越した技術こそ英傑王たる所以なのかもしれない。


「うわわっ、それ相手に丸腰ってのはちょっとまずそうだね……だったら私も剣を抜かせてもらうわよっ♪」


 絶句した。

 会場の誰よりも、間違いなくこの俺が。

 目を疑った。何度も目を擦ってそれを見直した。

 でも間違いなかった。


 ティリスティアが取り出したその巨大な剣は、間違いなく俺が知っているソレだった。


「ダンテヴィエル……なぜこんな所に」


 それは勇者の証、ダンテヴィエル。ダリルで保管されていて、キララが持ち主に選ばれ勇者になった。

 ダンテヴィエルが戻ってきたのか? 新たな勇者として選ばれたのがティリスティア?

 分からない。何も分からないがアレが他の持ち主に渡っているという事はキララが死んだという事だ。


 あの女こそがキララの変装……という線も考えたがそれは無いだろう。

 魂の色が綺麗すぎる。見た事が無い程の純白。


 あの女は……勇者として相応しい魂を持っている。


 しかしどうしてダリル発の勇者がこんな所でリリア帝国のお偉いさん推薦で英傑祭なんかに?


 何もわからん。考えても無駄だ。

 どちらにせよ俺達の目的は俺かエクスが勝ち残る事。

 ここでエクスが勝ってくれれば何も問題ない。


「……その剣は、ヴェッセルか?」

「よく知ってるね。……行くよ?」


 ティリスティアの豪快な、それでいて素早い剣撃は確実にエクスを後ろに下がらせていた。


 何度も打ち合い、正面からでも英傑武器が明らかに欠け始める。


「くっ!」


 エクスがついに後ろへ飛びのき距離を取った。


「あはっ♪ 打ち合いは私の勝ち~っ♪ ……って、何それ嘘でしょーっ!?」


 ティリスティアが慌てて横に飛ぶ。

 先程まで立っていた場所には光の矢が突き立ち、爆発を起こした。


「何それっ! 英傑は一人一つの武器じゃなかったの!?」


「そんな常識誰が決めた? 余が英傑武器を一つしか持っていないなどと誰が言ったのだ? 下らぬ先入観は身を亡ぼすぞ」


 エクスはいつの間にか黄金の弓矢を手にしていて、魔法で作り上げた光の矢を次々と撃ち出していく。


 連射速度もさることながら一撃の威力も高い。

 遠距離武器も持っているとは……エクスが特別なのが痛いほど分かった。


「うわわっ、そんな物まで使いこなすなんて……やっぱり君は面白いね! でも……それでも私の方が強いっ!」


 ガキィン!


 ティリスティアはダンテヴィエルに魔力を込め、光の矢を弾き飛ばす。

 軌道がそれた矢は舞台の隅へ飛んで行き爆発を起こした。

 エクスの攻撃は止まらず次々に矢が降り注ぐが、その全てをティリスティアが払い、打ち落としていく。


「ならばこれでどうだ」


 英傑王がマジックストレージから何か球体を

 取り出した。ボーリングの玉程度のサイズだろうか?


 英傑王はそれをポイっと宙へ放る。

 すると自動的にティリスティアを認識、追尾を始めた。


「なぁにこれーっ! ついて来るんだけど!」


 今の所それがどのような脅威がある物なのかは分からない。


「もう、鬱陶しい!」


 ティリスティアが加速し、空飛ぶ球体を真っ二つに割く……その瞬間大爆発を起こした。

 障壁内が光に包まれ、視界が奪われる。


 そんな中、エクスの攻撃は止まず次々に矢が放たれた。

 ティリスティアは目が眩みながらもかろうじて矢の気配を感じ横に飛んで回避。


「ふふっ、君、本当に強い。私が戦ってきた相手の中でもトップクラスよ」


「当然だ。余は英傑王エクス。英傑の中の英傑であるぞ!」


 エクスが高らかに名乗りを上げた。


 エクスの周りには先ほどの球体が再び浮かんでいる。


 そしてエクスは距離を取って矢を放ち、球体を飛ばし牽制しながら中距離からは長尺の剣で攻撃しつつ、


 更なる武器を取り出した。


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