第123話:レディの嗜み、野郎の孤独。
「なぁ、本当においてっていいのか?」
「くどいですわっ! わたくしナージャがあんなにだらしないとは思いませんでしたわ!」
翌朝、結構な人数が二日酔いしていて、俺はある程度面子が復活してから出発しようと思ってたんだがとにかくぽんぽこ姫が早く出発しようと騒ぐので押し切られてしまった形になる。
おかげでおっちゃんも身動き取れず、ジオタリスに馬車を任せる事にした。
奴はここに居る間畑仕事だけじゃなく馬の世話もしっかりしてくれていたため俺なんかより余程馬に懐かれている。
勿論ネコは爆睡してるので置き去り。
ナージャ……もうロリナでいいや。ロリナは二日酔いで、寝るか吐くかのどっちかなので置き去り。
ゲオルは興味なさそうなので留守中の畑を任せる事にした。
イリスは行きたがってたけれど次の目的地の性質上あまり見せたくないような場所だったので俺の判断でお留守番してもらう事にした。
シュマルで生活していた頃は俺だけ街に買い物にいったり、とかはあったけれどこうやって本格的にイリスと別行動するのは初めてかもしれない。
俺が居ない間大丈夫だろうか? とても心配である。
『君もなかなか過保護よね』
大事な一人娘だからな……俺の居ない間に変な虫がつくんじゃないかと心配でな。
『今家に男なんておじさん二人とゲオルくらいしかいないでしょう?』
どちらかというとネコがアホな事ばかり教え込まないかが不安でしょうがないんだよ。
『……確かに、あの子と一緒に居てアルマがちょっと壊れてきちゃったもんね』
ネコは最重要危険人物だからな。
その辺はかむろに見張っていてほしいものだがあいつもネコ絡みの話になると目が曇って濁って淀みまくるからな……。
帰った時イリスがおかしくなっていたらネコに想像を絶するおしおきをしてやる。
『酷いことするのね! 官能物語りみたいに!』
姫の真似するなよ……。お前ぽんぽこ姫の事結構気に入ってるだろ?
『私は面白い子が好きだからね♪』
……趣味悪っ。そりゃ旦那選びも失敗するわな。
『今ミナト君は私の逆鱗に触れた』
わ、悪かったって。急にマジなトーンになるのやめて。
『ぷんぷん!』
そこからママドラはしばらく引っ込んでしまったので本当に気分を害したのかもしれん。
カオスリーヴァの話は禁句だな……。
「ポコナ姫、奴隷市場にはどの程度で到着するのだ?」
馬車に揺られながらアリアが姫に問う。
次の目的地は奴隷市場。帝都に行くまでに経由しなくてはならない街が幾つかあり、ついでだからそれぞれである程度調査をしながら進む事にした。
まず俺達が要る場所から帝都を目指すとぶち当たるのが奴隷市場の街ウォール。
そんな所にイリスを連れて行ける訳ない。
「そうですわね……馬車でしたら二日ほどあれば到着すると思いますわ」
「そうか……時に姫、質問があるのだが……姫も年ごろの女性だし風呂などについてはどうされるおつもりか? その、一応ミナト殿はあんな外見でも男性だし」
なかなか失礼な事を言いながらアリアがこちらをチラっと見た。
そう、今回の面子は俺、ジオタリス、姫、アリア。この四人だけだった。でもこれについてはある程度考えがある。
「確かにそうですわね……さすがに男性と旅を共にするのであれば匂いなども気になりますし入浴は欠かしたくありませんわ」
はぁ……面倒な奴等だなぁ。
「だからお前らは家にいればよかったんだよ。目的地に到着さえすればチェックしてホールで繋げてやるって言ったのに……」
俺の考え、というのはホールを使えばいつでも必要な人員を入れ替え可能という事だ。
勿論疲れるのであまり頻繁に使いたくはないのだが、万が一の時はそういう事も出来る。
ちなみに獣人の里の爺さんは明け方に爆睡してるところを里に送り届けてある。
というか寝てる間に里へ行って置いてきただけだけれど。
目が覚めたら怒るだろうか? それとも夢だったと思うだろうか?
同郷のよしみであの爺さんは出来るだけ労ってやりたいところではある。
「わたくし冒険には興味がありますのよ! こんな楽しそうな事を留守番などで潰したくありませんわ。どうせなら過程も楽しまないとですわよね? 急に呼び出されて美味しい所だけ味わうなんて馬鹿な王族になりたくないですわ」
何が楽しいのか分からんが、ずっと姫として生活してきたのならこういうのに憧れるものなのかもしれない。
もともとこっそり街へ出るような奴だったみたいだし。
結果的に、二人とも一日目は我慢してくれた。
二日目、あと半日も走ればウォールに到着、という所で暴れ出した。
俺とジオタリスの目が気になるっていうのもあるらしいが、沢山人が居る街へいくのに風呂にも入ってないのなんて我慢ならない、だそうだ。
で、どうしたかと言えば俺がこき使われたわけよ。
まだ真昼間だっていうのにホールを使わされ、二人は家に戻り風呂に入ってきた。
その間ホールをずっとそのままにしておくのは消費が激しすぎるので俺も家まで飛び、時間を少しずらして風呂に入った。
今頃ジオタリスは寂しくて膝を抱え泣いているかもしれない。……が、何故か奴にはそれがお似合いだなと思ってしまった。
世の中にはいじられてなんぼ、可哀想な事になってなんぼって奴が存在するのだ。
『君はいじられてなんぼだものね』
突然現れそれだけを脳内で呟きまた反応がなくなった。
そんなにそれ言いたかったのかよ。
あまりにも早い帰還にみんな気が抜けて冷ややかな視線を送ってきたが、二人が風呂に入っている間にいろいろ説明しておいた。
通り抜け人数の件もあるので面子の入れ替えはしなかったけれど、ロリナがかなりご立腹で大変だった。
その辺は姫にどうにかしてもらいつつ、俺達は再びチェックポイントへ戻る。
そしてジオタリスはというと、一人寂しくひたすら馬に話しかけていた。
「なぁ、俺っていい男だろう? そう思わないか? 思うよな? お前だけだよ俺の良さを分かってくれるのはさ……」
「……なんか、すまん」
ちょっとだけだけど申し訳ない気持ちになった。
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女の中に男が一人というのはハーレムの可能性も秘めていますが基本は虐げられる物なのですね。
こいつらの場合は性別ややこしいのが一人混ざってるので尚更ジオタリスが可哀想な扱いを受ける事に(笑)
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