第75話:悪い気はしない。


「そういえばアリアは騎士団長なんだろう? 団長不在で騎士団は大丈夫なのか?」


「それは大丈夫だ。兄上に押し付け……いえ、後の事は任せて来たのでな」


 今押し付けてきたって言おうとしたなこいつ……。


「それよりこの馬車はどこへ向かっているのです?」

「それは私も気になってましたよごしゅじん。まずはどこへ行く予定なんですぅ?」


 アリアとネコの疑問もごもっともだろう。何せ何も説明してないし、俺とおっちゃんで勝手に決めた事だからなぁ……。

 イリスはなんにも気にしてないらしく小窓から外の景色を眺めていた。


「ダリル王国を出ようと思う。まずは国境方面を目指すようにおっちゃんに伝えてあるけど、それまでに道すがら街には寄って食料とか買ったり休憩したりはあるから安心してくれ」


「国境って言うとまたシュマルの方へ行くんですかぁ?」


 ネコが首を傾げながらそう言うが、今回は違う。


「いや、今回はリリア帝国へ行こうと思ってる」

「リリア帝国だと!? み、ミナト殿、リリア帝国がどんな所かご存知か!?」


 ……まぁ、アリアからしたらそういう反応になるのも仕方ないな。


「勿論分かってるさ。リリア帝国はダリル王国とは長い間対立しているからな。今でも小競り合いが続いているんだろう?」


「そう。リリア帝国とはいつ戦争が起こるか分からないような関係だぞ。私達は今からそんな所へ行くのか!?」


「嫌ならここで降りてくれて構わないぞ」


 我ながら酷い言い方だと思う。でも正直言えばここで降りてもらった方が巻き込まずに済むからそれでもいい。


 アリアは歯を食いしばりながら俺をしばしにらんで、おおきくため息をついた。


「……はぁ、やはりミナト殿はいじわるだな。いいだろう。どこへでも付き合おうじゃないか。しかしなぜリリア帝国を選んだのかくらいは教えてもらえるんだろうな?」


「ああ、ダリアと敵対している場所へわざわざ行く意味はないだろ?」

「だから理由を聞いているのだ」

「まさにそれが理由なんだよな。そんな所に行ってるとは思わなかった、って所に向かってるだけだよ。それに万が一追手が来た時に出来るだけ周りを気にしなくて済む場所の方が都合がいい」


 アリアは口をあんぐりと開け、放心してしまった。

 ネコは早々に話を理解するのを諦め、イリスと一緒に外を眺めている。


「か、感服いたしたっ! なるほど、確かに潜む事が目的ならばそれが一番発見されにくかろう。しかも戦闘になった時に被害が出ても問題無いように敵国へ行くとは……御見それいたしました」


 突然アリアが俺に土下座するような姿勢になり頭を床に擦り付けたので慌てて頭を起こさせた。


「何やってんだお前は……いくら俺がイルヴァリースと契約してるからって俺にまでへりくだる必要無いだろうが」

「いえ、勿論最初イルヴァリース様の使いというようなイメージを持った事は確かです。ですが今はどちらかというとミナト殿自体の魅力にひかれていると言いますか、その……とにかく私は何処までもついて行くと決めたのだ。嫌がられてもついていくぞ! どうしても嫌なら私を切って捨てろっ!」


 びだーんっと、今度はあおむけになって手足を大の字に広げ、「さあ切れ!」と騒ぎ出す。


 急に床面積を占領するもんだからネコとイリスが隅っこに追いやられてしまった。

 ネコとイリスも彼女が何を始めたのか気になるらしくこちらを注視している。


 というか、俺がまた何かやったんだろう、みたいな視線を向けられていて辛い。


「おいアリア、分かったから起きろ。お前がついて来たいなら勝手についてくればいい。拒んだりしないさ。その代わり、一緒に来るなら役に立ってもらうからな?」


「む、無論だ! 力仕事から戦闘、夜伽までなんでもこなしてみせよう!」


「ねー、にゃんにゃん、よとぎってなぁに?」

「にゃっ? 夜伽って言うのはですねぇ、夜に男の人を気持ちよくさせてあげる事ですよ♪」


「おい馬鹿ネコ、汚い性教育すんなって前にも言わなかったか?」


 あの馬鹿め……というかアリアもアリアだ。急に何を言い出すかと思えば……。


「わ、私ではダメだろうか!? 無論生娘だし、その分経験は無いが望む事ならば何でも……」


「にゃんにゃん、きむすめってなーに?」

「まだえっちな経験のない女の子の事ですよー♪」

「へー、じゃああたしはきむすめ?」

「そうですそうです♪ ちなみに私も生娘ですよー♪」

「やったー♪ じゃあみんなでまぱまぱによとぎできるんだね☆彡」


 待て、待て待てそれは違う。


「イリス、イリスは俺の娘なんだからそういうのしちゃだめ。ゼッタイ」


「えー? 娘だとダメなの? じゃあにゃんにゃんとアリちゃんとするんだ? ずるい」


「しねぇよ!!」


 なんで誰かとそういうのするの前提で話が進んでるんだ。イリスは絶対よく分かってないだろ……!


「私はいつでも抜いてあげるって言ってるんですけどねぇ~♪」

「なっ、やはりユイシス殿とミナト殿はそういう関係であったか……! 新参者ではあるがどうか宜しくお願いいたしたく……!」

「仕方無いですにゃ~♪ 抜け駆け禁止と独占禁止さえ守ってもらえれば基本何してもおっけーですよぅ♪」

「おぉぉぉっ!! 許可を頂き有難き幸せ!」




 ……許可とか取るならまず俺にしてくれねぇかなぁ?


『ミナトハーレム計画が順調に進んでるようね♪』

 俺がそんな妙な計画を立てたみたいに言うのやめてくれる?


『悪い気はしないでしょう?』

 そ、そりゃあ、これでも男なので……。


『正直でよろしい♪』

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