第109話:大体ゲオルが悪い。


「くっ、君は凄いな……」

「言いたい事はそれだけか?」


「いや、他にもあるさ。結婚してくれないか」


『こいつゲオルに似てるわね……』

 こんなのに求婚されても嬉しくねぇなぁ。せめて性別を変えてから出直してほしいもんだ。


「俺がお前に聞きたいのはこの国の現状と、大体の地理だ」

「……それを知ってどうする?」

「どうもしねぇよ。俺は人の少なそうな地域を見つけてひっそり暮らしたいだけだからな」


 ジオタリスは静かに目を閉じ、少し考え込んでから「いいだろう」と呟いた。


「君がこの国に対して脅威とならないのであれば俺は協力してやってもいい」

「してやってもいい、じゃなくて協力させて下さい、だろ?」

「気の強い女だ……ますます気に入った。じゃあ訂正しよう。君の人生を少しでも素晴らしい物にする為に俺に協力させてくれ」


 うわぁ……言い方が気に入らねぇ……いかつい顔の癖に、顎が割れてる癖にいい男風な事言いやがって……。


『顎が割れてるのは関係無いと思うけれど』


「よし、じゃあ協力してもらおうか。っと……その前に、約束してほしい事があるんだが」

「なんだい? 俺は敗者、君の言う事には従おう」

「俺の仲間に獣人が居るが、少しでも不敬な態度を取ってみろ、その場でその首捻り落としてやるからな」


 ジオタリスはゆっくりと視線をネコに向け、苦虫を噛み潰したような顔で、「分かった」と呟いた。


 そんなに嫌がる程獣人が嫌いか?

 こいつが特別なのかこの国の奴等はみんなこんな物なのか……。


「だったら一つ忠告をしておく。君等をこれから俺の街へ一度案内するが、その獣人には変装させる事をお勧めするよ。俺の知人だと言った所で過激な奴等は居るからな」


 ……お国柄、の方らしい。


「この国ではそんなに獣人が嫌われてるのか?」


「ああ。獣人はリリアではただの奴隷だからな。大昔この国は獣人が治める西地区と、人間が治める東地区に分かれていたんだ。大きな戦争が何度も起きてね……」

「それで人間は獣人を嫌ってると?」

「そうさ。戦争は人間の勝利に終わり、獣人は全て人間の奴隷となった。勿論人権などは無い。ここはそういう国なんだ」


 クソったれな国もあったもんだ。

『戦争で負けた側が虐げられるなんて普通の事よ。今までの歴史の中で何度も繰り返されて来た事だもの』

 あんまり世界の闇の部分は知りたくねぇもんだな。


「この国で獣人が虐げられてるのは分かった。だったらこれならどうだ? おいネコ、耳隠せ」


「え~、あれ疲れるんですよぅ?」

「いいから」


 ネコはぶつぶつ言いながらも器用に、手も使わずに耳をぺこんと倒して髪の毛に埋もれさせた。


「なんと……獣人というのはあんな事が出来る物なのか? それに、普通の耳もついてるじゃないか」

「あいつはハーフなんだよ。だから耳さえ隠せば普通の人間と変わらん。それでも抵抗あるか?」


 ジオタリスはにかっと笑い、「なんだ人間の血が半分も流れているのであれば最早同士といっても過言ではないではないか!」などとのたまう。


「お前……現金な奴だな」

「ふっ、褒め言葉として受け取っておこう。しかしそうしていると本当に人間だ……しかも美しい」


「き、聞きました? ごしゅじん! 今このケツアゴ私の事美しいって!」


「け、ケツアゴ……? 俺のこの美しい顎のラインをそんな下品な言葉で表現するとは……」


 ネコの言葉に品なんかないのは知っていたが初対面の相手をケツアゴ呼ばわりするとは思わなかった。

『君だって顎が割れてる癖にとか言ってたじゃない』

 俺は言葉には出してない。


「しかし美しい人から発せられる言葉ならばそれもまた悪くないな」


 ジオタリスはなにやら一人で納得して何度も頷いている。馬鹿だ。

 俺の周りには馬鹿とアホしか集まらんのか……。


「よし、じゃあお前の街まで案内してくれよ。とりあえず拘束は解くが変な真似をしたら即殺すからな」

「いいだろう。俺の命は君次第という事だな。スリリングでたまらないぞ」


 ジオタリスのたわごとは放っておいて、ひとまず俺達は自分らの事を一通り説明した。

 訳あってダリルから出て来た事、人のいない地域でひっそり暮らしたい事、そして俺達の簡単な自己紹介。

 そこで一つ事件が起きる。馬鹿が馬鹿な事を言ってしまったのだ。


「おう、よろしくな。俺は六竜のゲオルってんだ」


「……?」


 ジオタリスがゆっくりと視線を俺に向け、こいつは何を言ってるんだと無言で訴えてくる。


 俺は慌てて首を横に何度も振ったのだが……。


「この方はゲオル殿と言って正真正銘六竜の一人なのだ!」


 アリアが追い打ちをかける。


「……冗談、だよな?」

「当たり前だろ! 冗談に決まってるじゃないか!!」


 必死にフォローを入れてるっていうのに、だ。


「えへへ~ちなみに私の中には六竜のアルマさん、ごしゅじんの中にはイルヴァリースさんが居るんですよぅ♪」


 アホがアホな追い打ちをかけた事でジオタリスが更に混乱した。


「ろ、くりゅう……? 六竜が、三人? そんな馬鹿な。ミナトちゃんの強さは確かに凄いけど……そこの獣人ハーフのお嬢ちゃんまで六竜……? いや、いやいやいやさすがにそれは無いだろ」


「愚か者めっ! 我が主アルマ様を侮辱するとはこの不届きケツアゴ! 断罪してくれるっ!!」


 激昂したかむろがジオタリスの顔面に飛びつき狐の爪で何度も引っ掻いた。


「うわっ、喋る狐!? や、やめろーっ!! 信じる、信じるからっ!!」


 ……いや、信じなくて良かったんだけどなぁ。

 めんどくせえ事になった。


『大体ゲオルが悪い』


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