第132話:ガルガンチュアパライーソ。


「ガルガン……なんだって?」

「ガルガンチュアパライーソですわよ。ここのクイーンは二代目ですの。前はガルガンチュアという方が派遣されておりましたがご高齢で亡くなったとかでクイーンに引き継がれたんですわ」


 なるほど。名前的におそらくガルガンチュアとかいうやつは男か? 許せん。爺になっても女に囲まれて生きていきたかったのか。


「ちなみに女性だけの街になったのはクイーンが来てからですので誤解なきように」


「……」

『ミナト君……君はね、もう少しだけでいいからその卑屈さを治した方がいいわよ?』


 ……うん。


「むしろガルガンチュアは黒薔薇団なる特殊な騎士団を中心に屈強な男性を集めてこの街を守っていたとか。昔父上が遠い目をして話していましたわ」


「……うわぁ」

『……うわぁ』


 そして俺達はガルパラにとうちゃくした訳だけれど、街全体が大きな壁に囲まれていて中は全く窺い知る事が出来ない。

 こっちの方がウォールという名前に相応しいようだった。

 男には覗き見すら許さないという明確な意思が見て取れる。


「よし、通っていいぞ」


 ここの審査とやらを受けたのだが……一人ずつ個室に連れていかれて、まず全身身ぐるみはがされる。

 つまり、裸にされてじろじろ見られる。それどころか身体のあちこちをメジャーのような物で計られ、審査員はそれを書類に記入していく。


 これはいったい何の審査なんだよ……。


『ドキドキした?』

 そりゃするだろうよ。すっぱだかになるのだけでも俺からしたら異性相手なんだぞ? 女の身体だからといって平常心じゃいられないっての。


『あちこち触られてたものね』

 触られるのは勿論だが、いろいろサイズ計る時にあっちが密着してくるだろ? ぶっちゃけそれが一番心臓に悪かったわ。


『ドスケベ』

 くっ、何も言い返せねぇ……。


 審査が終わると俺達は街の中に通され、そこでやっと全員合流という事になる。


 イリスは何も気にしてない様子であっけらかんとしていたが、何故かネコは結構恥ずかしそうにしていた。


「ごしゅじん以外にぺたぺた触られるのはちょっと……」


 だそうである。俺だったら自由に触ってもいいという事だろうか?

『だと思うけれど……するの?』

 しねーわ!


「まったく失礼な奴等ですわっ! このわたくしの正体を知ったら泡を吹いて倒れますわよきっと」 


 ぽんぽこはぷんすか怒っているが、街に入る為に一応大人しく審査を受けたらしい。偉いぞ。


「さて、久しぶりのガルパラですからいろいろ見て回りたい物ですけれども……そんな暇もありませんわよね」


「とは言ってもなぁ……いったいどこへ向かえばいいのやら。ぽんぽこはクイーンの居場所知ってるのか?」


「以前は軽く案内してもらっただけですので詳しい事は分りませんわ。その辺の人に聞き込みするしかないのではなくて?」


 周りを見渡すと、本当に治安のいい街で、至る所に噴水や煌びやかな飾りが施されており、女性たちが賑やかに、そして楽しく幸せそうに暮らしていた。

 そこに人間も獣人も関係ない。

 にこやかに微笑み合いながら世間話などをしている。


 ……やりゃあできるんじゃねぇかよ。

 ここには人間と獣人の間に差別は存在しない。


「どうしてここの連中はこんなにも獣人を気にする事なく接する事が出来ているんだ?」


「それはわたくしには分かりませんわ。ただ、リリア帝国全体をここのように出来れば……わたくしはその為に……」


 ぽんぽこが遠い目をしながら街並みを眺める。

 この国をどうにかするならこの子をトップに据えるしかない。

 そして、国中の偏見や差別意識を無くしていかなければ達成は不可能だ。

 その為のヒントを得る為にもクイーンにはいろいろと話を聞かなければならない。


「ごしゅじーん、イリスちゃんがナンパされてますよぅ?」

「なんだと……?」


 ここは女しかいない街だろう? なんでイリスがナンパなんて……。


『女しかいない街なら女の子にしか興味がない人が沢山いてもおかしくないわよね?』


 あぁ、確かにそうだな。

 というかのんびり構えてる場合じゃない。

 イリスに声をかけてる奴が危ない!


「おいイリス!」

「……ん、まぱまぱどうしたの?」


 イリスは何事も無かったようにこちらに振り向く。


「おっ、もしかして貴殿はこの子の母親なのだろうか?」


 イリスに声をかけていた人物がこちらに話しかけてきたけれど、初見で俺の事を親だと思うか普通。


「クイーンじゃありませんの!」

「えっ? こいつがクイーン?」


 そうか、クイーンには俺達の情報が伝わってるんだったな。


「お初にお目にかかる。私はここガルパラを任せられている十二英傑のクイーンだ。どうやら君達はダリルから来た客人のようだな? おっと、警戒しなくていい。私は女性であれば誰だろうと、どこから来たどんな種族であろうと歓迎するよ」


 クイーンは身長が百七十くらいある高身長、モデル体型で明るい金髪ショートカット。まるで王子様のような風貌だ。


「ただ……一つ分からない事があるんだ。そこの獣人さんは一体どこの誰だい? 私は誰でも女性は歓迎するが犯罪者だけはダメだ」


 犯罪者。ぽんぽこが? 

 どういう意味だろうとぽんぽこの方を見ると、本人はケラケラと笑っていた。


「? 私は面白い事を言った覚えはないが」


「いいえ、十分面白かったですわよクイーン。いえ、サイーダ家のカフェリオルとでも言えばいいかしら?」


 ぽんぽこがそう言い放った瞬間、一瞬だけクイーンはとてつもない殺気を放った。

 が、その直後……。


「なっ、えっ? 嘘っ、そんな馬鹿な……あ、あの身分証は、本物……?」


 突然クイーンが顔を真っ青にして歯をガタガタ震わせ始めた。


「いろいろ事情があるんですわ。貴女にどうやって接触しようかと思っておりましたが自分から出てきてくれて助かりました。ここではいろいろし辛い話もありますのでどこか静かな所へ案内してもらえるとたすかりますわ」


「え、その……はい……分かりました」


 どうやら審査の時にポコナ姫の身分証をこいつが持っていたので罪人としてクイーン自ら出張ってきたらしい。


 それが結果的には都合がよかったのだが、そんな事よりも俺的には一国の姫ともあろう者がきちんと身分証を持ってるという事に驚きを隠せない。


 プリンセスとでも書いてあるのかねぇ?



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