第100話:崩壊の館。


「あ、あ、ああああアルマ様がぁぁぁぁぁっ!!」


 ばたんっ!


 かむろが泡を吹いて倒れた。


「おいかむろ! しっかりしろ!」

「う、うぅぅん……」


 だめだこりゃ。


「おい馬鹿ネコ! お前今何喰いやがった?」


 ネコは祭壇の上に腰かけてお腹を押さえている。

 腹いっぱい食って寝てた筈なのに起きてまた食うってどうかしてるだろ……。


「あっ、ごしゅじんら~♪ あのれすね~ここにぃ~光るこれっくらいの丸いのがあってぇ~」


 ……こいつ、酔っぱらってんのか?


「その光る丸いのをどうした?」

「すっごくいい匂いがしててぇ~舐めたらとっても甘くってぇ~」


 ……あぁ、こいつマジで食ったのか。

 六竜のアルマを丸呑みとは……。


『……今回ばかりは私でも引く』

 そうであってくれよ。で、どうする?

『そんな事私に聞かないでよ分からないわ……安らかに眠ってねアルマ……』

 おいおいおい! そんな簡単に仲間を殺すなって。あ、元々死んでたんだっけ? よく分かんねぇけどさぁ……この状況は絶対まずいだろ……。


「ごしゅじんろうしたんれすか~? ひとりごとがおしゅきでしゅねぇ~?」


 なんでこいつこんなべろんべろんになっちまったんだ?

『多分アルマの匂いと力の強さに耐え切れなかったのよ』

 ああ、魔力酔いみたいなもんか。


 魔力の弱い者が他者から大量の魔力を流し込まれたりすると頭ぐわんぐわんする。それを魔力酔いというんだが……こんな酔っ払いみたいにはならないはずなんだけどなぁ。


『だったらアルマの香りの方でしょうね。昔ゲオルが似たような事言ってた気がするわ』


 ぐごごご……。

 館が一際大きく揺れた。

 そろそろ時間が……!


「おいかむろ! かむろおきろ!」


「まぱまぱーっ! そろそろ崩れちゃいそうだよ!」


 イリスが階段を登って追い付いてきたが、崩れそうなのは君のせいなんだぞー? ちゃんと分ってるかー?


『じゃあたまには叱ってみたら?』

 ふざけんじゃねぇぞ。


『えぇ……?』


「ネコはここに居たから後はかむろを起こして脱出しよう!」

「にゃんにゃんどうしちゃったの? なんか変だけど……かむろちゃんなんで倒れちゃったの?」


 いろいろ事情があるんだけどもう俺も頭こんがらがっててうまく説明できん。


「説明は後だ! とにかくかむろ! おい、早く起きろ……!」


「かむろちゃんはおひるねれすか~? うへへ」

「お前は黙ってろ!」


 怒鳴りつけるとネコはその場にへたり込んでしまった。言い過ぎたかとも思ったが、どちらかというと酔いが回り過ぎて崩れ落ちただけらしい。


「まったくかむろは……仕方ありませんわね」


 急にネコが立ち上がりそんな事を言いだした。


「おい、ふざけてる場合じゃ……」

『待ってミナト君』

 ……あ?


「かむろ、起きなさいかむろ。起きないならかむろの弱点を……」


 そう言うとネコはかむろの着物をはだけさせ、太ももの内側を撫でまわした。


 センシティブ過ぎないかこれ。

『なにしっかり見てんのよ』

 いや、今はそんな事を言っている場合じゃないんだよ。

『うわー、引くわ』

 それより、ネコの奴どうしちまったんだ?


「ひゃ、ひゃっ! あわわわ、ユイシス様何を……!」


 おっ、かむろのやつやっと起きやがったか……!


「おいかむろ、みんなを外に、むぐっ!?」


 ネコが俺の口を掌で塞ぎ、もう片方の手で口の前に人差し指を立てる。

 黙れと言いたいのだろうか。


「かむろ、リース達が困ってるじゃない。いつまで寝ているつもりかしら? 早く起きてやるべき事をやりなさい」

「あっ、アルマ様!?」


 かむろがはだけた着物を直しながら飛び起き、ネコに飛びついた。


「こら、今は甘えている場合じゃないわ。早くここにいる皆様を外へ」

「は、はいっ! かしこまりましたっ!!」


 目の前がぐにゃりと歪み、一瞬で館の入り口前に放り出される。感覚は転移ヴェッセルに似ていた。


 そして、俺達が脱出したとほぼ同時に館がガラガラと崩れ、まるでガラス細工が砕けるようにキラキラした破片となって消えた。


 あっぶねぇ……馬鹿ネコのせいで余計な時間をくってたからもう少し遅かったら俺達まで館と運命を共にするところだったじゃねぇか。


「おっ、ミナトじゃねぇか! ギャハハハ! その様子じゃあいつはぶっ飛ばしたんだな? よくやった!」

「ミナト殿ぉぉぉっ!! 私、私、うわぁぁぁっ!!」


 ハグしてこようとしたゲオルをさっとかわした所でアリアに捕まってしまった。


『ゲオルを避けたのはえらいけど女の子は避けないのね……』

 いや、今のはわざとじゃねーって。


 ぐずぐずと情けない顔をしているアリアの頭を撫でながら外の奴らを始末してくれた事を感謝する。


「よくやってくれたな。心配してたんだぞ」

「申し訳ない……不甲斐ない所を見せてしまった……」

「いや、アリアやゲオルが周りの魔物を倒してくれなかったら村人が全滅してただろうからな。ほんと助かったよ。それで、村の人達は?」

「そ、それが……」


 アリアはバツが悪そうに俯いてしまう。



「……おい、村の人はどうした?」


 魔物は既に討伐していたと言っていた筈だが……。


「あー、嬢ちゃんのせいじゃねぇよ。あれはあの人間どもが馬鹿だっただけだ気にすんな」


 ゲオルがアリアの肩にぽんと手を置いて慰める。


「……何があった?」


「そ、それが……ミナト殿がこちらへ来る直前、村人たちは皆……」


 そこでアリアは俺の顔色をチラっと伺ってから、続けた。


「館の中に戻ってしまったのだ……」


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