第91話:アルマの館。
「へぇ……神降ろしみてぇなもんか?」
その神降ろしが分からないけど、何かを憑依させるみたいな奴だろうか。
「私はこの身体の持ち主……ミナトと魂を同じくする者。簡単に言うと前世、という奴だ」
「前世だぁ? ミナトは前世の記憶を自由に呼び出せるってのか? そりゃすげぇな」
さすがにゲオルでもそこは驚くのか。
「さすがイルヴァリースが見込んだ女だぜ!」
男だけどな。
「さて、少しこの空間を調べてみようか。スキャン」
グリゴーレは掌を壁に当て、構造を調べる魔法を唱えた。
空間術師はかなり特殊で、歴史上数人しかいないとか聞いた事があるがこれはなかなか面白い魔法だ。
「ふむ……確かにここは特殊な法則に乗っ取って存在している異空間だね。どんな強力な力でも、破壊力の高い魔法でも破壊する事はできないだろう」
「じゃあ出れねぇってのか? 俺はじっとしてるのは苦手なんだなんとかしてくれ!」
ゲオルが分かりやすくその場で地団駄を踏む。
こいつ基本的な思考回路がシンプルでいいな。
「破壊する事が出来ないだけだよ。ここにはここの出入り方が存在する……今からそれを調べるから待っていてくれたまえ」
俺がやってるはずなんだけど完全にグリゴーレの記憶を降ろしてしまったため、まったく自分という感覚が無い。
どちらかというと俺は見てるだけみたいな感じだ。いつもママドラはこんな気分なんだろう。
「……ここだね。空間にわずかなズレがある。うまく均されているが……ここの隙間から外の世界に干渉すれば……ほら、出入り口の完成さ」
あっさり。グリゴーレはいとも簡単にこの空間からの脱出法を見つけてくれた。
「ただ問題があってね。どこに繋がっているかは分からないよ」
「そりゃ行ってから考えりゃいいだろ。なぁ嬢ちゃん」
「うん。それしかないもんね」
「分かった。ではこの人数が通っても大丈夫なように空間を固定しよう」
グリゴーレの考えが俺にもダイレクトに伝わってくる。
もし空間が不安定なままここを無理矢理通り、途中で空間がズレたり閉じたりしたら、上半身だけどこか別の空間に行ってしまったり、身体の一部だけここに置き去りにしてしまったりという恐ろしい事になる。
この処理はとても大事だ。
「うむ、このくらいでいいだろう。では出来ればこの中で一番強靱なゲオル殿からお願いしたいのだが」
「おうよ。じゃあ一足先に行ってるぜ!」
ゲオルは一切躊躇う事なくひょいっと穴に飛び込んだ。
「じゃああたしも行くね。すぐ来てね?」
イリスに手を振って見送ってから、グリゴーレは俺に話しかけてきた。珍しいパターンだ。俺が俺に対して話しているようなものだからちょっと気持ち悪い。
「私の役目はここまでだ……主導権を返そう。久しぶりの下界でなかなか面白い物を見れた。感謝する。ではまた助けが必要になったら遠慮なく呼んでくれたまえ」
「おう、また頼むわ」
……ふぅ、記憶を降ろし過ぎるのもちょっと危険だなぁ。今回はまともな奴だったからいいけど、変な記憶をフルで引き出したら即犯罪者何てこともあり得る。
その辺の加減はやっぱりママドラに任せるに限るな。
『私のありがたみが分かったかしら?』
おお、分かりみ深しってやつだ。次は頼むぜ。
『仕方ないわねぇ。君の頼みだから少しくらいあの馬鹿の事は我慢してあげるわ』
ほんとに扱い辛い女だよお前は。
『あらそう? 私なんて崇め奉れば大抵の事はしてあげるのに』
それを心からしてやれる自信がねぇよ。
ってイリスが待ってるからな。早く行くぞ。
俺は空間の穴へと飛び込む。いつぞやの転移ヴェッセルのようななんとも言えない感覚が身体を包み、気が付くとかなり広い部屋に立っていた。
「……ここまで来てしまったのですね。尊きお方たち、私は貴方達を見くびっておりました」
かむろが困ったような顔をして中央付近に立っている。
ここは部屋、で良いんだろうか?
かなり広く、もしかしたら地下に広がっているのだろうか?
この空間の一番奥、かむろの背後には神社へ続く長い階段……に似た物がある。
鳥居とは少し違うが似たようなデザインの門もある。
「なぁかむろ、その先には何が祀られているんだ?」
「……ここまで来てしまったのなら隠し通す事は出来ないでしょうね。真実を知る資格を有しているとみなします。ここで眠っておられるのはアルマ様でございます」
「何だとォ!?」
『なんですって!?』
「うわ、なんだ急に大声出しやがって……」
「アルマの野郎がここに居るのか!? あいつは生きてるのか!?」
『アルマは六竜の一人よ。デュスノミアから攻めて来た魔王と戦った際に深い傷を負ってそのまま……消滅したはず』
おいおい、ここに来て六竜のオンパレードじゃねぇか。
イルヴァリースにゲオルに今度はアルマだぁ?
頭が付いていかねぇよ……。アリアあたりがここにいたら頭パンクしてるぞ。
特にアイツは聖竜教の熱心な信者だからな。
「いえ、アルマ様は……生きているとも死んでいるとも言えない状態であります。命の欠片がこの場にて眠りについている、とでも言えばいいのでしょうか」
よく分からねぇな。命の欠片? 力の残りカスみたいなもんだろうか?
『私達は存在の核があって、その一番重要な部分が現存していれば時間をかけて復活する事が出来るの』
そりゃ便利だな……どんだけびっくり生物なんだよ。
『でもアルマは、その核を破壊されたはず……もしかして完全には破壊されてなくて時間をかけて修復したの?』
「アルマ様は話す事はおろか生きているのかどうかも分からない状態ですが、私かむろはアルマ様のしもべ。アルマ様の意思を引き継ぎ、誰しもが安心して暮らせる場所を提供し続けているのです」
おいおいなんだか妙な話になってきたぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます