第107話:リリア帝国。
「そうだ! ミナト殿と特別な関係になろう!」
突然アリアがそんな事を叫んで立ち上がったので俺だけではなくその場に居た全員がアリアの方を見た。
屋根の上に居たゲオルまでもが何事かと覗き込んできたくらいだ。
「アリア……一応今の発言の真意を聞いておこうか」
こいつの事だからどうせ言葉のままの意味じゃないんだろう。
「うむ! 私は先の戦いで不覚を取ってしまい不甲斐ない所を見せてしまった……なので、私も今以上に戦力をアップさせるためにミナト殿に特別訓練をお願いしたいのだ!」
アリアの発言に注視していた皆が、一斉に彼女から視線を逸らした。
その表情はそれぞれ皆同じで「ああ、やっぱり」だったが、イリスだけはずっと俺の顔をすぐ近くで見上げている。
なんていうかイリスが急にベタベタしてくるようになって、とてもやりにくい。
「あーちゃん特訓するの? あたしもする!」
「こらこら、イリスが混ざったら死人がでるって」
イリスは妙に積極的になったように思う。強くなりたいという気持ちが芽生えたのかもしれない。
でもイリスと実践訓練なんかしたら俺も無事じゃ済まない気がする。怖いのでパスだ。
「アリアは今でも十分強いだろう?」
「そ、そうだろうか? そう言ってもらえるのは嬉しいのだが……あのギャルンという奴には手も足も出なかった」
「いや、アリアはきっちり一撃入れてたじゃないか。大分ダメージ与えてたみたいだぞ」
「う、うむ……しかしあれはゲオル殿の後ろから不意打ちのような物だったので……」
「それでもあれは見事な一撃だったよ。結局最後までギャルンが感情的になったのはあの一撃だけだったからな」
あの時のギャルンは怒りに満ちていた。
物理攻撃を喰らったから、というよりも仮面を砕かれた事に苛立っていたように思う。
俺ももっと自分の力の使い方を練習すべきなのは確かだ。防御関連の技を磨くのであれば丁度いい相手かもしれない。
「俺もいろいろ試したい事があるし、夜にでも二人で特訓しようか」
「い、いいのか!? 助かる!」
ぱぁっと表情が明るくなるアリア。
きっと彼女は力不足を感じた、というのも本当だろうけれど、俺、ゲオル、イリスと六竜ばかりに囲まれている唯一の人間だから余計足手まといにならないようにと必死なんだろう。
非戦闘員のネコまでアルマと同化し力を得てしまったもんだから尚更だ。
……と、人の悩みをかってに決めつけるもんじゃないな。
『あながち間違ってはいないと思うけれどね』
だといいけどな。
その日は次の街まで到着しなかったので野営をする事になった。
ちなみに食料は結局得られなかったので、夢の種を使わせてもらう事にした。
夢の種はそのまま食べると普通の人間には魔力酔いをおこしたり悪影響が出る可能性があるとの事で、それなりの下処理をしなければいけない。
やっぱりオッサを連れてきたのは正解だった。
夢の種の正体を知ってしまったので少々違和感は感じるものの、やはり食べたい物の見た目でその通りの味を感じさせてくれるというのはめちゃくちゃありがたい。
実物を食べている訳じゃないのでこれも自分の記憶を呼び覚まし味覚として再現させているんだろうが、この世界で寿司とみそ汁が食えるならもうなんでもいいや。
皆で焚火を囲んで食事を取ってから、アリアと二人で二時間ほど特訓。
翌日も全く同じ流れが続き、さらにその翌日……やっと俺達はリリア帝国への国境に到着した。
ここには検閲のようなものは存在しない。
その代わり、このラインを越えてリリアに入った者の命の保証は無い。というのがダリル王国の暗黙の了解だった。
そう言われる程にダリルとリリアの関係は悪い。
幾度となく小競り合いを繰り広げている、という話だが、大きな戦争が起きるのも秒読みなんて話も出ている。
誰も巻き込まないようにと移動しているので、国境付近に陣取るのは得策とは言えないだろうな。
人が通るかもしれないし、間が悪く戦争にでもなってたら大勢の人間を巻き込むかもしれない。
もう少しリリアに入り込んでいい場所を探す必要がある。
「リリア帝国はそれぞれの街に一人ずつ帝国へ忠誠を誓う英傑を配置していると聞いた事がある」
俺にそんな情報を教えてくれたのは勿論アリアだった。
彼女は王都の騎士団に居たからかリリアの事情にも多少詳しいようだ。
「その英傑ってのはなんだ? 国の英雄がそんな何人も居るもんなのか?」
「詳細は私も知らないが、戦争で活躍した人材の事らしい。リリア帝国は五年前まで内戦が酷かったと聞いているのでそれらの鎮圧などでも選ばれたのではないか」
内戦ねぇ。リリア自体戦争で統一されたみたいな所があるからアリアの言う事は正解かもしれないな。
「オネーサン、リリアに入ったけれどこれから何処へ向かうネ?」
「とりあえずリリアの地図が欲しいからな……どこかの街に行きたい所だ」
「街……ちょっと不安ネ」
「何かあっても守ってやるから安心しろよ。最悪の場合大暴れしてやるさ」
「くわばらくわばらヨ!」
おっちゃんはよく分からない言葉を呟きながら馬車を走らせた。
街へ行くといってもどっちに街があるかは勘だよりな所が大きい。
この中で、恐らくそういう経験値が一番高いのはおっちゃんだろう。
なんとかいい具合の街を見つけてくれるといいんだが。
「おいミナト! 空からなんか来るぞ!」
突然ゲオルが叫んだ。
彼が大声をあげるという事は、それだけの危険が迫っているか、彼にとってそれだけ面白い事が起きたかのどちらかだ。
どっちにしてもろくなもんじゃねぇな……。
『どっちにしてもろくなもんじゃないわね』
俺とママドラの感情が完全にシンクロした。
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