第105話:頭わいてんのかてめぇ。
「それで、貴女がたはこれからどうされるのですか?」
「俺達は出来れば静かに暮らしたいんだよ。ただ今の魔王に個人的に狙われててな……もしもの時に周りを巻き込まないようにリリア帝国にでも行こうかと」
「リリアですか……ひとまずそちらに潜伏するという事ですわね? では私はそろそろ下がるとしましょう。何かあればまた声をかけて下さいませ」
いろいろ気になる事は多い。カオスリーヴァとママドラの事とかだって聞いてみたいし、前の魔王との闘いの時の事だって……。
『それ両方とも私にも聞ける事よね?』
いや、戦いの事はともかくカオスリーヴァの事は聞き辛いわ……。
『うん、聞かれても教えてあげないけどね♪』
お前なぁ……。
「待って下さいアルマ様ぁっ! 私は、私はどうしたら!?」
「あぁ……そう言えばかむろの事忘れてたわ」
かむろはずっと正座でもしていたのか足が痺れてプルプルしながらアルマの元まで這ってきた。
かむろの目の前にしゃがみ、アルマが今後の方針を告げる。
「かむろ、貴女はこの方々について行きなさい。皆さんの役に立つ事、いいですね?」
「か、かしこまりましたっ!」
「私は常にユイシスさんの中に居ます。貴女の事もきちんと見ていますからね? しっかりやりなさい。場合によっては後でお仕置きしますので」
かむろはお仕置きという言葉にぶるぶるっと身を震わせたので、余程アルマのお仕置きは恐ろしいのかと思ったのだが……。
「たっ、楽しみにしておりますっ♪」
「ばかっ!」
何故か喜ぶかむろの頭をぺしりと叩いて、アルマはネコの中へと引っ込んでしまった。
「うふふ~♪ えへへ~♪ ごしゅじんごしゅじん、私ごしゅじんと一緒ですよぉ♪」
突然顔面を崩壊させた馬鹿ネコが俺の方に振り向いてご満悦。
「あの、ユイシス様! このかむろ、これからユイシス様に付き従いますのでよろしくお願い致します!」
えっ、俺とかじゃなくてネコになの……?
「うむ、くるしゅうないぞよ~っ♪」
「おい馬鹿ネコ、お前今までの話全部聞いてたのか?」
「はい……聞いてはいましたよ?」
そう言って俺から目を逸らす。
あー、こいつ聞いてたけど何も理解してないやつだ。
「ちょっと待つネ! オネーサン達はまだ取り込み中ヨ!」
「うるさいある! かむろ様に聞きたい事があるあるよ!」
申し訳ないけど完全に忘れてた二人が騒ぎ出す。
今まであのちいさいおっさんをおっちゃんが止めていてくれたらしい。
ちいさいおっさんはかむろへ詰め寄ると、「私の雇用はどうなってしまうあるか!?」と騒ぐ。
顔色が真っ赤になったり真っ青になったりとても忙しそうな奴だ。
「うるさいですよ。アルマ様の館がこんな事になった以上貴方を雇い続ける事など出来る筈がないでしょう」
かむろは思ったよりドライだった。ちいさいおっさんを冷たい目で見降ろして、今にも靴を舐めたら考えてやるとか言い出しそうなくらいだ。
「そ、そんなぁ~っ! 私はどこで料理作ればいいあるか……」
「おい、その事でおっさんに話があるんだが」
ちいさいおっさんは俺の声にビクっと身体を震わせ、「ま、まだ怒ってるあるか?」と泣きそうな顔になる。
一瞬何を言ってるのか分からなかったが、そう言えばこのおっさんに包丁で思い切り頭ぶっ叩かれたんだった。普通の人間だったら死んでた所だが……まぁそれはいい。
「実はな、夢の種なら持って来てる。説明は面倒だから省くが、家もあるし俺達がこれから行く場所まで一緒にこないか? そこでまた夢の種を調理すればいい。俺が雇ってやるよ」
「ほ、本当あるか!? おねーさんは神様よ!」
いや、あんな神様と一緒にしないでくれ。
『君は神様嫌いだもんねぇ』
生き返らせろって言ったら大怪我したままの状態で生き返らせるクソ神だぞ……しかもキララまで送り込みやがって……。
「給料はどのくらい貰ってたんだ?」
「お風呂とふかふかのベッドね!」
……。
俺は無言でかむろを見つめる。
彼女は慌てて俺から視線を逸らし、わざとらしく口笛なんか吹き出した。
俺かむろの事をいろいろ誤解していたかもしれない。
今までは礼儀正しいお堅い奴だと思ってたけど、実際はそう振舞う事が出来るだけで腹黒に違いない。
「ミナト様に感謝するのです! これからも励むように!」
「はいある! 頑張って調理するね!!」
はぁ……出来るだけこのちいさいおっさんの事は労ってあげよう。可哀想すぎる。
「もう話は終わったのか?」
「まぱまぱ見て見てー綺麗なお花咲いてたよ♪」
俺の緊張が解けているのに気付いたのか、アリアとイリスがこちらへ歩いてきた。
イリスは綺麗な花を一本髪に刺している。アリアがやったのだろうか?
よく見るとアリアの頭にも小さな花が付いていた。
「その花良く似合ってるぞ」
「えへへ~♪ あーちゃんが選んでくれたんだよ☆」
あーちゃん? 随分と打ち解けたみたいで何よりだ。
「ありがとうな。アリアのその花も可愛いぞ
」
「う、うむ……ミナト殿は、その……気軽に女子に可愛いとか、言わない方が、その……」
俺は花を褒めたんだがなぁ。まぁ本人がまんざらでもなさそうだからいいか。
「ではこれからは私もお供致しますのでどうぞよろしくお願い致します」
かむろが俺達に向かって深く一礼し、軽くその場で飛び跳ねて宙がえりをする。
急に何してるのかと思えば、ぽんっと音がして子犬くらいのサイズの小さな白い狐になった。
「かむろちゃん可愛いですぅ♪ 変身したんですかぁ?」
「ユイシス様、これが私の本当の姿なのです。アルマ様の影響で力を得たのですが館の外では人型を長く保つ事ができません」
かむろ、白狐だったのか……。
毛はふさふさもふもふ。尻尾もふさふさもふもふ。
「かむろ、後で触らせてもらってもいいか?」
何故かネコがかむろを抱き上げて俺から距離を取った。
『あーあ、完全に変態だと思われたわね』
「えっ、ちが……」
「エッチが??」
どうしてそうなる?
『いや、君も悪いでしょ』
「えっちなのは私にしてくださいよう」
「頭わいてんのかてめぇ」
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