第142話:英傑王。
「次の人どうぞ」
宮殿へと続く長蛇の列に並ぶこと四時間。
一組、また一組と大きな扉の向こうへと入っていき、ほんの数分で出てくる。
それを繰り返してやがて俺達の番がやってきた。
俺の身長の倍はある高さの扉を衛兵二人が左右から毎回扉を開いては閉じてを繰り返している。
無駄な労力のように思うがこの人達は仕事に誇りを持っているか、楽しんでいるかのどちらかのようで、にこやかに並ぶ人達へ微笑みを向けていた。
思っていたよりも余程平和だし、住んでいる人達の人間性が他の街に比べて格段に良質だ。
なにせ獣人の外見をしているぽんぽこに差別的な視線を向けない。
ガルパラでもそうだったけれど、あれは女性限定だ。
ここでは男女問わず人間と獣人が普通に接し、暮らしている。
意外とこの国ではこれが普通なのでは? と錯覚してしまうほどだ。
それが絶対的に間違いなのはウォールの奴隷市場を見れば分かる。
しかし、逆に言えば統治の仕方、民の導き方で改善していく事が可能だという事だ。
扉を通り抜けると目の前に階段があり、その上にはまるで王の玉座のような物があった。
「要件を聞こう」
そこに座り、椅子に肘をついてこちらを見下ろしていたのは金髪、切れ長の目、整った顔立ち。どう見てもイケメンだ。つまり俺が嫌いなタイプの人種である。
そして、こういう奴って漫画やアニメなどによくいるタイプで、俺にも似たようなキャラに心当たりがあったりする。
そしてこいつにそれが当てはまるとしたら、有能だけどかなり性格に問題がある。
「ヴァールハイトについて知っている事を教えてほしいんですわ!」
……おい、突然そんな事言ってもただの不審者だぞ!
「……ふむ、それを余に聞きに来た理由はともかくとして、なかなか良い所に目を付けたなタヌキよ」
「タヌキじゃありませんわーっ! わたくしは……」
「待て」
英傑王が掌をこちらへ翳しぽんぽこの発言を遮る。
俺とジオタリスに緊張が走った。
英傑王が俺達を不審者だから捕まえろと言えばそこから先は実力行使をせざるを得ない。
行列に並んでいる間にジオタリスに聞いたのだが、英傑王は多分ジオタリスの事など知らないだろうという事。
有能な人材にしか興味が無く、英傑の中に自分を楽しませられる人間は居ないと思っているため他の英傑が誰なのかなど覚えてないだろうとジオタリスは語る。
つまり、こちらにも英傑がいるのだから本当の話だぞ、という説得の仕方は無理という事だ。
「……ふむ、近いな……おいバートン!」
「はっ」
「この者達以降並んでいた者どもは後日に出直すように伝え、エクサー全体に警戒態勢をとれと伝えよ」
英傑王がそう告げると、バートンと呼ばれた部は顔を青くして「畏まりましたっ!」と扉を蹴り飛ばす勢いで飛び出していった。
扉前の憲兵も、並んでいた人々も、バートンの「警戒態勢発令! 警戒態勢発令!」の叫び声に蜘蛛の子を散らすように消えていった。
「……さて、人払いも出来たな。こちらも事情があるので余があけられるのは五分のみだが詳しい話を聞こうか、姫よ」
「「「へっ?」」」
ぽんぽこ、ジオタリス、そして俺、三人の声が見事にハモった。
「ど、どうしてわたくしがポコナだと気付いたんですの?」
「確認に割く時間は無駄だが答えてやろう。姿が違えど王家の人間には特有の波長がある」
……英雄王には何か人とは違う物が見えているのだろうか? 俺が相手の心の色が見えるのと似たような力かもしれない。
「時間が惜しい、本題に入れ。姫と……あとそっちのは確か英傑の一人か?すまんが名前までは記憶していない。そちらの女は……知らんな」
この街に何か重大な事が起きているようなふうだったのに全く態度を変えずにどっしりと構えたまま。
「わ、わたくしは獣人の姿に変えられてしまいましたの!」
「それは見れば分かる。それがヴァールハイトの仕業だと?」
「わかりませんわ。しかし一番疑わしいのはヴァールハイトですの!」
ぽんぽこは眉間に皺を寄せながら必死に質問をしている。
彼女が何を言ってもまるでそよ風が吹き抜けただけのような反応。そして無駄はとことん切り捨てようとしてくる。
こりゃ確かに相性悪いな。
「そこの女、見た所一番賢そうだから要点を纏めろ」
ついに指名されてしまった。今必要な話だけを総合すると……。
「俺達は帝都内で発生した事件の解決の為に動いている。姫だけじゃなくロリナージャや帝都に居た住民たちが何人か巻き込まれた」
「ほう、なるほど」
少しは興味を持ったのか、体勢が若干前のめりになったように思う。
「英傑達を訪ねながら情報を収集していたのだが、どうもヴァールハイトが怪しい。それでクイーンが英傑王に聞いてみるといいって言うからここまで来たんだよ」
「理解した。しかしその外にもいろいろと聞かなければならない事がありそうだ。……が、時間切れだな」
時間切れ、というのは最初に言ってた五分の事だろうか?
「今何が起きてる?」
「貴様等には関係の無い事だが……いいだろう。この街は数日前から頻繁に魔物の群れに襲われていてな」
……嘘だろ? 街の連中の様子を見る限りまったくそんな気配が無かった。
「その度に一応形だけでも警戒態勢をとらせて備えているのだが……まぁそんな必要も無い。余が障壁を張るので何人たりともその間街へ侵入する事はできない」
「……街を覆い尽くすほどの障壁を? 魔物はそんなにすぐに諦めるのか?」
「馬鹿か。半日は居座っておるわ」
即レスで馬鹿扱いされてしまった……。
「だったらそんな大規模な障壁いつまでも張ってられないだろう? どうする気だ」
「ふん、これだから凡人は……余にとってその程度は容易い事よ。難点があるとすれば撃退に動けない事だ。余が動けば魔物を皆殺しにするくらい容易いが、街への侵入を許してしまう可能性がある。民に危険が及ぶような真似はできん」
なんだこいつめっちゃまともな奴だ……。
顔がよくて強くてまともな奴だ……。
俺こいつ嫌い。
『ぶはっ!』
ずっと黙っていたママドラが噴き出すのが聞こえた。
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