第154話:ミナトにとって必要な人。


「ふぅ……疲れた。慣れない魔法なんか使ったからへとへとだよ」


「お疲れ様ジオタリス」


 席に戻ってきたジオタリスとハイタッチを交わす。


「ふん、うまい事やったものだ。相手がゼットで良かったな」


「ロリナ、そんな言い方はあんまりですわ。ジオも頑張ったじゃないですの」


「今回は運が良かっただけだ。ゼットと戦う事になった時の事を想定して対策を練っていたのが上手くいっただけだろ」


 ロリナは、私は知ってるぞ、と言わんばかりにジト目でジオタリスを見下している。


「あ、あはは……やっぱりロリナにはバレバレだったか。去年あいつの戦い見てから俺ならどう対処するかを考えてさ、ずっと練習してたんだよ。うまく行って助かったぜ……先輩らしく出来ただろ?」


 なるほど。じゃあ対戦相手がゼットじゃなかったら完全に無意味な練習だったんだな。確かに運がいい。


「謙遜か? 相手の情報を調べ対策を練る事は恥ずかしい事ではない。余も強大な相手が居るのならそうするだろう。それに昨年から精進を怠って進化しなかったあいつは負けるべくして負けたのだ。お前は誇っていい」


「え、英傑王……! 有難きお言葉。しかとこの身に刻み付けるぜ!」


「ふん、まぁ余からしたらまだまだだがな。庶民にしては良くやった。褒めてやろう」


 ……ジオタリスは本気で嬉しそうだし、エクスは完全にツンデレだし……なんだこれ?


 イケメンで有能で強くてツンデレだと……?

 これ以上属性増やすんじゃねぇよ畜生が!


『今かなりいいシーンだったと思うんだけど……』

 俺には胸糞シーンだったんだよ!

『君本当にそろそろ自分の性格見つめなおした方がいいわよ……?』

 ビッグなお世話だっつの。


 しかし、仮に俺があの舞台上に居て近距離から振動派を受けていたとして、次の一撃を避ける程度には動くことができただろうか?


『どうかしら……まともに受けてたら数秒くらいは動きを止められていたかもしれないわね』


 やっぱそうか? 英傑武器の能力っていろいろバリエーションがあるから気を付けないとな。


『君の場合は動けないところにあのハンマーをくらったとして、それなりに痛い、くらいだと思うけれど』


 それは相手の火力次第だろ?

 こちらの度肝を抜くような妨害系スキル、そして強力な攻撃スキルを持っているような奴もいるかもしれないだろう?


『……まぁ本気を出す訳にも行かない試合だからね。そう考えると相手の情報って大事かもしれないわ』


 いざって時にやりすぎたり、逆に力を控えすぎて負けたりなんて事のないようにしないとだから。

 ジオタリスに出来るだけ英傑達の情報を聞いておいた方がいいかもしれないな。



 ……で、ジオタリスが知っている限りの英傑の情報を根掘り葉掘り聞き出している間に……。


「おぉーっとぉ! ここで決まったぁぁぁ! ファナシスの勝利!!」


「えっ?」


 情報を仕入れるのに夢中になりすぎて次の試合がまったく目に入ってなかった。


 そして、知らん間にジキルが負けていた。


「……ミナトちゃん、俺頑張っただろ?」


 しょんぼりしたジキルが席に戻って来るなり俺に話しかけてきたのだが、すまん。見て無かった。


「……うん、惜しかったな。ここじゃあ砂鉄の用意も限界があるし仕方ないさ。環境が悪かったんだよ」

「……いや、実は砂鉄自体はかなり前から舞台の周りに撒いて万全の体制だったんだ……」


 ……こいつ、会場に前乗りして砂鉄仕込んでたのか? むしろそれでなんで負けた?


「すまん、正直に言おう。ぶっちゃけ見て無かった。何がどうなって負けた?」


「ははは……そんな気はしてたぜ。でもいいんだ。そうやってそっけない態度をとられる事も俺にとってはご褒美……」


「いいからさっさと教えろや」


 この腐れドM野郎が。


 やたらとニヤニヤして気持ち悪いジキルが語った試合内容はこうだ。

 まず事前に舞台の周りに撒いておいた砂鉄を舞台一面に広げ、ジキルのフィールドを作る。

 そして以前戦った時のように自由自在に移動しながら奇襲をかけようとした所で、地面が波打って空中に弾かれてしまった。

 その後はもうファナシスって奴の強烈な一撃を喰らってノックアウト。って事らしい。


 地面が波打って空中に弾かれたってのが気になるところだ。


「俺も何が起きたのかまったくわからなかった……同じ能力で相殺されたとかじゃねぇよ。アレはなにかもっと別の物だ」


 ここで初めてジキルが悔しそうな顔をして眉間に皺を寄せた。


 こいつって勝てない戦いからは平気で逃げるタイプのプライドより上手く生き延びる事が得意みたいな奴だと思ってた。


 そして多分それは大きくは外れてないように思う。

 でも、それでもやっぱり戦って負ければ悔しいんだろう。


「ちゃんと見てやれなくて悪かったな」

「いや、こんな至近距離でミナトちゃんが今俺だけを見つめているという事実だけで先ほどの負けなんてどうでもよくなったぜ」

「……あ、そう」


 俺とジキルのやり取りを見ながらエクスとぽんぽこがドン引きしてた。


 いや、俺関係なくね? お前らが引いてるのはジキルであって俺じゃないよね?


 頼むからそうだと言ってくれよ。俺までこいつと同じ扱いは嫌だぞ。


『君ってこういう時平気で人を落として自分を持ち上げようとするわよね』

 馬鹿言うな。誰相手でもってわけじゃない。ジキルだから適当に扱ってるだけだ!

 こいつだからこそ落として踏み台にして俺を持ち上げる糧にしてるんだよ!


『……そっか、こんなのでもミナト君にとってはとっても必要な人だったのね』


 その言い方はやめてマジで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る