第147話:ミナト氏求婚される。


「あー、それ聞いて思い出したんだけどよ」


「む?」


「俺が魔物達の相手してただろ? あの時になんか喋る奴が一体居たんだよな……でっかい蛾に足が生えたみたいな奴がさ」


 確かそんなだった気がする。いまいち記憶にないけれど。


「おお、そいつだ。間違いないぞ。羽根を切り刻んでやったのに魔法で飛びよってな。余とした事が取り逃がしてしまったのだ」


 ……じゃあそいつに恨まれてただけじゃん。


「なんだそんな理由だったか。余に復讐しようとはなんと短絡的で浅はかな奴だ。しかしあれだけの魔物を用意できるという事はそれなりに強力な魔物だったのだろうか? してそいつはどうした?」


「いや、一緒にぶち殺しちまったから事情も聴けなかったんだけど……それならもう大丈夫そうだな」


 その蛾みたいな奴はおそらく魔王軍の幹部だったのだろう。あれだけの魔物を従えていた事から考えてそれなりの地位を持っていた可能性が高い。


 それならほんとにもっと詳しく吐かせればよかった。キララが今どうなっているのかも気になるし、魔王軍の今後の動向なんかを知れたらこちらも動きやすくなるのに……失敗したな。


『君が暴走しちゃうからねぇ……』

 アレは俺だけのせいじゃない。何度でも言うぞ。俺だけのせいではない!

『はいはい。私も悪かったわよー』


「ははは、そうかそうか……奴が原因であったか。余が打ち漏らした魔物も討伐してくれるとは大した物よ。これでこの街も安泰だ。このままであれば英傑祭は辞退も止む無しと思っていたがこれは僥倖僥倖」


「なんだかなぁ……でもここの問題だけでも片付いたのは良かったよ。エクスも協力してくれるみたいだしな」


「うむ、任せよ。してヴァールハイトの件だったな? 奴は現状この国の参謀と言ったところだ。どこから流れて来たのか知らんが王からは絶大な信頼を寄せられている」


 そんなぽっと出の奴をそこまで信頼する理由はなんだ? 元々知り合いだったとかだろうか?


「ヴァールハイトは得体のしれない男だ。余も奴を信用はしていない。だが王が自らの意思で奴に頼っているのも確かなのでな」


「何かしらの精神汚染を受けているとかは? 洗脳の類とか」


「……いや、それは無いだろう。余はヴァールハイトと王との三人で国の事で話し合った事があるが、王はしっかりと自分の意見をヴァールハイトにぶつけていたし、奴の意見を否定したりもしていたからな」


 洗脳の線は無くなったか……。

 そうなるとただ純粋にヴァールハイトが王を言葉巧みに騙しているか、王も一枚噛んでいるか……。


「しかしヴァールハイトめが何かを知っている可能性は高い。現在王は重い病との事で人前には出てこないのだ。それすら奴の仕業の可能性もある。真意を確かめねばなるまいな」


「英傑王ともなれば王に会うくらいは出来るんじゃないか?」


 直接話を通してくれると非常に楽なんだが……そううまくはいかないらしい。


「いや、それは無理だろうな。先ほども言ったが王はここの所人前に姿を現さない。王の言葉はヴァールハイトが代わりに伝えているような状態だ」


「ますますうさんくせぇなそのヴァールハイトって奴は」

「それには同意せざるを得ない。だが王に会わせろと騒いでも無駄だろうな。最悪の場合国家反逆罪に問われて一方的に悪認定されてしまうだろう」


 ヴァールハイトが黒幕だった場合、既に国を牛耳っている状態になる。

 奴が黒と言えば黒、白と言えば白な状態で俺達が強硬手段に出れば、恐らく面倒な事になってしまうだろう。


 そのまま一気に解決まで押し切れればまだいい。後はなんとかなる。だがそううまく行かなかった場合……この国全体を敵に回す事になってしまう。

 ダリアの時と同じだ。正直面倒すぎて考えたくない。


「そう悩む必要は無い。ちょうどいい方法がある。誰にも文句を言われずに王と直接相対する方法がな」


「……それは?」


「英傑祭だ。毎年英傑に選ばれた者は王に謁見し直接言葉を頂く。そしてその年の英傑王としての称号を授与されるという流れだ」


 ……なるほどな。そこでエクスが再び英傑王になれば直接王に確認を取る事が出来るわけだな。


「じゃあ英傑祭ではエクスに頼る事になるが、頼んでもいいいか?」


「……? 何を言っている。ミナトも参加するに決まっているだろう?」


 ……は?

 英傑王はさも当たり前のように白い歯を輝かせた。


「いや、俺英傑じゃねぇし。それともジオタリスにでも変装しろってか?」


「ジオ……あぁ、共に居た英傑の一人か。そうではない。お前がミナトとして英傑祭に参加するのだ」


「……え、やだめんどい……」


 英傑王が盛大に噴き出した。腹を抱えてジタバタとまるで子供のように。


「くっくっく……はーっはっは! やはりお前は面白いな。やはりそのまま女として生きて余の妻になれ」

「冗談きついぜ……」


「余は割と本気なのだがな……まぁいい。それよりだ、英傑から直接の推薦があれば英傑以外も参加する事が出来る。勿論優勝すれば新しい英傑として認められる」


 うぇ、じゃあ本当に俺が出る事も可能って事か。


「英傑祭に推薦されるのは非常に光栄な事なのだぞ? 一体何が不満なのだ?」


「いや、お前らにとって光栄だろうが名誉だろうが俺にとっては特に意味のない事だしなぁ……それに何より面倒だろ?」


「ふふ、やはり面白い奴よ。しかし俺はもうミナトを推薦すると決めた。覚悟を決めよ。それに……確率を高める為に二人で参加した方がよかろう?」


「……えー、やだなぁ」


『ここまで来てその反応が出来るのは本当に君らしいわね……』

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