第101話:ヴァルゴノヴァ。


「まったく馬鹿な人間共ですね。大方館の中で食べていた食事や生活が保障されていた環境を捨てる事が出来なかったのでしょう」


 なんてこった……。

 結局俺は村の人たちに一度も会う事がないまま、奴等は全滅してしまったのだ。

 完全なる自滅。今にも崩れ去ろうとしているのが分かっていながらこの館にしがみ付くなんてどうかしている。


 確かに夢の種はそれだけの価値があったかもしれない。裕福な生活をしていたわけでないのなら尚更だ。

 だからと言って命を投げ出してまで求めるかね……?


「これだから人間は嫌いなのです。アルマ様の言いつけだから施しをしてやりましたが……強欲な人間に相応しい最期でしたね」

「こらかむろ! なんて物言いですか。貴女には少しお仕置きが必要かもしれませんね」


 ネコが腰に手を当ててかむろを睨みつける。

 というかなんだこれどうなってんだよ……。


「ご、ごめんなさいアルマ様ぁ……でもお仕置きはちょっと嬉しいです」

「相変わらず気色の悪い……私の留守を守っている間に少しは成長したかと思えば結局獣のままではありませんか」

「申し訳ありません! でも私はアルマ様の下僕ですからっ! どんな罰でも受けますさぁ! 早く!」


 ……かむろの奴大分おかしな事になってるぞ。もしかしてこれが本来のかむろの性格なんだろうか……?


「あの、一つ聞いていいだろうか? なにやらユイシス殿の様子が……」


 アリアが不思議そうにネコの頭からつま先までをじーっと眺めている。


「おうアルマ久しぶりだな! 元気そうでなによりだぜ。だがその匂い何とかなんねぇか? 鼻が曲がりそうだぜ」

「アルマ様になんて失礼な……っ! いくら尊きお方と言えど私にとってアルマ様が究極にして至高! 侮辱はゆるしませぐはっ!」


 ゲオルに食って掛かるかむろの脳天をネコ……というかアルマがぶっ叩いた。


「な、何をなさるのですアルマ様もっとぶってください!」

「はぁ……かむろ、お座り」

「♪♪♪」


 かむろはまるで犬か何かのようにその場にちょこんと座り、ご褒美を待つ。


「しばらくじっとしてなさい。私はこの人達と話がありますので」

「放置ですか、分かりましたいつまででもお待ち致しますっ!」

「はぁ、まったくこの子は……」


 アルマはやれやれと顔を手で覆う。こいつも意外と苦労してそうだな。


「ゲオル、私はとてもいい匂いがすると評判なのですわよ? それ以前に女性に向かって鼻が曲がるとはなんですかもう少し礼儀という物をですね……」


「ギャハハ! こいつは間違いなくアルマだぜ! よく復活出来たなオメー」


「私の核は傷付き、本来なら復活までには数百年……いえ、もっと必要だったかもしれませんわ。偶然にもこのユイシスという女性がイヴリンの器だったからこの子の身体の中で私の核が一時的に補修されているのです」


 その言葉を聞いてゲオルがザザっとアルマから距離を取った。

 額に軽く汗を浮かべている。


「全くわからねぇんだがそのなんとかの器ってのはなんだ?」

『ネコちゃんがイヴリンの器……? そんな偶然って、あるの……?』


「おいアルマ……そりゃあ本当か? それが本当なら……」

「本当ならどうしますか? この子を殺しますか? させませんよ。なにせ私はこの子が居たからこうして意識を取り戻せたのです。何より、この子は貴方達の仲間……そうでしょう?」


 アルマは俺の眼をしっかり見据え、反応を伺うように返事を待つ。


「そのイヴリン? の器ってのがなんだかわからねぇけどよ。ネコはもう俺とイリスの家族なんだわ。どんな危険があるのかしらねぇけどネコを殺そうとするなら俺は全力で敵に回るぞ」

「だそうよゲオル。貴方はどうしますか?」


「……ハッ。俺等の大将はそこのミナトだぜ? ミナトがいいって言うならいいさ」


 ゲオルは警戒を解き、腕を組んで「ギャハハ!」 と笑う。イヴリンの器ってのが何なのか全然わかんねぇけどゲオルが単純で助かった。

 さすがに今更ゲオルと戦うのは嫌だからな……。


「ではこのユイシスは保護対象として魔王軍には絶対に悟られたり奪われたりしないようにしなければなりませんわね」


「そのイヴリンの器ってのはなんなんだ? そんなに問題があるもんなのか?」


 俺の問いかけにアルマはネコが今まで見せた事がないような糞真面目な表情で答えた。


「貴女達人間はヴァルゴノヴァって聞いた事あるかしら?」


「ヴァル……なんだって?」

「ヴァルゴノヴァ。古の時代にこの世界を焼け野原にした巨竜よ」


 ヴァルゴノヴァ……? 聞いた事ねぇぞ。

 神話級の六竜の話ならこの世界に生まれたのならいくらでも聞いた事があるが、ヴァルゴノヴァなんて竜の話は聞いた事がない。


「そんな奴が本当に居たのか?」


「ええ、居たのは間違いないわ。だって……私達六竜はヴァルゴノヴァから生まれたんですもの」


 ……は?


『私達の生みの親ってやつよ。だから私達はヴァルゴノヴァが存在していると知っている』


 こいつら六竜達は全員兄妹みたいなものなのか?

 いや、同一個体から生み出されたというのであればカオスリーヴァにとってのギャルンのような物か?


 だとしたら、広い意味では六竜ってのは……。


『全員同じ、なんて言わないでちょうだいね。ゲオルと同じとか思われたら辛すぎて泣いちゃう』


 お、おう……。

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