第111話:拠点作り。
「ジオタリスを拉致る……? どういう意味だ?」
「俺は国から捕虜になってると思われる可能性が高い。だったらいっそ本当に捕虜のように扱ってくれれば万が一の場合に……」
あぁ、なるほどな。協力してもいいけど自分の保身も考えたいって事か。
「都合のいい話なのは分かっている。だが……俺はまだこの国を裏切る程の思い切りは出来ないんだ」
「まぁそれは構わんよ。じゃあお前は俺達の捕虜って事で……って、それだと俺達についてくるのか?」
「ああ、正直君達にはとても興味があるし、それも面白いだろうと思ってな」
「それじゃあこの街はどうなる? トップが居なくなったらそれこそ大騒ぎだし、俺達が拉致った事になったら追手がこっちにくるじゃねぇかよ。そういうトラブルがごめんだぞ」
せっかくのんびり暮らそうとしてるのにしょっぱなからトラブルを呼び込むような事はしたくない。
「それは大丈夫だ。俺の三番目の妻が俺と同じく英傑と呼ばれた事もある女だ。彼女に後を任せておけば問題無い。俺は旅行にでも行ったって事にしてもらうさ」
無茶苦茶言ってやがるな……。
「何人も居るって言ったってそいつも奥さんだろう? 旦那が居なくて平気なのか?」
「それは大丈夫です。主人の顔など見飽きてしまいましたからね」
ずっと彼の後ろに隠れていたらしき女性がドアの影からひょこっと顔を出した。
なんというか、綺麗だけどとても気の強そうな女性だ。
「初めまして。私はリゼ。さっきこいつが言ってた通り三番目の妻です。事情は分かりませんがこいつが自分からそうしたいって言ってるんで……後は上手くやっておきますから。どうかこの馬鹿をよろしくお願いします」
俺に一礼してリゼは去っていった。
主人としばらく会えなくなるってのに……本当に良くできた奥さんだな。
「リゼぇ……」
ぼろぼろ泣きじゃくってるこいつには勿体ないぜ。
「その、なんだ……俺達の事情に巻き込んじまう形になって悪かったな」
「いや、いいさ。俺が自分で決めた事だ」
覚悟が決まってるのは良い事だが、こいつが既にリリア帝国上層部と連絡を取っていてスパイとして潜り込もうとしているという可能性も捨てきれない。
一応注意はしておいた方がいいだろう。
俺達はその日のうちに旅立った。
「新しい街に来たならいろいろ見て回りたかったですねぇ~」
「いや、ユイシスちゃんは見ない方がいい。この街は獣人の奴隷だらけだから……」
おいおい、ジオタリスの奴ネコに気を使ってんのか? ちょっと前まで汚らしいとか言ってた癖に……。
人間の血が混ざってるだけでそうも反応が変わるかね? それとも六竜と同化しているからか?
「そうなんですねぇ……ここも、獣人には厳しい場所みたいですね。亜人が皆奴隷なんです?」
「いや、この国に他の亜人はほぼ存在しない。基本的には獣人しかいないのだ」
「へ~、じゃあもしかしたら獣人ってリリア帝国出身なのかもですねぇ~?」
ネコがそんなアホな発言をしていたが、確かに亜人が獣人しかいないっていうのも変な話だ。
もともと獣人はここから世界各地へと広がっていった、と考えるのもあながち間違ってないかもな。
獣人問題ってのもどうにかしてやりたい気持ちはあるが問題が大きすぎて俺一人がこの国の意識全体を変えるのは無理がある。
申し訳ないがこれに関しては一歩引いて様子を見るしかない。
ジオタリスからもらった地図を眺めつつ、治安の良しあしなどを彼に意見してもらい大体の場所を検討付けていく。
「人のいない所でのんびり、と言っていたけれど買い出しなどもあるだろうし多少街から近い方がいいんだろう?」
「いや、基本的には自給自足でやってくから気にしなくていい。どちらかというと人が来なくて、出来れば平野で、近くに森があれば最高だな」
「……君達は一から食料を自給自足する気なのか? 元農家の息子の俺から言わせてもらうがちょっと甘く見過ぎじゃないか?」
そんな事を言っていたジオタリスだったが……。
出発から二日ほど経ち程よいポイントに到着した所で俺がまず家を取り出した。
「……は?」
「俺達はちょっとした裏技使ってるからあんまり困る事ないんだわ」
「いやいやいやおかしい、絶対におかしい。どこから家を出した!? おい待てそれは何だ!? その木は何処から出した!? なんだこの甘い匂いは……っ!?」
家を設置して、その少し離れた所にアルマの館から持ってきた例の木を移植していく。
「おーいイリス、こっからあそこくらいまでの土地を畑にするから一回掘り返してもらえるか?」
「おっけ♪」
イリスが腕をぐるぐる回して地面をどごんとぶん殴るとでっかいクレーターが出来て土が上空に吹き飛ぶ。
俺がその土を引力と重力の魔法を使って引き寄せ、もう一度クレーターの中へと落としていく。
「あ、あの娘は何者だっ!?」
「イリスだよ。俺の娘だ」
「ミナトちゃんの……? それって、どっち……?」
あぁ、確かに今のイリスを見たら驚くのも無理はないか……。
明らかに普通の人間の動きじゃないもんなぁ。
人間は地面ぶっ叩いただけでクレーターはできないし。
「イリスは、イルヴァリースの娘だよ。怒らせない方がいいぞ」
「……とりあえず、君たちが普通じゃないのだけはよく分かったよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます