第159話:舞い上がれ。


 温泉施設を作り上げた時に使ったスキルなどを駆使して舞台はほんの数分で復元できた。


 その光景を見ていた観客たちも多少賑わいを取り戻し、次は俺とティリスティアとエクス、その三人のうち誰が新たな英傑王になるかという話題で持ち切りだった。


 いつの間にかモニターに第二回戦の組み合わせが表示されている。


 ジオタリス VS ファナシス

 クイーン VS ティリスティア

 ミナト VS ディグレ


 今回もジオタリスやクイーンと当たる事は無かったが……ちょっと面倒な事になってしまった。

 二回戦目で俺が勝ちあがると、三回戦でエクスと当たる事になってしまう。


 こんな段階で俺とエクスが潰し合うのはどう考えても勿体ない。

 手を抜くのはエクスが許さないだろうし、そこで俺が勝ち上がった場合本気で英傑王になるしかなくなってしまう。


 別にクイーンやジオタリスがなってくれたっていいんだが、問題はあのティリスティアとかいう女だ。


 クイーンには申し訳ないがあの女に勝てるとは思えない。

 そして、ジオタリスが勝ち登ってきた場合ティリスティアと当たる。


 俺かエクスがティリスティアを倒さなければ英傑王への道が途絶えてしまう。

 本来俺が早々に当たってケリをつけられたらよかったんだが……。


 トーナメント表からそのまま勝ち上がった者同士がぶつかる仕様なので最初の組み合わせが発表された時点でこの展開はある程度予想出来ていたけど。


「さて、次の試合行って来るぜ。応援しててくれよ? 今回も二回戦突破できるように頑張るからよ」


 ジオタリスが白い歯を見せて笑い、舞台へ向かう。

 そう言えばこいつ前回二回戦突破って言われてたな。

 英傑の中ではぼちぼち強い方なのかもしれない。


「あんたーっ! 負けんじゃないよ!」


 観客の方から女性の声が飛んできた。

 姿は何処にあるのか確認できなかったが、おそらくジオタリスの奥さんだろうなぁ。

 リア充め。


 ジオタリスは観客席の方へ軽く手を振って、舞台中央にてファナシスと睨み合う。


「今宵も俺のファイヤーバードは血に飢えてるぜ……」


 ファナシスは……なんというかビジュアル系ロックバンドみたいな服装って言ったらいいのかな? コッテコテのやつ。右目に髑髏マークの入った眼帯を付けて、髪の毛はそれなりに長いのに綺麗に天を突いている。


 どうでもいいけど今宵も……って今昼間だが。

 ただの中二病では?


 ちなみにこいつの言ってるファイヤーバードってのは鳥っぽい形状のギターみたいな楽器だった。

 楽器が武器っていうのはどんな感じなんだろうな?

 確か英傑王が音波を使うみたいに言ってたけど、楽器が武器ならそれも当然か。


 ……だったらジキルは何をされたか気付いてもよさそうなもんだが、アホだから仕方ないか。


「まず手始めにこれはどうだ? レイン!」


 ギュウィーン!! とファナシスが楽器をかき鳴らす。本当にギターみたいな音色だが、アンプやら機材無しにこれだけの音を響かせるってのは科学じゃ説明できないよなぁ。


「む、なんだ……? 雨?」


 ジオタリスの頭上からザバーっと雨が降る。

 局地的な物のようで、ジオタリスの動きにあわせて追尾してくるようだ。


「いでっ! なんだこの雨……!」


「ふはは……酸性の雨だ。もたもたしているとそのまま溶けて無くなるぞ?」


「鬱陶しいっ!!」


 ジオタリスが英傑武器、金色の斧を頭上へ投げ、雨の発生源になっている雲を切り裂くと、そのまま霧散して雲は消えた。


「前菜としてはなかなか面白かっただろう?」

「けっ、趣味の悪い攻撃だぜ……音を使うのは知ってたがこんな事もできたんだな」

「俺の事を調べてあるのか? なら残念だったな。俺はこの一年で新たな技を山ほど習得している。去年の俺とは違うさ」


 ジオタリスの事前情報でもファナシスの情報はあまり詳しくなかった。きっと一回戦敗退勢だったんだろう。


 そこから力を伸ばしたのだとしたらジオタリスにとっては面倒な相手になるかもしれないな。

 しかも正統派なジオタリスと違ってどう見ても絡め手が得意なタイプだし。


「次はこれだ! 心花心棘!」


 今度はもっと激しいビートを奏で、ジオタリスを取り囲むように多くの棘が生み出され一斉に襲い掛かった。


「ぬおぉぉっ!」


 ジオタリスは斧の平面をまるでバットのように振り回す事で棘を粉砕していくが、撃ち漏らした棘が三本、彼の太ももとふくらはぎに突き刺さる。


「ぐっ……!」


「ふふふっ、このまま決まってしまうぞ?」


「舐めるな……っ! まだまだぁっ!」


 片膝を地面についたままの居合切りのような一閃。それはファナシスの頬を薄く裂き、髪の毛を一束切り離した。


「うわっ、き、貴様俺の顔に傷を……! 許さんぞ! もう少し遊んでやるつもりだったが次で息の根を止めてやる!」


「へっ、やれるもんならやってみやがれ!」


 現状ダメージらしいダメージを受けているのはジオタリスだけか。

 ジオタリスはこれ以上傷が深くなる前に一気に勝負をつけないとまずいな。

 逆にファナシスは距離を取ってちくちく攻撃し続けていれば勝率はぐっと上がっただろうに……血の気が多いタイプは長生きしないぞ?


「舞い上がれ……! 俺の最大奥義……ブラックサン!!」


 ファナシスが激しくギターを振り回しながらも繊細な戦慄を奏でる。


 すると上空にブラックホールのような塊が現れ、どんどん巨大化していく。

 形状はまさしく黒い太陽……。


 そんな物には一切目もくれず、ジオタリスは姿勢を低くして斧に魔力を流し込んで大きく斧を構えた。


 アレは……初めてこいつと会った時にやろうとしてた技だ。あの時は俺が重力で潰してしまったが……。


「「くらえーっ!!」」


 二人の声が重なった。


「焼き尽くせブラックサン!」


 頭上から巨大な黒い太陽がジオタリスに迫る。

 ジオタリスは高速でファナシスへ突進し、その足元へ向けて斧を振り下ろす。


「シャッターアックス!!」


 その攻撃によりファナシスの足元から光が立ち上り、大きく吹き飛ばした。その攻撃に耐え切れなかったのか斧が砕け散る。

 ファナシスは足元からの爆発的な火力に対処できず、錐揉みしながら障壁の天井に激突し、意識を失い落下。


 しかしそれと同時に黒い太陽が頭上からジオタリスに迫り、彼の背中を焼きながら舞台に押し潰す。


 静寂が訪れ、どちらも立ち上がる事は無かった。


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