第121話:宴。
「ほれ、ネコもさっさと通れ」
「ほえーっ、アルマさんがびっくりしてますよぅ」
やっぱりネコにもママドラみたいにアルマの声が聞こえてるのか。プライベートが無くなるようなもんだから大抵の奴は嫌がるだろうけど、こいつは……まぁ大丈夫なんだろうな。
「なんならそのうち教えるから。とりあえずさっさと通れ」
「はーい」
ネコを穴に押し込み、最後に俺が通る。
ぶっちゃけかなりしんどい。
穴はもう大分小さくなっていて、気を抜いたら塞がってしまいそうだ。
「よっ……と」
ワームホールから出ると、予定通り家の庭だった。ゲオルが畑で野菜を引っこ抜いている。
これだけの距離を移動するのは初めてだったので少し心配だったがうまく行ったようで安心した。
「こ、ここが……六竜の、家か……」
「意外と地味、というか普通の家ですわね?」
「どこでもドアじゃーっ!」
ナージャ、姫、爺さんがそれぞれ好き勝手な感想を述べていると、ゲオルが麦わら帽子をくいっと持ち上げながらこちらにやってきた。
ちなみに麦わら帽子を被ってはいるが髪と角は帽子を突き破って上から全部出てるのであまり意味は無い。
「おー、ミナト帰ってきたか! ……その犬っころとタヌキはなんだ? 新しい食料か?」
「ひ、姫になんたる無礼を!!」
ナージャはもうこういうキャラとして認識しておいた方がよさそうだな。
「そいつがゲオル。六竜の一人だ。俺達と違って六竜本人だから気を付けろよ」
「ひっ」
ナージャはまるで姫を差し出すように背後に回り込み、盾にした。
「怖い怖い六竜怖いっ!!」
「ナージャ! さっきまでと随分態度が違いますわね! 情けないったら……」
「わ、私は六竜も怖いですが男がほんと無理で……っ!」
「でもジオタリスとは普通に話してたじゃないか」
俺がそう聞くと、キッと睨みながら「アイツは幼馴染だから平気なんだ! それ以外はちょっと……」と泣きそう。
「獣人の里には男だって居ただろう?」
「獣人なんて見た目動物っぽいから男っぽくないだろ!?」
なるほど。分かったような分からんような……。
「ユイシス様ーっ! ご無事でしたか!? かむろがいなくても大丈夫でしたか? 私はもう不安で不安で……」
かむろは情けない声をあげながらユイシスに飛びついておんおん泣き出した。
こいつはユイシスとアルマの事になると人が変わる……というか狐が変わるから敢えて置いていったのだが、ちょっと離しただけでこんな事になるならセットで動かした方がいいかもしれないな。
分離不安症みたいなものだろうか……。
「おーよしよし大丈夫だよー♪」
頭を撫でられたらすぐに泣き止んで、いそいそと二本足で直立し、腰に手を当てて客人を睨む。
「一体この人達は何者なんです? ミナト様、ご説明を」
「ん、後でみんな集めて説明するからさ、とりあえずオッサに飲み物と、食事をお願いしてもらえるか? 今回はスペシャルコースで」
スペシャルコース。つまり夢の種だ。
タヌキ姫とナージャはともかく、爺さんにはどうしても食わせてやりたかった。
「爺さん、今から好きなもん食わせてやるから食べたい物を考えておきな。なんでも食わせてやる」
「な、なんでも……じゃと? しかしこの世界では……」
「言っただろ、何でも、だ。楽しみにしていいぜ」
その言葉を聞いていた姫とナージャもなんだかソワソワしていた。
きっと獣人の里ではそこまでいい物を食べてなかったのかもしれない。
あんな場所じゃ食料の調達も大変そうだものな。
きっと最初、馬鹿ネコは食料調達に出て来た獣人と遭遇したんだろう。
その日はまるでお祭りのようにどんちゃん騒ぎだった。
何故かイリスと姫は意気投合してなにやらキャッキャ騒いでいるし、アリアとナージャも性格がうまくかみ合ったらしく騎士たる者どうとかこうとか……みたいな話をしながら酒をちびちびやっていた。
爺さんはどうやらハンバーガーと寿司とかつ丼とウナギをたらふく食べたらしく泣いて喜んでくれたので連れてきた甲斐があるというものだ。
俺よりもこの世界で随分長い事頑張って来たんだろうから懐かしい食事が食べれて感極まったようだ。
酒を煽りながら商人のおっちゃんに絡んで、「儂の前世はなぁ!」とか言い出している。
おっちゃんは話半分で受け流しているようだったが、商人だけあってその辺の接待がとてもうまい。苦労をかけてすまん。
ゲオルとジオタリスも酒を飲みかわし、お互いの背中をバシバシ叩きながらゲラゲラ笑っている。
いかつい男同士仲良くしててくれ。
「ごしゅじーん、飲んでますかぁぁぁ~?」
「来たな酔っ払いめ」
「またまたぁ~照れ隠しですかぁ?」
「ちゃうわい。……まぁいい、今日は細かい事は抜きだ。こんな状態で皆に説明したって頭に入ってこないだろうからな。説明は明日にして今日の所は楽しく飲んで騒ごうじゃないか」
「うぇへへ~。じゃあ一緒に踊って下さいよぅ♪」
「あん? お前踊りなんかできるのか?」
似合わない事この上ない。
「もっりろんれすー♪ こう見えても神楽舞はとっくいなんれすよー?」
神官になる為にはそんな物までやらされるのか?
「さ、立ってくらはい。ほらこうやって~いきますよぉ~? まーいむまーいむ」
「おい」
「なんれす?」
「……いや、いいや。なんでもない」
こいつが躍ってるのは絶対的に神楽舞なんかじゃねぇけど、突っ込むのも疲れたので好きにやらせる事にした。
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