第79話:女同士なら許す!


 ざわっ。

 そんな擬音が一番適しているように思う。

 それくらいの勢いで、村中の人々が一斉に飛び出してきた。


「あ、あいつを倒してくれたのか!?」

「これで私達は生きていけるわ」

「あんたらは村の恩人だ!」

「あいつのせいで、俺達はぁっ!」


 おいおいなんだなんだどうした事だ。


「ミナト殿これはいったい……」

「ごしゅじん、すっごく感謝されてますけど」

「さっきの人悪い奴だったのかな?」

「オネーサン、ワタシ何がなんだかわからないヨ」


 俺も分んねーって。てかむしろママドラ、いい加減説明してくれよ。あと身体返せ。


「……まだよ。あいつはこのくらいじゃ死なない。すぐに帰ってくるわ。巻き込まれたくなかったらさっさと家の中に戻りなさい!」


「ひっ、まだ生きてるのか!?」

「そんな……早く逃げなきゃ!」

「頼む、あいつを何とかしてくれ!」


 村人たちは口々に思いのたけをぶちまけながら慌てて家の中へと逃げていった。


「ねーママ。あの人って……」

「イリスには分かるのね。偉いわ。でも大丈夫、もう二度と会う事が無いようにしてやるんだから……!」


 どういう事だ……? ママドラの本気の一撃を受けても死なないってだけで異常なんだが、いったい何者だ?


「うぉぉぉぉぉ!!」


 ドドドド! と土煙をあげて先ほどの男が爆走してくる。


「シビれたっ!! 結婚してくれぇぇぇっ!!」


「うっさい死ねゲオル!!」


 再びママドラの拳が唸る。

 が、今度はゲオルと呼ばれた男がその拳を掌で受け止めた。


 なんだこいつ! 強いぞ……!


「あぁぁぁぁもう、鬱陶しいぃぃぃっ!」


 完全に拳を受け止められたママドラはその場で軽く飛び上がり、ぐるんと宙がえりをするような感じで回転し、ゲオルの頭頂部へ踵落とし。

 そのままゲオルの身体は地面にずどんと埋もれてしまった。


「ギャハハッ!! 相変わらずすっげーなイルヴァリース!! 結婚してくれ!」


「ふざけんな死ねッ! 私の前にその面を見せるなって言ってあったでしょう!?」


 地面から首だけ生えている状態のゲオルをママドラがひたすら蹴り続ける。


「死ねっ、死ねっ!」

「ギャハハハハ! 相変わらず気性が荒いな、そんな所も可愛いぜ結婚してくれ! それと、そんな服でそんなはしたない動きしたらパンツ丸見えだぞ」


 ママドラ、こいつ殺せ。

「殺したくてもッ! なかなか死なないのよこいつッ!!」


 ママドラがストレージからディーヴァを取り出し大きく振りかぶる。

 奴がじっとこっちを見上げてくるのでパンツ見えてるだろうな……マジで気持ち悪いからやめてほしい。

 ワンピースなんか着て来るんじゃなかったかな。


 でもどうせ女の姿してるなら可愛らしい服着たいっていう感情が芽生えてしまっていて複雑な心境なのだ。


「君の変態趣向にとやかく言う気は無いけど、今だけはこいつに見られるのも許して。気にしてたら殺せないから!」


 ママドラは本気だ。

 ディーヴァに魔力をもんもん込めていく。


「おっ、それヴェッセルじゃねーか! カカカ!! いいぞいいぞそれでこそ俺の女だァッ!!」


「だぁれが、お前の……女だぁぁぁぁっ!!」


 ディーヴァが見た事ない色に発光した。俺が使った時よりはるかに威力を増している。

 キララと戦った時、今の状態のように自由にママドラを顕現させる事が出来たならあそこまで苦労しなかっただろうと思えるほどの一撃だった。


 ガギィッ!!


「ヒュハハ!! ひはねーひはねー!」


 マジかこいつ……ディーヴァの一撃を歯で受け止めやがった。

 というか頭の向きがおかしい。いつの間に真上向いた? 首の捻りが不自然だった。


 ぎゅるるるっと地面の中でドリルのように動いたかと思えばにゅるっと這い出してくる。


「ふぅ、さすが俺が惚れた女だぜ! 久しぶりに会ったけど相変わらずいい女だな! ってか随分若返ってねぇか?」


「……はぁ、やっぱり殺せないか。無駄に頑丈なんだから……」


 やっぱり昔からの知り合いらしい。こいつ何もんだよ。


「ちょっと待って。すぐに身体返すから」


「……リース、お前なんか変じゃないか? それもしかして人間の身体か?」


「話すと長くなるのよ……とにかく私はいろいろあってこの身体の主に助けられて、今は同化して一心同体なの。もう私はこの人の物なのよね」


 その言い方誤解を招くだろうが!

 いや、もしかしてわざと言ってるのか?


「な、なんだって……? お前、人間に身も心も捧げたのかよ……! マジか……泣くぞ?」


 分かりやすいくらい露骨に悲しそうな顔になって目に涙を溜めるゲオル。


「そういう事。今もちょっと身体使わせてもらってるだけだから私帰るわよ? 言っておくけどミナト君に迷惑かけちゃダメだからね! 仲間の子達にも! 分かった!?」


「お、おう……わか……った。マジなんだな……そうか、アイツの次は、人間か……」


「黙れ。あいつの話はしないで。じゃあ私は引っ込むから。ミナト君あと宜しく」


 えっ、冗談だろここからどうしろって言うんだよ。


「おい聞いてるのかママドラ! ……あっ」


「テメェがリースの男か……ん? いや、女じゃんお前」


「……えっと、いろいろありまして……」


 少し手を顎に当てて首を捻ったあと、ゲオルはパンっと手を叩き、にっこにこになった。


「そうかそうか! そういう事か! 相手が女なんだな? 男に取られた訳じゃなくて、女同士の恋愛なんだな!? よーしそれなら俺は許す! 変な野郎に奪われるのは我慢ならんが相手が美人なら許してやる! 思う存分に幸せになれ! 俺の分までな……!」


 無茶苦茶な事を言いながら滝のような涙を流しつつ、「幸せになれよぅ……」とか言い出す始末。


 悪い奴じゃなさそうだけどなんなんだ一体……。


「結局お前なんなの……?」

「えっ、俺? 俺は六竜のゲオルってんだ。よろしくなギャハハハッ!」


 ……ママドラっ!!

『知らない知らないもうこいつに関わりたくない』


 おい、おいって!

 それ以上問いかけてもママドラは応えてくれなかった。


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