第145話:エクストリーム建築。


「全く貴様という奴は一体何を考えているのだ! 余は魔物を殲滅せよと言わなかったか!?」


「それはお前の記憶違いだ! 俺はイルヴァリースの力を見せてみろとしか言われてない!」


「だからと言ってあの惨状は何事だ!? 民にどう説明すればいい!? 答えよ!! 貴様の頭の中には発酵したスライムでも詰まっているのか!?」


 ……そんな事言われたって。

『私知らないからね』

 いや、ママドラがあんな危険な混ぜ方したのが悪いんだろうが!

『何言ってるのよ。記憶の混濁に耐え切れなくなって暴走したのはミナト君でしょ!? はーなっさけない!』

 この野郎……!!


「何か言えっ! どう落とし前を付けてくれるのだ!? 」


「……ほら、その……あれ、全部お湯だからさ、温泉とかにしたら……いいんじゃない?」

「馬鹿者め! あんな巨大な温泉があってたまるか! 水深何メートルだ!? 直径何キロだ!? あんな所に民を自由に行き来させたら毎日のように死者が出るわっ!!」


 やべーめっちゃ怒ってるじゃん。

 英傑王は顔を真っ赤にして、毛を逆立てながら激昂している。

 ぽんぽこも彼のこんな姿は見た事がないのか苦笑いしながら一歩引いた所で見物していた。



「だ、誰か助けろ……! 擁護の一つもあったっていいだろ?」


 俺がぽんぽことジオタリスに助けを求めても、二人は眉間に皺を寄せながら静かに首を横に振るだけだった。


「貴様等に協力するという話は無しだっ! 早くこの街から出て行けっ!!」


「ま、待て! それは困る!!」


 ここまで来た意味も、魔物を討伐した意味も無くなっちまうじゃないか。


「ならアレをなんとかせよ!」


「……わ、分かった。それならこういうのはどうだ?」


 幸いにも俺の前世には今回の件に使えそうなのが居た。


「俺があのでっかい湖を温泉リゾート施設に作り替えてやるよ」

「……りぞーと?」

「ああ、誰もが安心して温泉を楽しめる施設だ。十分すぎる広さがあるから温水プールも作れるしいろんな種類の浴槽が作れるぜ? 男女別で分けたり混浴ゾーン作ったりな」


『やだいやらしい』

 混浴をいやらしいとか考えるのがいやらしいんだよ! あれはそれでもいい奴等が勝手に使ってるんだから見えたっていい奴等なんだ!


『うわぁ……謎理論きたわ』


 実際混浴と分かって入ってくるのならば見られてもいい奴等なんだと思ってたんだけど違うのか……?


 英傑王の反応を確認すると、顎に手を当て「ふむ……」とか言ってる。


「余はその施設の建設に一切投資しない。貴様等だけでそれを作れるというのであればやってみせよ」


 うわ、投げっぱなしやがった。完成させてからそれの出来次第で可否を決めるって事だろ? ずる過ぎる!

『いや、この状況だったらかなり妥当な判断だと思うけれど……』


「分かった分かった。それでいいから。俺に二日ほど時間をくれ。とびっきりのを作ってやるぜ」

「二日……だと? 馬鹿な事を。貴様等だけでそのような物を二日で出来る訳が」

「出来る。なんなら気合入れて今日中に作ってやってもいいぞ」


 英傑王は口を半開きにして言葉を失う。


「その代わり今日中にお前が満足のいく物を作り上げたらきっちりと協力してもらうからな」


「ふ、ふふふ……いいだろう。面白いではないか! 余を満足させるりぞーととやらを作ってみせよ!」


「待ってろよ、目ん玉飛び出るようなもんを作ってやっから!」


 俺はぽんぽこ達をその場に残したまま急いで街の外へ飛び出した。

 のんびりしている時間は無い。


 前世の中からとびっきりの建築士の記憶を呼び出し、頭の中で即座に図面を引く。

 俺の記憶なども加味した上で、現代風のリゾート空間を作り出してやるぜ。


 まず必要なのは温水プール、そして男女別の浴場、そして男女共に水着着用で入れる遊び場。あと混浴!


 それらをバランスよく配置し、更衣室や施設の外観なども設計していく。

 図面が一通りできたら後は各種魔法を駆使して土の強度を増しながら必要な物を組み上げていく。


 全て一人でやっていたので作業は相当大変ではあったが、土と水を操って素材を作り出すクリエイト系の魔法を使える記憶があったのでそれも最大限利用する。

 それを更に魔法でガチガチに圧縮してやればコンクリート以上の固さを再現できた。

 それらを操作しながら巨大な湖を温泉施設へと作り替えていく。


 ゲオルがその作業を見ながら隅っこで温泉に浸かり、「がんばれよー」なんて気の抜けた応援を飛ばしてくれた。

 多少はやる気が出て、それ以上に腹が立った。



 作業は日没までに終わらず、夜更けまでかかってしまったが、なんとか俺の思い描いた物を作り上げる事ができた。

 特に力を入れたのが男女共用の遊び場で、そこにはウォータースライダーなども設置してある。


 勿論雨が降っても平気なようにきちんと屋根も設置し、完全な室内施設状態にした。


 そして、敢えて湖そのままの部分もある程度残し、そちらにはアヒルボートを用意。

 湖は湖としても楽しめるようにしたわけだ。


 完成した頃、英傑王が様子を見に外まで出てきて顎が外れそうになってたのを見て俺は満足した。


「どうよ。ちゃんと湯は流れて入れ替わるようにしてるから水質が悪くなる事は無い。ただ温泉の方に入る時はちゃんと身体洗ってからってルール作れよ? その為の空間は作ってあるからよ。で、この施設に入るのに入場料とか、外の湖のボート使うのに使用料とか、適当に設定するといい。街の財政にも役に立つだろう」


「馬鹿を言うな……それどころか、これほどの物が出来たらリリア帝国一の目玉として売り込めるぞ……他の街からも人を呼べる。これは完全に想像以上だ」


「そうだろうそうだろう!」


 俺の渾身の作品だからな。もっと褒めていいぜ!


「ちなみに男女それぞれ温泉のほかにサウナ室も作ったから使うといい」


「……さうな?」


 あぁ……まずはサウナ文化を説明するところから始めなきゃいけねぇのか。


「物は試しだからちょっと付き合えよ」


 英傑王にまず使って貰って判断してもらうのが一番だからな。

 俺も疲れたから風呂入りたいし。


『まさか混浴第一号がミナト君と英傑王になるとはね』


 ……えっ?

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