第141話:異世界の夢の国。
「で、その英傑王ってのはどんな奴なんだ?」
馬車は再びジオタリスに任せ、ガラゴロと揺られながらぽんぽこに尋ねる。
相変わらずゲオルは荷台の上で遠くを眺めている。馬鹿となんとかは高い所が理論だろう。
「そうですわね……一言で言うなら、強い。ですわ」
「へぇ、英傑王なんて言うくらいだから十二英傑の中で一番強いのか?」
「そうですわね。毎年行われる英傑祭で四年連続英傑王の称号を得ている方ですから」
「英傑祭?」
ちょっと俺の認識がおかしかったのかもしれない。俺が思っていた十二英傑ってのは歴戦の英雄だかなんだかで、その中で一番強い奴が英傑王と呼ばれている、みたいな感じだったのだが……。
「毎年帝都に十二英傑を集めてトーナメント戦を行うんですわ。優勝者は向こう一年間、王に次ぐ権力を得る事ができ、英傑全てを従える事が出来るというわけですわよ」
あぁ、やっぱりそんな感じか。
でも英傑を集めて、って事はそのトーナメント戦で英傑が入れ替わったりする事はないみたいだ。
やはり英傑自体は戦いの中でそれなりに戦果を挙げた者達なんだろう。
「最強の英傑と呼び声が高く、毎年圧倒的な強さで優勝しておりますの。しかも全く本気を見せている様子がないのが凄い所ですわ。態度も最強ですけれど」
ぽんぽこが肩をすくめながらため息を吐く。
態度も最強、って事は純粋に態度がでかいって意味だろう。四年間も連続で頂点に君臨するような奴なら天狗になっても仕方ないか。
「そいつは協力してくれそうか?」
「わかりませんわ。あの人の考えはかなり特殊なので……あっさりうまく行くかもしれませんし、どうお願いしたって無理かもしれませんわ」
めんどくさそうな奴だなぁ……しかし十二英傑全てを従える、ってのがポイントだ。そいつからの協力を得られれば十二英傑全てを掌握したと同意なのだろうか? だとしたら何としてでも仲間に引き込みたいところだが……。
「おーいミナト、なんか見えてきたぜ」
ゲオルの声に荷台から顔を出すと、俺の視界に入ってきたのは、なんというか……玉ねぎ。
そう、アラビアン系って言えばいいのかな? 上の方が玉ねぎみたいに丸くなっている巨大な宮殿だった。
「……アレが英傑王の?」
「そうですわ。趣味が悪いでしょう?」
確かにこれは……。本当にこんな所に住んでるのか? 本格的に王族と変わんねぇじゃねぇか。
「わたくしあいつ嫌いなのでエクサーには数回しか来た事ありません。だから詳しくは分りませんけれど、英傑王エクスはあの宮殿の一番上に住んでると聞きましたわ」
今のぽんぽこの話で分かった事が二つある。特に説明受けてなかったしこちらも聞いてなかったが、この街の名前はエクサー、英傑王の名前はエクスらしい。
自分の名前を街に付ける時点で自尊心の塊なのが予想できる。
エクスの統治する民、領土がエクサーってとこか?
完全にヤバい独裁者臭がするぞ……。
「あー止まって止まって」
馬車がエクサーの外壁前まで到達した所で、見張りに声をかけられる。
ここでも入るのに審査とかされるんだろうか?
まぁジオタリスが居るから大丈夫だとは思うが。
「旅の人かい? この街はいい所だからのんびり観光でもしていきなよ~♪ ちなみにおススメはエクサー饅頭と夜しかやってないバニバニ喫茶……おっと、女の子を沢山連れてるみたいだからその話はやめとこうか。じゃあどうぞ。ごゆっくり」
……あっさり通してくれた。荷台の中もチラっと覗いただけで荷物検査とかそういうのも無かった。
ジオタリスが英傑だとか、そんな確認もしない。身分証すら求められない。
「こんなザルな感じでいいのか……?」
「ここの連中は英傑王の信者みたいなもんですわ。何かあっても全て英傑王が解決してくれると信じているんですわよ」
……なるほどね。住民はただ英傑王を信じて任せておけばいい、あとは何とかしてくれる。そういう事か。
どうやら俺が思っていた独裁者とはちょっと違うのかもしれない。
英傑王とやらに興味が出て来たな。いったいどんな奴なのだろう?
エクサーの街はどこもかしこも活気があって賑わっており、いろんな店がひしめいていた。
「……いい街じゃねぇか」
「英雄王さえまともなら激しく同意ですわ」
そんなに問題がある奴なら街がこんなまともに機能しないと思うんだがなぁ。
「人だらけで眩暈がすっぞ何人か張り倒していいか?」
ゲオルが馬車から飛び降り、腕をぐるぐる回しだしたので必死に止める。ほんとにこいつ人里に向いてないんだよ誰か一般常識を叩き込んでやってくれ……。
「ちっ……鬱陶しいぜ……俺はしばらく街の外プラプラしてっからよ! なんかあったら呼べや! じゃあな!」
「おい待て……って、もう行っちまいやがった……なんなんだあいつ」
本当に協調性の欠片もねぇ。
放っておいたらじゃまだからって服すら全部脱ぎかねないような奴だからな……。
初めて会った時に最低限服を着てた事が奇跡に思えてきた。
俺が馬車を預り所に預け、戻ってくるとジオタリスとぽんぽこが何やらキョロキョロしながら話をしていた。
「ひ……じゃなかった、ぽんぽこ、どうする? 少し街中でもうろつくか?」
「正直興味が無い訳ではありませんが……嫌な事を後回しにすると成長できない気がしますわ」
まるで夏休みの宿題か何かだな。ぽんぽこにとってはそれだけ大きな壁って事だろう。
向き合おうとするのは良い事だが……。
「で、どうやって英傑王に会いに行く? またジオタリスにでも動いてもらうか?」
「いえ……おとなしく待ちましょう」
待つ……?
待ってりゃ会えるなら世話ねぇぜ。……なんて、この時の俺は思っていた。
まさか本当に待てば会えるとは思わなかったし、行列に並んで四時間待たされるとは思わなかった。
ここは舞浜かな?
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