第146話:混浴タイムと余の余。


「なるほど、これはいい。最高だ……疲れも消し飛ぶという物よ」


「……あんまこっち見るんじゃねぇよ」


「はっはっは! よいではないか。タオルは着用しておるだろう?」


「あのな、本来温泉ってのはタオルしたまま入っちゃダメなの!」

「ならばそれを取ればよかろう」

「な、なんで俺がお前に裸体を見せなきゃならんのだ!」


 心は男でもしっかり羞恥心はあるんだぞ!


「いやいや素晴らしい。ミナトと言ったな? このままこの街で俺の妻にならないか? 最高の生活を約束してやるぞ」


「ふざけんな! 俺は男だっての!」

「……なに?」


『あーあ、自分でバラしてやんの』

 ぐっ……。


「嘘をつくな。それだけの美貌、プロポーションを見せつけておいて男だと? 首をはねるぞ」

「いきなり物騒すぎるだろ……」


 ちょっと目がマジっぽくて怖い。


 英傑王は前を一切隠そうともせず、ザバっと立ち上がった。


「うわ、きたねぇもん見せるな!」

「ふむ。余の余を見てもその反応か。確かに女ではないかもしれん」


 お前自分の自分にどれだけ自身あんだよ……。


「まぁ冗談は置いといて、だ。詳しく説明せよ。今更何を聞いても驚かんし風潮したりもせん。それと……さうなとやらを試したいのだが?」


 はぁ……しょうがねぇなぁ。

『しょうがないにゃぁ♪』

 変な声被せてくるな。


 サウナ内でこれまでの事なんかを簡単に説明する事にした。

 こいつは苦手だしイケメンだし許せんが信用は出来る。


「ほう……なる、ほどな……お前達の状況、そしてお前の身体に起きている事もある程度理解した……」

「大丈夫か? 無理しないで先に出ていいんだぜ?」


 既にニ十分以上は熱気に包まれているので厳しくなってくる頃合いだろう。


「愚か者め! たとえどんな些細な事だろうと、余が負ける事など……ゆる、されぬ……」


 ばたん。

 英傑王がぶっ倒れた。


 ここのサウナは焼け石を中心に用意して水をぶっかけるタイプにしたのだが、最初に熱しすぎたらしく普通の人間にはかなり辛かったようだ。しかもサウナ初体験だしな。


 仕方ないので英傑王を担ぎ上げ、すぐ隣に用意しておいた水風呂へ放り込む。


「ぶはぁっ!! 貴様、何を……!」

「気持ちいいだろうが」


「……む? 確かに……たかが水でここまで……」


「ここまでがワンセットよ。覚えときな」

「うむ。これは良い物だ」


 英傑王がにっこりと笑う。

 糞イケメンが!


『それ怒るとこ……?』

 有能なイケメンは俺の敵なの。


 でもそんな奴が俺の作った温泉やサウナを褒めてくれるのはちょっと嬉しい。

『これが二人の出会いの始まりだった……』

 妙なモノローグ入れるなマジで。


「お湯しか湧き出してこない場所に水風呂用意するの大変だったんだぞ? 別の水脈からここの為だけに水路を引いてだな……」


「感謝する」


「……え?」


 英傑王が水風呂からあがり、ご立派な余の余を俺に見せつけながら感謝の言葉を述べた。


「最初はどうなる事かと思ったが、ここまでの物を作られてはな。完敗だ。余が出来る事なら何でも力を貸してやろう」


「マジか! 助かるわ!!」


 よっしゃ結果オーライって奴だぜ。

 それに英傑王と無駄に戦わなくて済んだのも良かった。めんどくさそうだし。魔物相手の方がまだ気が楽だわ。


『その結果もっと面倒な事になったんだけどね』

 それは俺だけのせいじゃない!


「そうだ、英傑王に聞きたい事があったんだ」

「エクスだ」

「え?」

「余の事はエクスでいい。それで、何が聞きたい?」


 大分心の距離が縮まった気がする。最初に会った時と比べると表情がかなり柔らかくなってる。

『これが二人の……』

 やめい!


「じゃあエクス、この街があんな量の魔物に襲われる理由だ。いくらなんでも不自然だろう? 心当たりあるんじゃないか?」


「ふむ……何故であろうな。余にはまったくもって分からん」


 なんの理由もなくあんな大群に攻められるのか?

『まぁ魔物の行動に理由なんて求める方がおかしいでしょ。幹部連中ならともかくね』


 ……いや、普通の魔物の群れがあんな風に攻め込んでくるのは違和感がある。

 だとしたらもっと上の、幹部とかそれこそ魔王とかから命令を受けて攻め込んできたと考える方が無難だろ。

『……確かにそれはそうかも』


「魔物の、それも幹部クラスの連中に狙われるような何かがこの街にあると思うんだが……」


 それを聞いて英傑王が首を捻る。本当に心当たりが何も無いのか?

 だとしたら今後も襲われる可能性がある。もしそうなったらこんな施設すぐにダメになっちまうぞ。


「この街が魔物に襲われるような理由は思いつかんな。もし何かあるとしたら余の方であろう」


 身体が冷めて来たのか、エクスが手近な湯舟に入りなおしながら天井を眺める。


 俺もちょっと冷えてきたのでもう一度湯舟に入りながら考える。


「エクスの方に理由が? 例えば魔物側にとって何か都合の悪い物を持ってるとか……」


「都合の悪い物、か……それだと先祖返りの秘伝書くらいな物か?」

「なんだその先祖返りってのは」


「うむ、このリリアに古くから伝わる呪いの経典みたいな物だな」


 へぇ。そんな物がねぇ……ん? ちょっと待てよ。


「ちなみにその先祖返りってのはどんな呪いなんだ?」


「なんでも獣人と人間の最初の戦争の際、敗北した獣人たちが使った秘術、とされていたな確か」


「……それかもしれねぇな。もしその先祖返りってのが帝都で使われた呪いだとしたら、その情報を持ってるエクスが邪魔になる事もあるのかもしれない……待てよ? それだと今回の呪いに魔物が絡んでるのか?」


 ぽんぽこが巻き込まれた呪いがその先祖返りってやつかどうかは分からないが、もしそうだとしたら完全に魔物絡みの事件だぞ……。


「いや、やはり魔物の襲撃は関係あるまい」

「なんで言い切れる?」

「この秘伝書は複数存在する。余以外にも持っている奴はいるだろうし、そもそもこんなもの誰も信じてはいない。何せ難解過ぎてほとんど内容が分からんのだからな。余も持っていると言っても街の図書館に一冊置いてあるというだけだ」


 ……それをわざわざ狙ってくるってのもおかしな話なのか?

 内容も分からない、エクス以外も持っている。

 だとしたらここだけを攻める理由にはならないか。


「もしかしたらアレかもしれん」


 英傑王が何か気が付いたように手をポンと叩いた。


「なんだ? なんでもいいから可能性があるなら言ってくれ」


「ひと月ほど前にな、住民が森で魔物に襲われたというので兵を率いて様子を見に行ったのだ」


「……それで?」


「そこには喋る魔物がいてな」


 喋る魔物なんて幹部の可能性が高いぞ何やってんだこいつ!


「それでどうした? そいつに何かしたのか?」


「いや、魔物は魔物だし居座られても迷惑だから八つ裂きにしたよ。あと一歩で止め、という所で逃げられたがな。絶対に許さんとか殺すとかぎゃあぎゃあ騒ぎながら消えていきおったわ」


 ……それじゃん。


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