第152話:謎の女ティリスティア。
「やべ……ジオタリスの事完全に忘れてた。よく考えたら俺が連れてこなきゃあいつこれないじゃん……」
馬車もあるとはいえ今朝の時点で馬車は家にあったし、あれから出発した所で到底間に合わない。
「ふむ……置いて来たか。非道だな」
「うっ……返す言葉もない」
本当に申し訳ないので今からホールで迎えに行こうと思ったのだが……。
「別にいいだろ」
「特に問題ありませんわね」
「二人とも奴に酷すぎじゃないか……?」
『君も人の事言えないわよ』
世の中には自分の事を棚に上げるという言い回しがあってだな。
『それは自分の事を棚に上げて人の事をぶつぶつ言うっていうダメな例えじゃないの?』
それは世間一般の受け取り方だ。俺の中での受け取り方とは違う。
『……?』
自分の事なんていくらでも棚に上げればいいんだよ。だって他人の事だからこそいくらでも好き勝手言えるんだろうが。
『う、うん……そう、ね?』
「とにかくジオを呼びに行くために無駄な力を使うのは非効率ですわ! それならしっかりと英傑王になって頂いて……」
バァン!!
ぽんぽこの力説に、その場に居た英傑が不審な目を送り始めた頃、突如正規の出入り口が開け放たれた。
「ふぃー、なんとか間に合ったぜ」
そこに現れたのはジオタリスだった。
「おいミナトちゃん! 俺を置いて行くなんて酷いじゃないか。俺がここに来る方法何か考えてくれてるのかと思ったら、気が付いたらもういないんだもんなぁ……」
恐ろしい程に、他の英傑達はジオタリスに興味を示さなかった。
ジキルとクイーンは適当に挨拶をしていたがそれだけ。
そんな事よりも、これは俺もなんだが……ジオタリスよりも、奴と一緒に入ってきた女に注目していた。
「あはは~♪ 皆さん宜しくね。私特別枠で参加する事になったティリスティアって言うんだ」
……なんだこいつ。
明らかにこの女がここに入ってきた瞬間、空気が変わった。
「おいジオタリス。お前どうやってここまで……いや、それはいいや。それよりその人は?」
「ん、あぁ。なんかお偉いさんから特別推薦らしいぜ。手続きで手間取ってたからちょっと手を貸してやったんだ」
ジオタリスがなんでここに居るかはこの際どうだっていい。
それよりもこの女からは何か特別な力を感じる。
「お偉いからの推薦だと……? そうなると大臣か……もしくはヴァールハイト?」
エクスが顎を撫でながら独り言のように呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
もしこいつがヴァールハイト推薦で参加だというのなら、かなり怪しい。
「あっ、君だねミナト君っていうのは。私と同じく特別枠で参加だって聞いたからどんな人なのか興味あったんだぁ♪ もし対戦する事になったらよろしくね?」
ティリスティアと名乗った女はこちらに手を差し出してきた。
俺は少し悩みつつ、その手を握り返す。
「……? 君は……セティ? いや、まさかね」
「何の話だ?」
「ううん、気にしないで。こっちの話だから。それより、私英傑王になる予定だから出来れば私の邪魔しないでね。戦う事になったら……きっと手加減は出来ないよ」
おぉ……めちゃくちゃやる気じゃねぇか。
「悪いけど、俺もそっくりそのまま同じ言葉を返してやるよ」
「へぇ……それはとっても楽しみ♪ むしろ君とは早めに対戦したいな。誰かに君が負けちゃう前にさ」
「あ? そりゃねぇから安心しろよ。お前が負けなきゃそのうち戦うだろ」
ティリスティアは静かに、それでいてにこやかに握った手に力を込める。
目は完全に笑ってないな。
普通の人間だったら手の骨が砕けているんじゃないかというほどの力で俺の手を締め上げるが、生憎とこちらも頑丈に出来ている。
「……凄いね。本当に戦うのが楽しみになっちゃった。絶対私に当たるまで負けないでね」
「……ああ。そっちもな」
『え、なになに? これなんの時間?』
もしかしてこいつが何か企んでるんじゃないかと思ってこいつの【色】を確認してみた。
魂の色。邪悪な奴ほどどす黒い色が見えるものだが、こいつは……今まで見た事がないくらい真っ白に輝いていた。
ちなみにエクスは金色である。そんな所まで英傑王っぽいのが気に入らない。
「えー、皆さま。そろそろ準備が整って参りましたので会場の方へお願いします」
いつの間にか部屋に入ってきていた存在感の無い小柄な男がそれだけ言って部屋から出て行った。
エクスに連れられて俺達も会場の方へ。
俺達が通された場所は既にコロシアムの結界の中だった。
「皆様が戦うのはこの舞台上になります。そして……」
先ほどの小柄な男が「こちらへ」と俺達を一度結界から出した。
出入り口がある結界ってのも珍しいが、意図的にそこだけ結界の強度を低くしてあるのだろう。
「関係者及び試合を観戦される出場者の方はこちらの席でどうぞ。それでは私はこれで……」
周りを見渡すと大量の観客。俺達はまさに今見世物になっている。
観客たちも俺達の中で誰が英傑王になるのか、また誰の街へ行くかなど真剣に考えているのだろう。
ほどなくして、会場に大声が響き渡る。
「ヘイヘイヘイ! 年に一度のこの日がついにやって来た! 英傑達の頂点は誰だ!? 毎年のごとくエクスが守り抜くのか! それとも今年こそ新たな英傑王が誕生するのか!? それともそれとも? 今年は特別参加が二名も居やがるぜ! そのどちらもまさかの女性だ! 特別参加の二人の戦いにもこうご期待!」
「なんだこれどうやってこんな大声を……」
「初歩的な魔法具だ。上空に四角形の物体が浮いてるのが見えるだろう? あれから会場全体へ向けて声が拡大、拡散されているのだ」
隣りに座っているエクスが俺の疑問に答えてくれた。
やはりこの国では魔法と魔法具とやらで科学っぽい事を再現している。
ジオタリスが最初に乗ってきた空飛ぶロケットみたいなのは相当雑だったけれど。
「ふむ、どうやら組み合わせが発表されるようだ」
ステージ後ろにあるでかい板が電光掲示板のようになっていて、そこに俺達のトーナメント表が表示されていく。
第一試合
ジオタリス VS ゼット
ジキル VS ファナシス
クイーン VS ラピルタ
ジャンダーク VS ティリスティア
ディグレ VS レーヌ
ミナト VS クシェル
とりあえずいきなり俺、ジオタリス、クイーン、ついでにジキルが直接当たるような事は無かった。
……でも、あれ?
「エクスの名前ないじゃん」
――――――――――――――――――――
繰り返しますが、登場人物全員を覚える必要はありません(笑)
今までに出てきた人達、及びティリスティアくらいで十分です。
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