第112話:頑張れジオちゃん♪


「は、ははははは……俺は夢でも見ているのか?」


「そう言いたくなる気持ちは分るぞジオタリス殿。私も最近やっと慣れてきたがミナト殿達に常識は通用しないからな」


「どうやら我等はまともな人間のようだな……」


 ジオタリスとアリアが俺達の作業を見ながら話をしていた。どうでもいいけど聞こえてるからあまり人外扱いされると凹む。


『もうとっくに人間やめてるのよ君は』

 くぅっ、実際自分が人間じゃないって事実を突きつけられるとちょっと切ない。


『ダイジョウブダイジョウブ、ニンゲンジャナクテモマイニチタノシイ!』

 棒読みじゃなければもう少し信じられるんだけどな。


 イリスと俺の協力プレイで畑の下準備が出来た。

 でも俺にはここから先がよく分からん。


「なぁジオタリス、お前元農家の息子だって言ってたよな? いい畑を作るにはどうしたらいい?」


「えっ!? そ、そんな事言われても……」

「なんだよ分らなないのか? 農業甘く見るなみたいな事言ってたじゃねぇかよ」

「わ、分るさ! 基本だけならな」


 基本だけ、なのか……だったらネコでも知ってるような事だろうけど、今回はジオタリスの顔を立てる事にしよう。


「じゃあ教えてくれ。こっからどうしたらいい?」

「そうだな。とりあえず土の粒子を出来るだけ細かくした方がいい。塊だと種が芽吹いた時に地表に出てきにくいだろう?」


 なるほど。確かにそれもそうだな。


「じゃあ……これで、どうだ!」


 俺は一度クレーターに落とした土を全て引き寄せ、今まで家を収納していた異空間の中に放り込む。ちょっと広すぎるので土の量に合わせて縮小。

 大体箱の中に七割くらいの土を詰め込むくらいのイメージで……。


「ウィンドミキサー!!」


 その箱の中で、風の刃を複数生み出し竜巻のように回転させ、土を粉々に、出来る限り細かくなるように粉砕して再びクレーターの中へ戻す。


「ジオタリス、どうだ? ちょっと確認してみてくれ」


 ジオタリスは額に汗を浮かべながら土を救い上げ、「ちょっとやりすぎなくらいだが……大丈夫だろう」と言った。


「よっしゃ♪ 後は何が必要だ?」


「うーん、後は土に栄養が無いとだから……そうだな、肥料のような物を土に混ぜ込んで土を均せば完成でいいんじゃないか?」


「……肥料を混ぜ込む? そういう事は早く言えよ!」


 さっきの流れで土の粉砕と一緒にやっちまえば手っ取り早かったのに!


「でもこんな所で肥料なんてすぐに用意できるものでは……」


「あー、それは大丈夫だと思うぜ。ちょっと待ってな……」


 出来ればあまりお世話になりたくはないんだが……。


 頭の中に植物学者と薬学者の記憶が広がっていく。この二人は前もセットで使った気がするな。


「……うん、これなら大丈夫ね♪」


「ミナトちゃん……? なんか雰囲気が……」

「あぁ、ちょっと今前世の記憶を……って言っても分らないわよね。その辺も後で説明するわ。で、肥料肥料……よく考えたら最初からこの記憶使えば畑の事もある程度わかったわね」


 難点があるとしたら人格混ぜて使うとそれぞれの我が強すぎて頭ぐっちゃぐちゃになるところよね。

 自分らしさを維持できてるかよく分からなくなっちゃう。


 うーん、これなら……。


「ジオちゃんちょっと手伝ってくれる?」

「じ、ジオちゃん……?」

「ほら早く」


 困惑してるジオちゃんを引きつれてすぐ裏手に広がる森へ入り、必要な物を見つける。


 その場に有る物で使えそうなのがあればいいなと思ったけれどこれと言っていい物が……あ、これなんか丁度いいわ♪


「ねぇジオちゃん、この岩持って」

「おい、冗談だろ……このバカでかい岩を持って行けっていうのかよ……!」

「出来ないの?」


 私が自分で運んでもいいんだけど、せっかく肉体労働役を連れてきたならこき使ってやらないと勿体ないわよね。


「んー、だったらちょっと腕出して」


 ジオちゃんが腕を出して待っている間に私は近場にある植物から必要な物を採取し魔法で粉々にしてぎゅっと絞って出た汁を針状に固めてジオちゃんの腕にプスっと。


「ぎゃーっ! な、何したんだ!?」

「大丈夫、すぐに筋肉に溶けて消えるから。普段の五倍くらいの力が出るようになるわ。その代わり効果が切れたあと半日くらいめちゃくちゃ痛いけど我慢してね♪」


「お、鬼……! でも確かに力が湧いて来たぜすげぇな!」


 それでも簡単に、って訳にはいかなかったがジオちゃんが大岩を担いで運んでくれた。


「あ、その辺でいいわよ」

「ふぅ! 今ならなんでもできそうだぜ次は何をしたらいい?」

「あ、もういいから」

「……俺はこれだけの為にこの後苦しむのか?」


「まー若いんだし頑張れ♪」


 二人の記憶を引っ込めると急に頭がスーッと冷えていくように冷静になった。


「あ、なんかさっきまでの俺がいろいろすまん……」

「ミナトちゃん……君は、まだまだ俺の知らない秘密を抱えているようだ。ミステリアスな女は美しいが、君の場合は……ちょっと怖い」


 ちょっと、と言ってくれるあたりまだ優しさが残ってるな。恐怖のあまりかもしれないけれど。


「じゃあもういっちょやりますか!」


 ここからは再び同じ工程。

 先程のようにもう一度土と岩を異空間に放り込んでギャリギャリすり潰して混ぜる。

 さっき持ってきた岩はミネラルみたいなのが固まった物らしくて、砕いて土に混ぜる事で肥料として使えるんだそうだ。


 で、もう一度クレーターに土を放りこんで完成っ♪


「あ、もし力が有り余ってるならこの土を平らに均しておいてくれるかしら? まだ薬の効果残ってるでしょう?」


「う、うむ……」


「ほら頑張れ頑張れジオちゃん♪」


 素直にいう事を聞いて土を弄り始めるジオちゃんに手を振りながら応援してて気付いた。


 これやると微妙に女っぽい言動が抜けなくなるな……。


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