第148話:アッシー君と縛りプレイ。


「へー、それで結局ごしゅじんはその英傑祭ってのに出るんですぅ?」


「出ない訳にはいかなくなっちまった、ってとこだな。俺は今でも出たくないんだが」


 あの後俺達はエクスの宮殿で一泊させてもらい、一度拠点に帰ってきた。


 英傑祭は一週間後。

 それまではゆっくり休んでおくように、との事だ。


 今回俺は無茶な戦い方をしたせいで頭が痛かったが、ゆっくり温泉に浸かった事もあって大分良くなっていた。

 あと一週間も時間があるのならそれまでには万全の体制を整えられるだろう。


 宮殿に泊まって翌朝、女性陣も温泉に入ってみたようだがかなりご満悦だったようである。

 頑張って作った身としては嬉しい限りだ。


「次は必ず私を連れていけ。ここまでお預けを喰らったんだ。英傑祭だけは必ず連れていけよ!?」


 ソファに横になってネコと喋っていたらいつの間にか俺に白いわんこが馬乗りになって襟首を締め上げてきた。


「く、苦しいって! 分かった、分かったから!」

「絶対だぞ!? 英傑祭は私と姫だからな!?」


 別にそれは構わないんだが……それだとあまり戦力的に期待は出来ないな。

 ロリナがどの程度やれるのかは未知数だが……。


 いや、英傑祭で俺が戦って、俺かエクスが王に謁見出来ればそれで問題ない訳で、他の戦力は考える必要はないのか?


 でもいろいろ不安なので少し無理してでももう一人誰か連れていこう。


「まぱまぱ、私はまたお留守番?」

「う……いや、そうだな。イリスも一緒に行こうか」

「やったー♪」


 いざという時の戦力としては申し分ない。やりすぎてしまわないかが少々不安ではあるが。


 とりあえず英傑祭、帝都へ向かう最終メンバーは俺、イリス、ロリナ、ぽんぽこの四人という事になった。

 他の連中に相談はしなかったので文句言われるかもしれんがその辺は大目に見て貰おう。


 ……と、思っていたのだが。



 いろいろあって俺はネコと二人で一度帝都前まで来ていた。別に二人旅がしたかったから、とかじゃない。


「あのーごしゅじーん」

「……なんだ?」

「アルマさんがですねぇ~一度帝都まで連れていけって言ってますぅ」


 俺はこの発言の意図を勘違いしていた。

 てっきりアルマが英傑祭にいくメンバーに入りたいとかそういう事かと思った。

 でも、アルマはそうじゃなくて、今すぐに連れていけと言っているらしい。


 せっかくしばらくゆっくりできると思ったのに俺はパシリにされた。いや、この場合は……なんだっけ? アッシー君とかいうやつだっけ? 足の為に呼び出される奴の事を昔そんな呼び名で読んでいたらしい。勿論日本の話だ。完全に死語であるが。


 とにかく俺は特に何も説明されないままネコを連れて一度エクサーまで行き、馬車を回収してそこから一日半かけて帝都前までやってきたわけだ。


「……で、ご用命通り帝都まで連れて来たわけだけれど一体これに何の意味があったんだ?」


 結局帝都前でチェックしておく事もできたので無駄では無かったのだが、アルマの意図が読めない。


「えっとですねぇ……アルマさんは、ご苦労でした。もう用は済んだので帰りましょう……って言ってますぅ」


「……はぁ? 待てよほんとに意味がわからん。何しに来たんだよ」


「えっとぉ、それはその時になってからのお楽しみよ……って言ってますねぇ♪」


 ……マジかよ。帝都に何か用があるわけでもなく、ここまでの道中に意味があったのか? 分からん。


 そして、帰るせよ帝都に知り合いなんかいないし馬車を預けっぱなしにするのもなぁ……。


「仕方ない。今回はちょっと頑張るか」


 まだ日にちにはゆとりがあるし何日か休めるから今日多少疲れても問題ないだろう。

 身体への負担という意味ならエクサーで大暴れした事の方がよほどしんどかったし。


 という訳でいつもよりかなり大き目なホールを開き、馬車ごと家まで帰ってくる事になった。

 これで次回はギリギリになってから必要な人数で直接帝都に乗り込む事が出来る。


 この時、アルマが何をしようとしていたのかは後になってから判明したのだがこの時の俺はそんな事知る由も無かった。


 それから英傑祭当日までの間、久しぶりに家でゆっくりと休む事が出来た。

 やたら綺麗になった家の中で、やたらと住人が増えやかましくなった日々を過ごす。


 前日の夜には夢の種のフルコースをオッサに作ってもらって気合を入れなおした。


 だってそうでもしないとやる気でないから。

 英傑祭ってのは術師が何人も集まってきっちり隔離された結界の中で戦う。


 その年の推薦枠がいくつあるかにもよるが、基本的にはトーナメント戦で、第一試合を勝ち残った者同士で第二試合、そこで勝ち残った者で準決勝、そして決勝……と駒を進めていく。


 ぽんぽこに話を聞く限り、投影系の魔法による巨大スクリーンも用意されているらしい。

 会場はコロッセオのようになっていて、中央に結界が張られた舞台があり、その周りにはびっしりと観客がいるのだとか。


 リリア帝国では毎年恒例の人気行事らしい。その結果次第でどの街に移住するかを決める奴等もいるくらいだそうだ。

 ガルパラには行きたくても行けない性別の奴等も多いだろうが、それ以外の街には移動できる。


 ただし、住人は一度登録を済ませると三年間は他の街へ移住できないそうで、妙な所を選べば三年苦労するし、英傑王の街のように人気な所は希望者が多くて抽選もあるのだとか。

 ただ、エクサーから出ようとする民はほぼいないらしいので受け入れ枠は毎年ほんの少し。相当な高倍率だと説明された。


 ほどほどの人気しかない英傑ほど必死に住民にアピールする必要がある。結果を出し、ファンを増やして自分の街へ来てもらう。

 そして住民が増えればそれだけ街としての収入も増え、街と英傑の生活が潤うという寸法だ。


 よく出来ているといえばそうだが、妙なシステムである。


 一通りその辺の事情を聞いてから気付いたのだが、俺には全く必要のない情報だ。


 強いて思う事があるとすれば、大勢の衆目の中で戦わなければいけないというのは俺にとってとても不利だなぁという事。


 力を出し過ぎれば騒ぎになるし、やりすぎてしまった時にアルマに頼る事も出来ない。

 俺が相手を治すにしても限界はあるからうまく加減しながら戦わなきゃならん。


 なんで俺だけそんな縛りプレイを要求されているんだ……?

 不公平だろうが。


 世の中イケメンと陽キャに甘すぎる。


『……今の流れイケメンとか陽キャに関係あった?』


 ……ほっとけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る