第150話:帝都エグゼスタ。


「とにかく、最優先事項は俺かエクスが王に会う事。次点でヴァールハイト、その次が呪いの解呪だ。そこの所理解してくれよな」


 帝都前までホールを使い移動してきた俺はロリナとぽんぽこにその辺を確認していく。

 イリスに関しては多分よく考えて無いと思うから好きにしてくれていい。

 いざって時の為の保険みたいなものだ。


 しかし、そのいざって時が起きない事を祈る。


 帝都の外からでも巨大なコロシアムが目に入った。

 わざわざ帝都の敷地をあんな物に割かなくてもよさそうなもんだがなぁ。

 それだけこの帝都自体が広いという事かもしれないが。


 検閲を済ませて帝都に入る。俺の身分証を見せると、「英傑王からお話は伺っております」と言ってサラッと通してくれた。

 さすが英傑王というだけあってこの辺の影響力は大きい。


「それにしても……やっぱり帝都では獣人は白い目で見られますわね……」

「帝都……エグゼスタは昔からこうだが、自分が獣人の姿になると痛いほど分かるな」


 帝都ってエグゼスタって言うのか。初めて知ったわ。


 街中を歩き始めるとぽんぽことロリナは少し肩身が狭そうに俺達の後を付いて来る。

 確かに帝都の連中は獣人が視界に入ると軽く

 目を細めて見下したような態度を取る。


 国の中心がこれでは……ガルパラとエクサーの平和具合を見てきたから感覚がマヒしていた。


 人々は獣人を単純に労働力としか見ていない。

 特別虐待をしているという感じでは無いものの、明らかに対等では無いし態度も明らかに違う。


 ガルパラとエクサーがどれだけ異質だったかがよく分かる。


「お前はこれを変えられるか?」


 俺の問いに、ぽんぽこは項垂れながら、しかし強い意志を宿した目をしていた。


「分かりません……でも、何年かかってでも変えてみせますわ」

「姫……! このロリナージャどこまでもお支えする覚悟です!」


 普段は横暴な口調だがこういう時はちゃんと忠誠心の強い従者になるあたりロリナもぽんぽこの事が人間として好きなんだろう。

 上に立つ者は優しいだけじゃダメだとよく言うが、優しくない奴より優しい奴の方がいいに決まってる。

 足りない部分があるならそれは周りが補ってやればいい。


「だったら俺も出来る限りの事はするよ。だから俺にも種族の垣根がなくなったリリア帝国を見せてくれ」


「ミナト様……。勿論ですわ! 一番近くでお見せするとをお約束しますわわ!!」

「ミナト貴様ぁぁ……!」


 ロリナの返事にロリナが俺を睨みつける。分かりやすいが盲信するあまりぽんぽこに逆らった奴は皆死刑とか言い出しかねないぞこいつ。


「お前の気持ちは嬉しいが……」

「まさか姫の気持ちを踏みにじるつもりかぁ……?」


「どっちなんだよお前は! はっきりしてくれ」

「勿論ロリナはわたくしの味方ですわよ♪ ねぇ、そうですわよね?」

「ぐっ……それは……はい」


 ロリナが再び鬼の形相で俺を睨む。

 こいつもしかしてぽんぽこの事人間としてとかじゃなくて普通に大好きなんじゃ……?


『これがてぇてぇってやつなの?』

 もうそんな所まで履修してきたのか……?

 でもなんかちょっと違うなぁ。

『あらそう? やっぱり私にはちょっと難しいわ』


 歩いているとコロシアムが大分近付いてきた。

「ん、確かこの店だったな……」


 エクスに待ち合わせの場所として指定されたのは、コロシアムから少し離れた場所にあるアンティーク屋だった。


 看板にはどこの文字だか分からない文字が達筆に書かれていて、パッと見なんの見せか全くわからないな。


 内開きのドアを開けるとカランカランと来客を知らせるベルの音が狭い店内に響き渡った。


 そこは見た事も無いような調度品が所狭しと置かれていて、俺には価値が一切分からなかったがそれなりに高価な物ばかりなのだろう。


 店の奥にはカウンターがあり、その向こうでよぼよぼの店主が鋭い眼光をこちらに向けている。


「……いらっしゃい、何をお探しで?」

「ちょっと飲みすぎちまって胃薬を探してるんだが」


 ぽんぽことロリナが俺に、何言ってんだこいつ的な視線を向けてくる。やめて、こう言えって言われてるんだから。


「ほっほっほ、それならいい薬があるから付いて来なさい」


 店主がよろよろと立ち上がり、杖をつきながらカウンターの裏にある扉に消えた。


「いくぞ。どうやらあの奥にエクスがいるらしい」


「英傑王が……? ふむ、そういう事なら」


 ロリナも納得してくれたらしく、俺の背中をどつく。

 奥へ進もうとした時……

「まぱまぱ見て見て! これ可愛いよ!」


 イリスが満面の笑みでグロテスクな何かを掲げた。


「ちょっ、そんな物持つんじゃない、早く戻しなさい!」

「えー、可愛いのに……」

「分かった分かった、後でゆっくり見にこような?」

「……うん♪ 約束ね」


 イリスは相変わらずセンスが不思議だ。


「ゴリアテの心臓を模した置物か……なかなか良い品に目を付けたものだ。貴様の娘は見る目があるな」


 なんだか妙に褒められてるけど親としては複雑な気持ちだぞ。


「それより早くあの爺さんを追うぞ。イリスは早くそれ戻しておきなさい」

「はぁーい」


「あ、あの……後でわたくしも一緒にここを見てみたいですわ」


 ……ぽんぽこがキラキラした瞳で見上げてくる。

 何を期待いるんだこいつは……それとも本当にここの品揃えが気になるのか?


「ダメ、ですの?」


「……お、おう、分かった」

「約束ですわよっ♪ さぁ、先へ急ぎましょう♪ モタモタしているとあの老人が老衰でひからびてしまいますわ♪」


 ……にこやかに物騒な事言うんじゃねぇよ。


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