第122話:ぽんぽんぽこな。
「ところで、ちょっと身体を見せてもらってもいいか?」
酒飲み組がひとしきり気持ちよさそうないびきをかき始めたあたりで姫に声をかけた。
ナージャもよほど気が抜けたのかだらしない恰好で伸びている。
「か、身体を見せろとは……女性といえどあまりに無礼ですわっ!」
「いや待て、違う違う。そういう意味じゃない」
「だったらどういう了見なんでい! ですわ!」
言葉遣いがめちゃくちゃだなこいつ……。
本当に姫なのか疑わしいくらいだ。
「その獣人化が呪いの類による物ならもしかしたら俺が治してやれるかもしれないなと思ってな」
「……それだけですの?」
「どういう意味だよ」
「ナージャが酔い潰れた時を狙ってわたくしにいやらしいことを……」
「しねーよ!」
「どうだかわかりませんわ。六竜というのはもしかしたら女性しか愛せない歪んだ性癖の持ち主かもしれませんし」
「はぁ……お前な、一応言っておくが俺はこう見えても男だぞ?」
「なっ……! なら尚更ではありませんの!? わたくしを酷い目に合わせる気でしょう!? 官能物語のように!」
……こいつまさか酒飲んだのか? 思考回路が理解出来んぞ。
『なかなか面白い子じゃないの。いじりがいがありそうで私は嬉しいわ♪』
お前が気に入るって事はよっぽどだなこいつ……。
姫は顔を赤くしながら胸元を隠すようにして、
俺に冷ややかな視線を向けてくる。
「わかったわかった。ならいいよ。俺も無理にみてやる義務はない訳だしな」
「……そ、そこまで言うなら、ちょっとだけなら触る事を許しますわ」
「触んねぇよ」
『調べるふりしてあちこち触っておけばいいのに』
確かにタヌキ顔は可愛いし毛がふさふさしてて気持ちよさそうだけどな、俺はそんな自分を追い込むような事はしないぞ。
「で、ではお願いしますわ」
「待て、何故脱ごうとする」
「診察というのはそういうものでは?」
タヌキが恥ずかしそうに服をはだけさせているのを見て俺はどんな感情になればいいのかわからん。
脳内妄想で可愛らしい姫様に変換できるほど想像力豊かじゃない。
「いいから服を戻せ。で、ちょっと手を見せてくれ」
「あら、そんな事でよかったんですの? なら早く言って下さいまし。わたくしが服を脱ごうとするまで待ってるなんてとんだ変態ですわね。でもいいですわ。このくらいで怒るわたくしではありません。目の保養とでも思って一人になったらご自由に思い出して使用する事を許しますわ」
「何にだよ。それに俺はタヌキに欲情するほど末期じゃねぇ」
「タヌキとはなんというもの言いですの!? わたくしをいったい誰だと……リリア帝国の可憐なプリンセス、リリア・ポンポン・ポコナですわよ!?」
姫が高らかに名乗りをあげた。ドヤ顔が妙に腹立つけどタヌキは可愛い。
俺はタヌキ顔は結構好きなんだよ。PCの中にエゾタヌキ画像フォルダがあったくらいだ。
その点姫はもう少しこう、ぼてっとふっくらしてた方が可愛いと思うんだけど言ったら殴られそうだからやめておこう。
「もうなんでもいいからぽんぽこ、さっさと手を出せ」
「だ、誰がぽんぽこですの! ムキーッ!」
「はいはい、それはもういいから。調べさせてもらうぞ」
俺はぽんぽこ姫の手を取り、その身にかけられた魔力の質を確かめる。
どうだママドラ、分るか?
『私には分からないわよ。呪いに詳しかったらイリスの呪いだって自分でなんとかしてるわ』
それもそうか。
じゃあ呪いの専門家に手伝ってもらうしかないな。
イリスの時はなんとなくでしか認知していなかったが、今なら自分の意思で必要な人物の記憶を呼び出せる。
呪術のエキスパートのデルフィ・リゼリスタ。自分を馬鹿にした人間を呪い殺す事だけに人生を費やした女。
イリスの時は呪いを解くスキルを持っている人物の記憶を何人分か纏めて使ったような記憶があるが、無意識化でやった事で今アレが出来るかと言われると微妙だ。
なのでまずは呪いの種類を確かめる為デルフィの力を借りる事にした。
「……」
「どうですの? 治せそうですの?」
「……これは、普通の呪いじゃないわね」
イリスの時は強力な呪いが何重にも重ねてかけられていて、しかも解き方がまったく違う物だった為苦労したが、その一つ一つは専門家なら解呪する事が出来るものだった。
しかしこれは……。
「ど、どうですの?」
「これは特別な呪具を使用してかけられた呪いだな。少なくともこの時代にここまでの呪いをその身一つでかけられる奴がいるとは思えない」
「つまり、貴女には治せないという事ですわね?」
もう少しオブラートに包んでもらいたいもんだがなぁ。
「俺に治せないどころか呪具自体を見つけないとどうにもならんかもしれんぞ。そうなってくると最初に獣化したあたりで聞き込みするのも悪くないかもしれないな」
「最初にって……帝都のショッピングストリートですわよ?」
やっぱり帝都まで行かないとダメか……。もっと楽な気持ちで漫遊したい所だが仕方ない。
「じゃあ方針は決まったな。帝都を目指し、最初に獣化した近辺で聞き込みしながら黒幕を探す」
「ヴァールハイトに決まってますわ!」
自信満々にぽんぽこ姫が断言した。
こういう決めつけは目を曇らせる。けど……話を聞く限りどう考えてもそいつが一番うさんくせぇんだよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます