第80話:ド正論の説教。


「六竜……マジなのか?」


「んぁ? おうよ。俺はゲオルってんだよろしくな。リースとは昔っからの付き合いでよ、会うたびに結婚申し込んでるんだが毎回断られてんだわギャハハハ!」


 うーん、なんかあんま悪い奴じゃなさそうだけど頭は悪そうだなぁ。


「そういえばなんで村の人から迷惑がられてんの?」


「……えっ? 俺、迷惑がられてたん?」


 ゲオルは本当に初耳という感じできょとんとしていた。マジかこいつ。


「俺達は村の人たちにお前を何とかしてほしいって頼まれてたんだぞ?」

「マジかよ……いつもうまい飯や酒くれるからめっちゃいい奴等だなーって思ってたのにショックだわ俺……」


 あ、馬鹿だこいつ。

『馬鹿なのよこいつ』


「村の名前もゲオル村って言うんだろ? って事はさ、昔からこの村にいるのか?」


 ゲオルは俺の質問に首を横に振る。


「ここは俺を信仰してる村だったらしいんだよ。俺がここを訪れたのは偶然で、丁度二か月前くらいかな……村にちょうど魔物が群がってたのを追い払ってやったらゲオル様ゲオル様つってさ、飯くれたんだよ。だから俺は……」


「いや待て待て、まさかそれで二か月ずっとここで飯貰ってたのか……?」

「え、ダメなの?」


『こういうやつなのよ……馬鹿過ぎて会話したくない』

 ちょっと分かる気がする。


「この村は今かなり食糧難みたいでさ、あんたに飯食わせ続けて村人がほとんどまともな飯食えてないんだよ。見て分からなかったのか?」


「マジでか!? あいつら、それならそうと言えばいいのに。俺がそんな事にいちいち気付く訳ねぇじゃんかよ!」


 しらんがな。


「あの、話に割って入って申し訳ない。私はアリアと言う者だ」

「へーアリアね、この嬢ちゃんもかっわいいなぁオイ」


「かっ、かわ……コホン、それはいいんだ。私が言いたい事はだな、その……ここの村人は少しでもゲオル殿にいい食事を食べてほしかったんだと思う。でもこの村にとってはそれを毎日続けるのは経済的に難しかったんだ。ゲオル殿も好意に甘えてしまうのは分かるがそれを二か月も居座ってはダメだろう……人の迷惑というのもきちんと察して差し上げなければ」


「えっ、あっ、うん……ごめん」


 六竜が素で説教されて謝ってる。


「分かれば宜しい。ではゲオル殿、もうこの村にたかってはいけませんよ」


「おう分かったぜ!」


 ゲオルは驚くほどあっさりとアリアの説教を受け入れた。


「おーい! 村の皆、今まで悪かったな! 俺馬鹿だから毎日飯出して貰えて当たり前のように食いに来ちまったぜ。ただな、一つだけ言わせてもらうぞ、お前等の飯めちゃくちゃ美味かったーっ!」


 ゲオルはその場で、村中に響くほどの声をあげた。

 きっとそれは皆に伝わっているんだろう。気まずいのか近寄ってくるような事は無かったが、皆家の窓や玄関先などからゲオルに向かって頭を下げていた。


「ここの飯が食えなくなるのは寂しいけどしょーがねぇな。また適当に魔物でも食って生活するさ。えっと、ミナトって言ってたっけ? リースの事よろしく頼むぜ」


「お、おう……元気でな」

『ばーかばーか! さっさとどっかいけーっ!』

 お前嫌いすぎだろ……。


「えっと、ゲオルさんも一緒に来たらいいんじゃないですかぁ? 美味しいご飯食べれないのはとっても悲しい事ですよぅ」


『な、このネコちゃん何を言ってるの!? 君、早く黙らせて!』


「お、おいネコ、無理言うんじゃない!」


 必死に、ネコの誘いを無かった事にしようとしたんだけど、それ以上はもう何も言えなかった。だってさ、もう一人それに賛同しちまったんだもん。


「ゲオルのおじちゃんも一緒に行く? ママの知り合いなんでしょ? いろいろ話聞いてみたいな~♪」


『い、イリス……!』

 なぁ、さすがにイリスが賛同するなら俺は反対しないぞ。諦めろ。


『そんなぁ……』


「もしかしてイリスちゃんか!? いやぁママにそっくりで美人になったじゃねぇか! でもいいのか? 俺が一緒に居ても迷惑じゃないか?」


「私は聖竜教徒。六竜様は私達の信仰対象だ。私の信仰心はイルヴァリース様への物だが、無論ゲオル殿も尊ぶべき者。私は大歓迎だ」

「アリアちゃん、ありがとうよ。でも……お前等のリーダーはリース……じゃなかった、そのミナトだろう? 俺はミナトの決定に従うよ」


 うわ、俺に決定権を流して来やがった……。

『断れっ! 断れっ!』

 諦めろってば……。


「あぁ、もし良ければ一緒に行こうじゃないか。日々の飯くらいは保証するぜ。日によって質素な日もあるだろうけどそれは勘弁してくれよな」


 そう言って俺は右手を差し出した。


「感謝、ってやつだ! でもここの村の奴等みたいに何かあっても黙ってるってのは無しだぞ! 言いたい事があったら直接言ってくれ!」


 ゲオルはそう言うと、「ギャハハ! これからよろしくな!」と笑って俺の差し出した右手を握りしめた。


 ばきべきぼき。


「ぎゃーっ!! ば、馬鹿野郎! 力加減ってもんを覚えろ!! こっちは人間なんだぞ!?」


 手の骨が曲がっちゃいけない方向に曲がった。


『はぁ……なんでこうなるかなぁ。それと正確には君はもう人間じゃないからね。唾つけときゃ治るでしょ』


 ママドラめ……やさぐれやがって。


「わ、悪い! 悪気があった訳じゃねぇんだ!」


「大丈夫……いてぇけどすぐ治せるから。それより、俺はともかくうちの女子達にこんな事がないように頼むぜ? 強度が心配なのはネコくらいだろうけどな」


「ハッ、やはりミナト殿は私の事をゴリラ女だと思っているのだな……しゅん……」


 自分をか弱いと認定されなかったアリアが何故かしょんぼりしてしまった。強いから問題無いって思っただけだったのに。


『あーあーなかしたーおんなのこなかしたー!』

 うわぁめんどくせぇ……。

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