第110話:リリア帝国の実情。


「な、なぁ……正直な所六竜の話ってどうなんだ?」

「まだそんな事言ってるのか? 嘘に決まってるだろ信じるなそんな事」


 俺達はジオタリスに案内され、ギリムという街へ到着した。

 やはりジオタリスはこのギリムに派遣されている英傑の一人らしく、この街の責任者兼、断罪者というポジションらしい。

 断罪者というのは、彼の裁量で人間や獣人を捌く事が出来るという物らしい。


 実質この街のトップという奴である。


 ジオタリスの屋敷はかなり広い。街の三分の一はあろうかという敷地を占めていて、庭に馬車を停めてからかなり歩かなければならない。

 普段はここから人力の篭車みたいなので移動したりするらしいのだが、今回は人数が多いので徒歩。


 その歩きの最中に先ほどの質問をされた訳だ。


「……確かににわかに信じられる内容ではないのだが、君があまりにも必死に否定するので逆に本当なのではないかと思えてきてしまったよ……」


 そういうもんか? 否定する事も許されないのか。


「ちなみに一つ聞いておくがこの国で六竜っていうのはどういう扱いになってるんだ?」


 ダリルでは信仰の対象であり、一番信徒の多い宗教になるくらいだ。

 しかしそれがどこでも同じとは限らない。


「この国では……そうだな、六竜ってのは恐怖の対象だよ。確かに魔王軍と戦ったって伝説は残ってるし、それ自体はありがたい事なんだが……その戦いはリリア帝国に大きすぎる爪痕を残した」


 それほんとか?

『うーん、どうだったかしらあまり覚えてないわ。どうせカオスリーヴァあたりがこの近辺で大暴れしたんじゃない?』

 適当だなぁおい。


「だから六竜というのは破壊の象徴なのだ。ダリルの聖竜教なんてリリアじゃ邪教扱いされてるくらいだ」


 ……小声で話してるからいいけどアリアあたりが聞いたら怒りそうな内容だな……。


「でも六竜と言われても人型ではピンとこないな……あのユイシスちゃんやミナトちゃんは同化してるって話だからいいとして、あのゲオルってのは六竜そのものらしいじゃないか」


「だから嘘だって気にするなマジで」

「……怪しい。俺の本能は君が嘘をついていると警告している」


 無駄に勘の鋭い奴だな……。


「……今とんでも無い事に気付いてしまった。ゲオルという男、あの男の頭、アレはなんだ……? 珍しい髪型だと思っていたがよく見たら……角が混じってるじゃないか!」


 げ、とうとうそれに気付く奴が現れてしまったか……。


 ゲオルの頭部は硬質なツンツンした髪の毛が束になって針の山みたいになってるんだが、その中に紛れて同じ色の角が生えてるんだよなぁ……。


 パッと見分かんないだろうしゲオルがあれを隠したりしてくれないだろうから放置してたけど……。


「君達は……もしかして、本当に……?」


 急にジオタリスが俺から少し距離を取って顔を真っ青にした。


「こ、この国を亡ぼすのか……!?」

「だから俺達はそんな事しねぇよ。静かに暮らしたいだけだ」

「し、信じられん……!」


「しょうがねぇなぁ……じゃあこう言ってやろうか? 今の所その気はねぇけどお前の態度次第じゃどうなるか分からねぇってよ」


「ひっ、や、やっぱり君も六竜……!?」


 あっ、ついイラっとしてやってしまった。

『君も人の事は言えないわねぇ。感情のコントロールが下手すぎる』

 感情のコントロールが下手なのはお前もだろうがよ!

『ぷんぷん!』

 もういいよそれは……。


「まぁ今のは冗談だよ。俺が六竜なのかどうかはお前が判断すればいい。ただ、俺達の事を周りに漏らしてみろ。死ぬのはお前だけじゃ済まないからな」


「う、うむ……肝に銘じておこう。俺は、よく殺されなかったな。生き延びた事に感謝しよう……」

「それもいつまでの命か決めるのはお前だからな」


 もう脅していくスタイルを変えるのが難しいところまで来てしまった。

 こういうのは性に合わないんだが……。

『そうかしら? 割と楽しそうに見えるけれど』

 それは……気のせいだろ多分。


 その日はやりすぎなくらいの好待遇で大量の食事を出してもらい、ふかふかなベッドで眠りについた。


 翌朝、ジオタリスは目の下に大きなクマを作って俺を起こしにきた。


「ミナトちゃん……俺、いろいろ考えたんだけど……」

「んぁ……? なんだ朝っぱらから……」


「俺、この国では英傑って事になってるだろ?」


 だろ? って言われても知らんが。そもそも英傑ってのが何人いるのかも分からんし。


「そんな英傑がさ、六竜三人相手に戦って勝てる訳ないじゃん?」


 まぁお前が負けたのは俺一人にだけどな。


「俺には選択肢が二つあってさ、負けたのを潔く認めて上に報告をあげて応援を呼び、君達に戦いを挑む事……おっと、怖い顔しないでくれ」


 こいつの話しぶりだとその選択肢を選ぶ気は無さそうに思えるが……。


「もう一つは、全部無かった事にして忘れる事……と言いたい所だけどそれは無理なんだ。何せ俺達の戦いを誰かに見られていた可能性がある」


「見られてたって……誰も居なかっただろうが」

「この国には監視魔法があるんだ。俺もダリルからの侵入者をそれで見つけて飛んでったんだし」


 あぁ、そう言えば……離れた場所から観察する為の魔法があるってのは面倒だな……。


「勿論誰にも見られてない可能性もある。だが、万が一の場合俺が君等の捕虜になってると思われているかもしれない」


 なるほど。確かにこいつを縛り付けてた訳だし、言う事を聞かせていると見られても当然か。


「で、お前はどうするんだ?」


「……ここからがもう一つの選択肢なんだが、俺を拉致ってくれないか?」


 ……はぁ?


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