第126話:高貴なたぬき。
「止まれ、お前らは何者だ? 身分証を出し要件を言え」
俺達が屋敷の目の前まで行くと、案の定見張りが立っていて俺達に槍を向けてきた。
「ぶ、無礼ですわよ!? わたくしは……」
「黙れ獣人風情が! 俺はそこの女に聞いている!」
「じゅ、獣人……風情……?」
「今のお前がどんな状況なのか正しく理解しておけよ? ジオタリス、頼むわ」
俺の言葉でジオタリスが動く。本当に察しのいい奴だなこいつ。なかなか使えるケツアゴだ。
「俺は十二英傑が一人ジオタリスである。ジキルに用があって来た。取り次いでくれ」
「じ、ジオタリス様!? そ、その……念のために身分証を……あっ、はい。ご本人様ですね、しょ、少々お待ちくださいっ!」
見張りは二人いたが、一人を残しもう一人が屋敷の中へと走った。
ジオタリスの家と同様かなり広いのでそれなりに時間がかかるだろうと思ったのだが、その予想は外れたようだ。
「ジオタリス、俺に何の用事だ? 貴様が訪ねてくるなど初めてではないか」
どこからともなく声が聞こえてくる。
ジオタリスが「あれだよ」と空を指さした。
そこには黒い球体が浮いていて、そこから声が発せられているらしい。
ジオタリスが以前言っていた監視魔法の類なんだろうか?
この国は物体に魔力を込めて操るような技術が進んでいるのかもしれない。
「ここでは話せん。中へ招いてもらってもいいだろうか?」
「ふむ……いいだろう。だが貴様だけだ。他の者はそこへ置いていけ」
「それは困る。今回の話はこの者達に大きく関与する話なのだ。俺一人では意味がない」
ジキルはしばらく無言になり、何かを考えていたようだが、やがて「いいだろう。入れ」と音声が響いた。
「という訳だから、通してもらうぞ」
門番の肩をジオタリスがぽんっと叩き、門を押し開けて中へ入る。
俺達も後に続きつつ、チラリと門の方を振り返ってみると見張りの奴がやたらとテンション高く小躍りしていた。
この国では英傑ってのはそんなにすげー奴なのかねぇ。肩を叩かれただけで舞い上がるくらいに。
誰も出迎えに来ないので広大な庭を十五分ほどかけて歩き、屋敷の正面玄関まで辿り着く。
どうして英傑とやらは無駄な敷地を保有しないと気が済まないのだろう?
家の広さがアイデンティティなのか?
それともこれが国から与えられた十二英傑への住まいという事なのだろうか?
だとしたらそれだけ国にとっても重要な奴等って事になる。
だとしたらすぐに帝都を目指さずに英傑を一人ずつ仲間に引き入れて全員が意見陳情でもすれば状況は変わるかもしれないな。
そう、考えていた時期が俺にもあった。
『何よそれ』
俺はジキルの部屋に入った瞬間、その考えを改めるしかないと判断した。
こいつはダメだ。
「ジキル……お前、これは……?」
「久しいなジオタリス。これか? なかなかいい眺めだろう? 俺の自慢の家具たちだ。あまり長持ちしないしすぐに壊れてしまうがな。ははっ」
部屋の様子を見てぽんぽこは絶句し、アリアは憤怒の感情を隠そうともしなかった。
ジキルの言う家具、というのは全て獣人だったのだから。
ジキルが今座っている椅子も、肘を乗せている机も、全てが獣人。
獣人が這いつくばってその背にジキルを乗せ、二人がかりで天板を持って机の代わりをしている。
他にも部屋には彫刻替わりの、ほとんど人と変わらないような外見の獣人が無心でポーズを取り続けていたりする。
「趣味が悪いなジキル」
「ここでは俺が全てだからな。このくらい当然の権利だろう? 獣人だって俺の役に立ててさぞかし幸せだろうぜ」
さすがにこいつと和解は無理だ。仲間に引き入れる気にもなれない。
「あ、貴方という人はっ!」
「あぁん? なんだそこの獣人は。ジオタリスの奴隷か? もう少しきちんと躾をしておけ。主人の程度が知れるぞ」
う、なんだろう。その言葉はやけに胸に刺さる。
『ごしゅじんの程度が知れちゃいまちゅね~?』
うっせー! 別にネコは奴隷なんかじゃねぇんだからいいんだよ。
今にも食ってかかりそうなぽんぽこをジオタリスが制して一歩前に出る。
「ジキル、姫が行方不明なのは知っているか?」
「姫ぇ? ……あぁ、ポコナ姫の事か。あいつ失踪したの? ざまぁねぇな」
「貴様、姫に対してなんたる無礼を……!」
「いやぁすまんすまん。お前は姫大好きだったもんなぁ? 俺からしたら獣人と仲良くしようなんて頭のイカレたクソガキだったんでな。失踪したなら失踪したでどうでもいいんだわ。大方今頃どこかの変態にさらわれて肉奴隷にでもなってんじゃねぇの? ケケッ」
「……黙れ」
「なにムキになっちゃってんの?……そう言えば見てくれだけは良かったもんなぁ、どうせ誰かに汚されるくらいなら俺が先にさらっとけば良かったかもな。お前もそう思って悔しがってんのかぁおいジオタリスよぅ」
ジャキッ。
ジオタリスが巨大な斧をマジックストレージから取り出し、ジキルに突きつける。
普段は専用ストレージに収納されているらしいが、それはジオタリスの魔法ではなく。英傑が持つ武器の仕様らしい。便利だ。
「なんだよ、怒るなって。それより俺に話ってのはそれだけか? 姫が居なくなったから一緒に探してくれとか? 冗談じゃねぇぞ」
「違いますわっ! この高貴なオーラに気付かないとは十二英傑失格ですわね! リリア帝国のプリンセス、リリア・ポンポン・ポコナとはこのわたくしの事ですの!」
顔を真っ赤にしたぽんぽこがジオタリスに肘うちを入れてどかし、ジキルの前に出て仁王立ち。
「……あー、えっと……ジオタリス。このタヌキ何言ってんの?」
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