第106話:心配なのは頭の中。
俺達の旅に同行者が四人増えた訳だが、ゲオルはともかくアルマはネコの中にいるしかむろは小さな狐なので幅を取らない。
一番面倒なのがちいさいおっさんである。
名前はオッサリカル・ハーンというらしく、通称オッサ。
オーサンとオッサでおっちゃん&おっさん。
とてもややこしい。二人は何やら喋り方が結構似てるのでその辺を聞いてみた所、二人とも出身はダリルながら、シュマル共和国の血を引いているのだとか。
そっちに行くとみんなこんな感じの喋りなんだろうか?
オッサはとにかく騒がしくてあれこれしゃべくり回すのでいっそ荷台から追い出した。
というと聞こえが悪いが、おっちゃんとは気があうようなので一緒に馬車の操縦の方へ回ってもらったのだ。
ゲオルは荷台の上で胡坐をかき周りの景色を楽しんでいるようだ。見張りも兼ねてくれるので正直助かる。
アリアはギャルンとの闘いで後れを取ったのをずっと引きずっていて、荷台の隅で蹲ってぶつぶつ言っている。
どうにかしてやりたいんだがなんて声かけたらいいか分からず触るな危険状態。
そして……ネコが今までずっとイリスの面倒を見ていてくれたのだが、かむろがネコに付きっきりになってしまったので、イリスも遠慮したのかずっと俺の隣にいる。
というか俺の腕に絡みついたまま離れない。
親としては子供に好かれるのはとても嬉しいのだけれど、なんというかイリスもなかなか発育が進んできていてドキドキしてしまうというかなんというか。
『ギャルン相手に自分の娘ってのを強調してた人の感情とは思えないわね……』
いや、違うんだって、それだけイリスが魅力的って意味だから!
『まぁそりゃ私の娘ですものね♪』
そうそう!
『で、君の娘でもあるわけだけれどいい訳はあるかしら?』
そ、それより、イリスのやつどうしちまったんだ? ここまでベタベタしてくる事滅多になかっただろうが……ちっちゃい時ならいざ知らず……。
『……多分ギャルンの一件で自分にとっての優先順位がハッキリしたんでしょうね。良かったじゃない。イリスにとっては君だけが本当の父親なのよ』
……それはちょっと違うんじゃないか?
『あらそうかしら?』
多分、俺とママドラが二人でパパとママ、なんだと思うぜ?
『……そうかもしれないわね。どっちにしてもイリスには君が必要って事よ。これからも宜しく頼むわね♪』
おう、それは任せとけ。
「ごしゅじーん、ごしゅじーんちょっと見て下さいよー」
何やらネコが小声で俺に呼び掛けているのに気付き、そちらを見ると……。
ネコの膝の上でかむろがひっくりかえり気持ちよさそうに腹を出して寝ていた。
丁度ネコの膝の上が埋まるくらいのサイズなのだが、白くてふわふわの毛が広がって気持ちよさそう。
「……触りてぇなぁ」
「ごしゅじん、こんなちっちゃな子に手を出そうとするなんてロリのコンです?」
「ば、ばか、そんなんじゃねぇよ。ただふわふわで気持ちよさそうだなって思ってな……お前の耳とか尻尾触りたいのと同じだって」
ネコの表情が固まる。
俺何か変な事言ったか……?
『相変わらず朴念仁よね。そこが面白いんだけど』
「ごしゅじんってそんなに私の耳と尻尾に興味あったんですかぁ……?」
「えっと……そりゃ、まぁ」
ネコミミと尻尾は男のロマンだからな。
「うにゃぁ……それなら、そうと早く言ってくれれば……。私はいつでも触らせてあげますよぅ?」
「え、マジ?」
『ちょいちょい、一応忠告してあげるけれど、耳とか、特に尻尾、獣人が触らせる意味ってのをちゃんと理解してる?』
あっ、そうだった……。
ネコは顔を赤くしてだらしなく口を半開きにしながら膝の上のかむろのお腹をわしわしと撫でまわしていた。
ちょっとうらやましい。
「うへへ……やっぱり私のごしゅじんはごしゅじんだけですぅ♪」
何やらよく分からない事を呟いてるネコだが、よくよく考えるとこいつの中にアルマが居るわけで……過去の記憶を持っているというアドバンテージがあるものの、ネコは俺と同じ状態になってしまった訳だ。
同じくその身に六竜を宿す者。
あぁ、ネコが突然アホみたいに強くなってバリバリ戦場を駆け回る日が来るのか……?
戦力としては助かるがそれはそれでなんとも言えない気持ちになる。
『その心配はないんじゃないかしら? アルマはどちらかというとサポート系能力に長けていて、自分が先陣切って戦うタイプじゃないわよ? 戦力的には高い方じゃないわ……勿論六竜の中では、だけどね』
なるほど……というかゲオルの特性を知って思ったんだが、もしかして六竜ってのはそれぞれに役割分担みたいなのがあるのか?
『……イエス、とは言いにくいけれど似たような物かもしれないわ。例えばゲオルはとにかくタフで硬くで馬鹿でしょう? アルマはサポート関連に特化してるし、マリウスは情報調査が得意だったし』
情報調査……?
『そう。例えば半径数キロ以内にどんな生物がどのくらいいるかとか、そのうちの何体がこちらに敵意を持っているかとか、戦力はどのくらいかとか、そう言うのを視覚情報として見る事が出来たの。うまく加減できないみたいで本人にはかなり負担大きかったみたいだけどね』
自分の特性が自分の首を絞め続けるってのはきついだろうな。でも情報調査系の能力って戦場ではかなり助かる力だ。そういう方向性の記憶を持っている奴が居たら今度試してみたい気はするな。
『で、シヴァルドはヴァルゴノヴァから知識を受け継いでるの。無駄に賢くて冷めてて何考えてるか分からない変な奴なのよ』
シヴァルドと言えば魔王戦にも参加せずに様子を見てたってやつだな。
カオスリーヴァって奴は戦闘狂だって言ってたからどうせ火力特化なんだろう?
『……その通り。暴れ出したら手に負えないのよね』
というかお前はなんなんだよ。
『私はカオスリーヴァとは逆。奴が物理の暴力なら私は魔法や魔力特化って所かしらね』
ああなるほど。六竜ってのはみんなとんでもない力を持ってるのは間違いないが、それぞれ特色があって役割が違う。
元になったヴァルゴノヴァって奴からそれぞれ受け継いだ部分が違うんだろう。
だったら、イヴリンって奴は……どうなんだろうな。
『あの子は……負の感情全てよ。悪意、恨み、妬み、悲しみ……そして器は中身を増幅する力がある。アルマが残りカスなのに以前と同じくらい力を取り戻したって言ってたでしょう? イヴリンはその強い感情の分だけ力を増幅させる事が出来る。かなり厄介な相手よ』
悪意の塊、とは聞いていたが、恨みや妬み、そして悲しみなんて話になってくると……イヴリンって奴も哀れな奴だなと思う。
そんな事を考えていた時だ。突然の叫び声に驚いて飛び上がりそうになった。
「そうだ! ミナト殿と特別な関係になろう!」
アリアよ……元気になったのなら良かったけれど俺は君の頭の中が心配だよ。
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