第162話:激闘の幕開け。


「まさかディグレが女だったなんてなぁ……そう言えば英傑として選ばれた女が一人辞退したって話があったけど……」


「うむ、あれは私の事だよ。とても都合のいい英傑武器を貰ったから辞退した事にしてもらって男として改めて英傑になったの」


 ジオタリスが「へぇ~」とか言いながらじろじろとディグレを観察する。


「あ、あまり見ないで。私をそんな目で見ていいのはミナトだけよ」

「むきーっ! わたくしこいつ嫌いですわーっ!」

「タヌキに好かれたいなんて思ってないから別にいいもん」

「むきーっ!!」


 結果的に、俺の両サイドをディグレとぽんぽこが固めるという布陣に落ち着いたらしい。

 ちなみにネコは俺の背中にのしかかっている。


 ぽんぽこがディグレに、「悔しいですがこの方はミナト様の本妻なので失礼の無いように」なんて説明するもんだからディグレもネコには何も言えないでいる。


 本当に、どうしてこうなってしまったのだろう。


「はっはっは。愉快愉快」


 エクスの野郎がその様子を見て笑う。

 他人事だと思って……。


「しかしやはりミナトは女の方が好きなのだな。そう言う所を見ると男だと実感するぞ」


 突然エクスがそんな事をぶっこんでくるからまたややこしい話になった。


「男……? え、ミナトって男なの? どう見ても女の子だけど……」

「ん、あー。いろいろあってな、こんな姿になっちまったんだ。でも中身は男なんだよ。幻滅したか?」


 ディグレは女でもこんな人がいるんだ、って懐いてくれた感じだからショックだったかもしれないな。それで離れていくなら何も言うまい。


「ううん、だったらいつか男に戻る事もあるのかな? どっちにしても性別が男の人だったら私が本気で狙っちゃってもいいんだよね?」

「ダメに決まってますわ何言ってんだこのクソ英傑!!」


「はっはっは愉快愉快!」


 エクスの野郎余計な火種をぶち込みやがってどう責任を取るつもりだ!


「さてと、余はそろそろ行ってくるぞ」


「……は? お前の出番はその次だろう?」


 確かエクスの相手は俺の筈だったが……。


「ジオタリスとその相手が両方失格になったであろう? 故にあのティリスティアとかいう女の相手が居なくなったのでな。余がその枠に入る事になった」


「マジか。それなら都合がいいな」


 エクスがあの女に勝ってくれりゃあとは俺とエクスだけになる。どっちに転んでも俺達の目的は果たされる。


「……善処はしよう。しかしあの女、得体が知れぬ。万が一の時の事も考えておくのだぞ」


「おい、それはどういう……」


 俺の言葉を待たずにエクスは舞台へと行ってしまった。


「あの女がどんなに強くったって英傑王が相手なら大丈夫だよ。だってすっごく強いもん」

「……だといいんだけどな」


 それはそうと女モードになったディグレがやたらと「~だもん」とか言い出すので割とズルい。


『へぇ、君はそういうのに弱いのね?』

 まぁ、うん。否定はしない。


 ディグレの男の時の姿は随分とワイルドだったけれど、女状態になるとなんというか、癖っ毛でボサっとはしてるんだけどなんていうかな、クラスに一人は居るあまり身なりを気にしないタイプの実は美人ってやつ? あんな感じ。

 この手のタイプはきちんと髪整えて軽く化粧なんかしたら大化けするやつだ。

 そして胸がとにかくでかい。


『要するに割とアリって事ね?』

 アリよりのアリ。

『ついに一切否定しなくなったわね……』

 ママドラに隠し事は意味ないからな。


「それとね、ミナト……」

「ん、なんだ?」

「私の事はレナって呼んでほしいな」

「……レナ?」

「うん。私の名前はアン・ディグレ・レナールって言うんだ。女として生きていた頃はレナって呼ばれてた」


 そっか。確かに男として英傑になっていた時と同じ呼び方されるのは複雑なのかもしれないな。


「分かったよレナ」

「うん♪ ありがとうミナト」


 レナが腕に胸を押し付けながらこちらの脇腹に指をつん、と当ててくる。

 ほんとにこの子はもうなんていうか……!


『ちょっと、大丈夫? エクスの戦い始まるわよ?』

 お、おう……こればっかりはちゃんと見ておかないとだもんな。


「ついに英傑王のおでましだぁぁぁっ!! 満を持して! しかも相手は圧倒的な力を見せつけて勝ち上がってきた特別参加のティリスティア!! いったいどうなる!? 英傑王の力を見せてくれぇぇぇ!」


「がなるな羽虫が。耳が腐る」

「す、すいません」


 あまりにテンションが上がった実況にエクスが苦言を呈し、急に静かになってしまった。


「あー、えっと……それでは、第三回戦、ティリスティア対英傑王エクス、試合開始!」


 ティリスティアは無言でエクスを観察し続けている。

 エクスも同じだ。相手の動きを探るように無言の時が続く。


「へぇ……君となら、楽しめそうだね」

「ほざけ。すぐに楽しいなんて思えなくなる」

「ふふ……本当にそうなら嬉しいんだけど……なっ!」


 先に動いたのはティリスティアだった。

 彼女はクイーンにアドバイスしていた事を自分で実践してみせた。

 足から魔力を噴出させ滑るように舞台上を高速移動、からの加速させた拳をエクスの脇腹へ突き立てる。


 ばぎっ!


「うわっ、すごい障壁! 今の結構本気で殴ったんだけどな」


「……この障壁に一撃でヒビを入れるか……確かにお前は本気を出さねばならぬ相手のようだ」


 先程と同じように二人が見つめあう。

 違う事があるとすれば、お互いその口元はとても楽しそうに吊り上がっていた。


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