第127話:変愛の才能。


「何度でも言ってやりますわ! この私が! リリア・ポンポン・ポコナですわっ!!」


『どどん!』

 変な効果音入れんな。今真面目なとこだから。


「おい、ジオタリス……」

「彼女の言っている事は本当だ。原因は分からないが帝都で突然こんな姿になったのだという。ちなみにロリナージャも同じく獣人化しているので確かな情報だ」


 ジキルは目を丸くしてぽんぽこをじっと見つめ、だんだんと口角をあげていった。


「キヒャッ、マジかよマジかよたまんねぇな! あの傲慢メスガキが今じゃタヌキだと!? あの生意気なロリナまで獣人だって? おいジオタリス、そのタヌキうちに置いていけよ。ロリナも連れてこい! あいつは何の獣人になってんだ!?」


 うわぁ……こいつアドルフ並に糞野郎だな……。

『ちょっと懐かしくなっちゃった?』

 冗談言うな。世の中こんな奴が他にもいるんだなとげんなりしてんだよ。


「ジキル……! たかが英傑の一人がわたくしにそんな口をきいてタダで済まされると思ってるんですの!?」


「はぁぁぁ? 今じゃただのタヌキだろボケがっ! その生意気な所は本当にあのメスガキそのものだな……そこまで獣寄りだと俺の好みじゃねぇんだがお前がポコナだってんなら話は別だ。俺のペットにしてやんよ。俺の●●●無しじゃ生きられねぇようにしてやっから! うひゃぁ楽しみだぜ! おいジオタリス、聞いてんのか? そいつ置いてけ!」


「貴様……それを本気で言っているのか?」


 ジオタリスが再び姫を押しのけて前に出て、斧を構える。


「あたりめぇだろうが! こんなチャンス二度とないぞ! そうだ、お前も一緒にやっちまおうぜ。きっと楽しいぞ!? 幾らだ? 言い値で買い取ってやるからよぉぉ!」


 ジキルが興奮気味に椅子……もとい、獣人椅子から立ち上がり、下品に舌なめずりをした。



「ミナト殿! もう我慢できません。こいつは成敗してしまおう! 私に任せてくれ!」


 アリアがそれはもう激怒に塗れた表情で剣を抜き、ジオタリスの隣に並び立つ。


「……おい、そう言えばそっちの女二人はなんだ? タヌキはともかく、そっちの二人はなんで連れてきた? お前の新しい嫁か?」


 俺が、ジオタリスの嫁だと?


「ば、馬鹿! そんなんじゃねぇよ! この人に失礼だろうが!」


「……? お前ともあろうもんが随分下手に出てるじゃねぇか。二人とも王の関係者かなにかか?」


「いいや、俺もそこのアリアも完全に無関係だよ。ただの旅人さ」


 俺の言葉を聞いてジキルが首を捻る。


「おい、どういう事だ? そいつら何者で、何のためにここに連れてきた?」


「い、いや……その……」


 ジオタリスがこちらをチラチラ見ながら返答に困っている。

 せっかくさっきまでちょっとカッコ良かったのに……。


「まぁなんでもいいさ。どちらも絶世の美女じゃねぇか。王の関係者でもねぇならそいつらも俺が貰ってやるから幾らほしいか言えよ」


「ば、馬鹿やめとけ!」


 ジオタリス……言うに事欠いてやめとけとはなんだやめとけとは……。


「なんだぁ? そんなにじゃじゃ馬なのか? 任せとけ。俺はそういう生意気な女をヒーヒー言わせて性奴隷にするのが大好きなんだ。姫と美女二人、会わせて十億ガロンでどうだ?」


 ガロンってのはこの国の通貨で、一般人の平均月収は五万ガロンくらい。英傑が得ている収入は月平均三百万ガロンくらいだとジオタリスに聞いた事がある。

 それだけでも十億ガロンがどれだけ桁外れな額なのかは明白だった。


 一瞬でも迷いの表情を浮かべたらジオタリスもぶん殴ってやろうかと思ったが、怒りに燃えるだけだったので許してやろう。


「アリア、ジオタリス、ぽんぽこ、ちょっと下がってろよ。こいつは俺が相手してやるからさ」


「えっ、み、ミナトちゃんが出なくても……!」

「待ちなさいジオタリス。わたくしは興味ありますわ」

「……今回も私はお預けか。それも仕方あるまい」


 三者三様のリアクションで部屋の隅へ下がっていく。


「おっ、なんだよ積極的な女だなぁ。人前でヤるのが好きなのか? いいぜ相手してやるよ。いい声で鳴かせてやっからな!」


「……へぇ、いい声で鳴くのはどっちだろうな?」


 俺はなにやらソワソワしているジキルの目の前までスタスタと歩き、笑いかける。


「この獣人たちが邪魔だから下がらせてもらえる?」

「お、おう! いいぜお前ら今日のお勤めはここまでだ。さっさと下がれ!」


 ジキルの声に、獣人たちが一斉に家具から解放され部屋を逃げるように飛び出していく。


「よし、じゃあ始めようか♪」


 ぽんぽこ達を巻き込まないようにこの部屋の中に次元断層を作った。

 ぽんぽこ達からこちらの様子は見えているだろうが、俺がいくら暴れても被害が向こう側へ届く事は無い。

 完全に空間を隔離した状態だ。


「……へ、今、お前何をした?」


「ここを密室にしただけだよ。邪魔が入るのはいやだろ? 存分に楽しもうぜ」


「……ただもんじゃねぇな? リリア帝国にお前みたいな術師がいるとは聞いた事ねぇ。ヴァールハイトの野郎の関係者か?」


「ちげーよ」


 こいつの口からもヴァールハイトの名が出たな。しかもこのタイミングって事はそいつはよほど胡散臭い奴らしい。


「だとしたら国外から来たのか。だとしたら英傑の偉大さ、強大さを知らなくても仕方ねぇなぁ? いいぜ、俺がお前をねじ伏せて、無理矢理アレ突っ込んで悦ばせてやんよ!」


『君って変なのに好かれる才能あるんじゃない?』

 うーん、俺もちょうどそれ考えてたよ。


「俺を倒せたら好きにしていいから。ほれ、さっさとかかってこい。言っておくけど最初から本気出さないと何もできずに死ぬぞ?」


「ゲハハッ! 馬鹿め! この俺の力も知らずにどの口が……」

「この口ですけどー?」


 とりあえず腹が立ったのでジキルの顔面を掴んで地面に叩きつけてみた。


 不思議と地面がぶにゃっと柔らかくなってジキルはバインバイン跳ね、部屋の隅に転がっていった。


「なっ、ななっ、何しやがった!? 見えなかった。何も、見えなかったぞ!?」


「いや、何した、ってこっちのセリフなんだけど。地面柔らかくしたのはお前の力か?」


「危なかった……間一髪だった。完全に油断していた……一撃で頭蓋骨を砕かれる所だった……俺が、俺を、俺の、俺に? 許さねぇ……!」


 あぁ、こいつやっぱりヤバい奴だ何言ってるかわからん。


「ぶっ殺してから死体に突っ込んでぶちまけてやんよぉぉっ!!」


『き、キモい!』

 激しく同意だよ畜生。ジオタリスにでも任せとけばよかった。


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