第143話:六竜であるという事。
「……む、これはまずいな」
言葉は冷静に、だが確実に焦った様子で英傑王が立ち上がる。
「おい、どうかしたのか?」
階段をゆっくり降りてくる英傑王の額に汗が浮かぶ。
「……ダメだ。余の障壁では耐え切れない」
突然、今まで余裕の表情だった英傑王が急に弱気な事を言いだす。
しかし、ハッと顔を上げ、今度は困惑の表情を浮かべた。
「なんだ……? これは、どういう事だ」
「こっちにはまったく状況が分からねぇんだが何がどうなってる?」
「……貴様らに説明する意味があるかはひとまず置いておこう。この街の外に化け物が現れた。巨大で、強大で、人知を超える何かが」
……?
『あんの馬鹿……』
ママドラのその一言で全てを悟ってしまった。
「だから余の障壁は破られてしまうと、そう感じたのだが……どういう訳かその化け物は魔物と戦い出したようだ」
「……」
どうしよう。
奴の事を言うべきか? でも英傑王が化け物呼ばわりするような奴がこちらの仲間だと知ったらこいつはどう思う?
「……貴様等、何か知ってるな?」
「なっ、何を根拠に……」
「表情、表皮温度の上昇、そして今の発言、声の上ずり、全てが何か知っていると示している」
な、なんだこいつ……! やばい俺こいつめっちゃ苦手かも!
『君が得意な相手なんて居るのかしらね?』
「ミナト様、これは言うべきですわ」
「ミナトちゃん、俺もそう思う。外のってゲオルだろ?」
英傑王の眉がピクっと反応したのが見えた。
聞き流してはくれないよなぁ。
「……今、ゲオルと聞こえたが六竜のゲオルか? 今、六竜が外に?」
「……」
どうする? 何が正解だ?
『じれったいわね。話を進めるにはさっさと必要な情報出した方が早いわよ。ちょっと代わりなさい!』
「わっ、馬鹿っ! ダメだって!」
「……女、一体何を……ッ!?」
英傑王が腰にぶら下げた剣を抜いた。
奴はかなり感覚が鋭いらしい。俺達の体温変化まで分かったみたいな事言ってたし、何かしらの能力か?
「あら、貴方は私の事ちゃんと理解出来ているみたいね?」
「な、何者だ……! 人が、発していい気配ではないッ!」
「私の名前はイルヴァリース。ちなみにさっきまでのはミナト君だから覚えてあげてね♪」
「い、イルヴァリース……だと? このリリア帝国に六竜が二体も……」
……アルマも居るんだよなぁ。言わないけど。
「で、物は相談ってやつなんだけれど」
「六竜が余と交渉を望むか……ふふ、いいだろう。なんなりと申せ」
「私と外の馬鹿が魔物全部ぶっ倒してあげるから私達に協力してよ」
なるほど。確かにママドラのやり方が一番手っ取り早い。
こいつなら六竜だときちんと理解できるし、交換条件としてエクサーを守る代わりに協力しろ、というのは相手も受けざるを得ないだろう。
「断る」
……断られてんじゃねーか。
「あれー? うまくいくと思ったんだけどな」
おいおい、どうするんだよこれ。
「まず第一に貴様らが味方である保証がない。第二に、いかなる無理難題を要求されるか分からない」
「うぐぅ……」
うぐぅじゃねーんだわ。何か言い返せ、ほら、何かあるだろ!?
「うぐぅ」
ダメだこいつ!
「イルヴァリース様達はわたくし、リリア・ポンポン・ポコナの命の恩人ですわ! それでは信じるに値しませんか? そして強力してほしいというのは帝国内で起きている問題の解決、そして獣人と人間の和解です! これでも納得できないのならば英傑王などやめてしまいなさいっ!!」
驚いた。ぽんぽこの奴がママドラを押しのけてなかなかの啖呵を切った事もそうだが、明らかに彼女の言葉を聞いた英傑王が苦悩の表情を浮かべていた。
ジオタリスは口をはさむべきではないと思ったのか、それとも挟めなかったのか……じっと無言でぽんぽこを見ていた。
案外俺と同じように感心していたのかもしれない。
「どうなんですの!? 決めなさい。今、すぐに!!」
「分かった。いいだろう、では六竜イルヴァリースの力、存分に見せてもらおうか」
「残念だけどやるのは私じゃなくてミナト君よ。私とミナト君は一心同体。超絶完璧美少女ミナトちゃんの言葉は私の言葉だと思ってね♪ それじゃあと宜しく」
お前はいつもいつも……。
「面倒な所は全部押し付けやがって……まぁいい。イルヴァリースから紹介があったミナトだ。俺が行ってなんとかしてくるからそれまでぽんぽこ……姫の事は頼んだ」
「承った。超絶完璧美少女のミナトとやら」
「あぁ、任せろ。あとその呼び方はやめて」
皆に背を向けた所でジオタリスに声をかけられる。
「ミナトちゃん、戦いに行くなら俺も……」
「んー、ごめん。邪魔」
「そ、そうだよな……すまない」
そんなに凹むなよ。俺が悪い事したみたいじゃないか。
「お前が弱いとかじゃない。多分広範囲の敵を相手にするから巻き込む可能性考えると本気出せないんだわ」
「……分かった。気を付けてくれよ」
「おう、行ってくる」
英傑王達と別れ、外に飛び出したはいいものの……さてどうしたもんかな。
街を走り外へ向かっていると、空には大量の魔物。恐らく地上にもかなりの数が来ているだろう。
それらを殲滅しろというのなら頑張るけどさ……アレはなんなんだよ。
『だからゲオル』
……いや、聞いてねぇって。なんであんな事になってんの? 俺必要?
空を埋め尽くすほどの魔物達が一斉に飛び掛かっている相手、それは魔物達よりも一段階高い場所を悠々と飛び回り、まるで遊んでいるかのように魔物を鋭い爪で切り裂き、巨大な顎で噛み砕いている。
「あんなバカでかい竜がゲオルだっていうのかよ」
この世界にだってそりゃドラゴンくらい居る。俺だって実物を目にする機会なんて無いが、ドラゴンにまつわる話はいくらでも耳にする。
だけど、あんなの俺の知ってるドラゴンの十倍じゃきかねぇだろうがよ……。
まるで巨大戦艦だ。
『六竜が普通のドラゴンと同じわけないでしょ? 六竜ってのはそういう事。あれが本来の姿なんだってば』
……マジかぁ。
ママドラもほんとはあんなのなのか……。
『なっ、失礼ね! 私はもっと美しくてエレガントよ!! 六竜が人型してるのはあの巨体の燃費が悪いからとか小回りきかないとかお洒落出来ないとか可愛くないとか生で丸かじりしかできないとかいろいろ事情があるんだからねっ!?』
その理由はあまり聞きたくなかったが……こうして実物を目にしてやっと実感する。
お前ら、本当に六竜だったんだなぁ。
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