第129話:燃えないゴミ。
戦闘終了後、部屋の隔離を解除しジキルを縄でぐるぐる巻きにしてからその顔面を治してやった。
毛髪については回復魔法じゃ生えて来なかったので面倒だからそのまま。
「おい起きろ」
ジキルのほっぺたをぺちぺち叩くと、「ん……んぁ……」とうっすら瞼が開いた。
「俺を殺さないのか超絶完璧美少女のミナトちゃん」
「その呼び方をやめなかったら殺すかもしれん」
そんな俺をジオタリスが「まぁまぁ落ち着いて」となだめてくる。
完全にママドラに遊ばれてしまった……。
「凄いですわ凄いですわ! 英傑相手に……まるで赤子の手を複雑骨折ですわ!」
物騒な言い方やめて。
「……ミナトちゃん、何故俺を生かしておく?」
「ぽんぽこ……姫さんとジオタリスが殺すなっていうからよ」
「本来なら貴様など切り刻んで魔物の餌にでもしてやりたいところだがな!」
アリアはかなりご立腹のようだ。滅多にここまでの過激発言はしないんだが。余程こいつの事が嫌いらしい。
「まだ聞きたい事があるんだよ。ヴァールハイトって奴について何か知らないか?」
「ヴァールハイト、か……あいつはいつだったかフラっと現れたんだ。確か……誰か英傑が連れて来たんだったな」
英傑に連れられてきた?
「それが誰なのか覚えてないか?」
「待ってくれ。ミナトちゃんの頼みとあれば、なんとか思い出すから」
ぞわりと背筋に悪寒が走る。
ママドラのせいだからな……!
『それは呼び名だけよ。惚れられたのは君の魅力ってやつね♪』
くそ、納得できん……。
「そ、そうだ。確かアレはクイーンだった。男を連れてるなんて珍しいなと思った覚えがあるから間違いない!」
「クイーン? そいつはどんな奴なんだ?」
名前が出たのでぽんぽことジオタリスに確認すると、二人とも口をぽかんと開けて固まっていた。
「く、クイーンが男を連れてきた、だと? それは本当なのか?」
「にわかには信じられませんわね……」
どういう事だよ。男を連れてくるだけでここまで言われる奴って……?
「本当だ。あの日は俺が偶然帝都に呼び出されていて奴隷市場の定期報告に行ってた時だった。クイーンが男を連れて歩いてたから、とうとうお前も男に興味が出たのかよって冷やかして、ビンタされた。今思えばあの時の男がヴァールハイトだった。間違いねぇ」
推察するに、クイーンという英傑は男が嫌い? とかそんな感じらしく、そんな奴が男を連れていたから印象に残っていたらしい。
「それ以上の事は知らねぇ。ヴァールハイトがなんであんなに王に気に入られているのかも分からねぇよ」
「……そうでしたのね。クイーンが……」
「だとしたら困った事になったな」
姫とジオタリスが腕組みして唸り出してしまったので、「なんか問題があるのか?」と聞くと……。
「いや、クイーンの居る街はガルパラっていうんだけど……男は入れないんだよ」
……は?
「確認するが、街なんだよな?」
「そうですわ。クイーンの意向で女だけの街になっていますの」
『あら楽しそう♪』
俺は嫌な予感しかしないんだけど。
「その代わりと言ってはなんですが、クイーンは私と同じく獣人に偏見は無いですわよ」
「えっ、英傑の中にもそんな奴いんの?」
俺の問いにジオタリスとジキルが目を合わせ、同時に呟いた。
「「あいつは……特殊だからな」」
「待て、どういう意味だそれは」
「何と言ったらいいんでしょう……クイーンはその、男が心底大嫌いでして、女の人なら人間でも獣人でも分け隔てなく愛すると豪語していましたわ」
……英傑ってのはまともなのがおらんのか?
「で、でも……獣人に偏見がないのならぽんぽこの話もちゃんと聞いてくれそうじゃないか?」
「そうですが……ジオタリスが入れないのでどうやってわたくしの事を信じて貰おうかと」
あぁ、なるほどね。でもそれはそこまで苦労しない気がする。
「相手が話の分かる奴だってんならロリナ連れて行けばいいじゃないか」
姫の世話役で、しかも英傑の一人だ。
獣人の外見になっているとはいえ話せばある程度本人だと信じてもらえそうな気がするが。
「……そう、ですわね。それしかないかもしれませんわ。ちょうどガルパラは通り道ですし……あっ、そうだ信じてもらうのにいい方法を思いつきましたわ♪ きっとわたくしの言葉を信じざるを得ませんわよおーっほっほっ♪ さぁ、そうと決まればクイーンと話をしに行きましょう」
急にテンション上がったなこいつ。何かいい方法があるって言うならぽんぽこに任せてみるか。
「よし、次の目的地も決まったし一度家に帰ろうか。ここを中継地点にして出直せばいいしな」
チェックポイントとワームホールを覚えておいて本当に良かった。いつかこんなふうにまた旅をする事になるかもと思って習得しておいたが正解だったな。
「ミナトちゃん、ジキルは……どうする?」
ジオタリスが憐れみの視線をジキルに向けると、ジキルは「貴様の情けなど要らん! 殺すなら殺せ! だが俺を殺すのは超絶完璧美少女のミナトちゃんだ。それ以外は許さん!」とか言い出してもう勘弁してほしい。
「その超絶完璧美少女ってのやめろ」
「ならミナトちゃんと呼んでも……?」
「あぁ。それでいいから。あとお前にはまだ仕事があるんだ。俺の言う事聞けるか?」
「勿論、俺は君の為なら自分のプライドなど燃えないゴミの日に捨てる覚悟だ」
この国の奴等例えがいちいちおかしいんだよなぁ。
「それなら、お前はこれから出来る限りこの街の獣人への差別思想を無くすために善処しろ」
「……ミナトちゃんの頼みだというなら、出来る限りはするが……しかしここは奴隷市場だぞ?」
「分かってる。だから出来る限りでいい。お前がまず奴隷達に対する扱いを改めろ。そして、獣人に対して非人道的な扱いをしている奴を裁け。困っている獣人は積極的に保護しろ」
こいつには獣人との和解派代表になってもらう。
人間と獣人との関係性を少しでもいい物に変えておき、姫が目的を達成した時にスムーズに付き合い方を変えられるように。
断るようなら自分から進んで言う事を聞きたくなるくらいの地獄の責め苦を味合わせてやる。
「お前にとっては屈辱的な事だろうが、出来るか?」
「出来るか、ではなくやれと言ってくれ」
「……だったらやれ。俺の言った通りに」
「委細承知!」
『地獄の責め苦なんてなくても超絶完璧美少女ミナトちゃんの言う事なら聞くってさ』
……それはそれで結構複雑。
やる気満々のジキルを見て、ホッと胸をなでおろすジオタリスとは対照的に……。
俺にデレデレになって何でも言う事を聞くようになったジキルを、ぽんぽことアリアはまるでゴミを見るような目で見下していた。
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