【完結】転生はもう結構です！ ✟100万回死んだ俺が最後の命で出来る事✟

第７６話：オタク特有の早口。

『正直でよろしい♪』

　お前に嘘ついても無意味だからなぁ。恥ずかしいが認めよう。

『じゃあちょっと身体借りるわね』

　……は？　意識ある時に出てくるのは消耗がどうとか言ってなかったか？

『今は同化が進んで前よりも気楽に出来るのよねー♪　じゃあちょっと借りるよっと』

　待て、何をする気だ……！

「こほん、やぁやぁ皆の者私はこのミナトの中に居るイルヴァリースである♪」

「あっ、ママだーっ♪」

　イリスが飛びついてくる。マジで乗っ取られた……！　身体が全く動かん。

「いっ、イルヴァリース様っ！？　ははーっ！！」

　アリアは完全に平伏してガタガタ震えている。ちょっと可哀想なくらいだった。

「そんな震えてないで顔をよく見せなさい」

「はっ、はひっ！」

　ママドラが俺の身体を使ってアリアの顔へ手を持っていき、顎をクイっとあげさせる。

　そしてギリギリまで顔を近付けた。

　近い近い！　お前何やってんだあほっ！

「あっ、あのっ、イルヴァリース、様？」

「……うん、近くで見てもとっても綺麗で可愛らしい子ね。ごーかくよ♪」

　何が合格なんだよっ！

「ほへーっ、ごしゅじんの中にママがいるって本当だったんですねぇ。初めまして、でいいんですかぁ？」

　ネコは良くも悪くも馬鹿だから、誰を前にしても態度が変わらない。王様相手にもこのまんまだったからなぁ……。

「あらネコちゃん初めまして♪　って訳でも無いんだけれど、ちゃんと話すのは初めてね。勿論ネコちゃんは私のお気に入りだからごーかくよ♪」

　だからその合格ってなんだよ……！

「……今ミナト君が頭の中でぎゃーぎゃー騒いでてうるさいから私はすぐに帰るけれど、二人にこれだけ伝えたくて出てきたのよね」

　ごくりと息を飲むアリア。

　ほぇ？　とアホの顔をしてるネコ。

　ぎゅっとママドラの腕にしがみ付くイリス。

「アリアって言ったわね？」

「ひゃいっ！」

「君とネコちゃんはこの身体の主、ミナト君に好き勝手していい権利を与えます。このイルヴァリースが正式に認めるわ」

　ばかやろーっ！！　な、何をトチ狂ってんだてめぇっ！！

「あーうるさいうるさい。頭の中で騒がないでちょうだい。このミナトって奴はね、本当は女の子にモテて嬉しいしえっちな事もしたいくせにずっと我慢してるようなアホなのよ。だから本人に聞いてみたから間違いなしっ☆彡」

　ふざけんなよ！　オイ、マジで人の尊厳って知ってるか！？　プライベートな秘密をかってに暴露してんじゃねぇよ！！

「や、やった！　イルヴァリース様から許可が出たのならば最早何も気にする必要は無いな！」

「そうですねぇ♪　やっぱりごしゅじんずっと我慢してたんですねぇ……もっと積極的に私からいろいろしてあげるべきでした♪」

「じゃっ、そういう事であとはよろしくっ！　あでゅー♪」

「ママドラのアホーッ！」

　気が付けば体の主導権が元に戻っていた。

　目の前には妙な視線を送ってくる二人。

　そして、何故か俺の身体を羽交い絞めにするイリス。

「い、イリス……とりあえず離せ、な？」

「うーんとね、ママがこうしろって言った気がする」

　おい馬鹿ドラっ！　何してくれてんだアホっ！

『酷い言われようねぇ？　いつまでも悶々とむっつりしてるからちゃんと本当は嬉しいんだよって教えてあげただけじゃないの』

　ビッグなお世話だボケぇぇっ！！

「ミナト殿……」

「ごしゅじん……」

「ま、待て……！　話せば分かるっ！」

　アリアが俺の胸元辺りに手を這わせ、ネコは太もも辺りを撫でまわしてくる。

　あっ、これマジでヤバいやつだ。

　流れに任せるのは正直男としてはいい思いをするだろう。

　きっと俺の中で何かカルチャーショック的成長を遂げる筈だ。

　しかし、この場でそんな事を受け入れる事はできない理由がある。

「おっ、お前等ーっ！！　こんな所イリスに見せちゃダメでしょーがっ！！」

　俺の叫びに二人がピタっとその手を止め、顔をしかめる。

　やがて、俺に延ばされた手は全て引っ込んだ。

「そうだった……確かにミナト殿の言う通りだ。私とした事がはしたない……お恥ずかしい限りです」

「私はどっちでもいいんですけどぉ、多分イリスちゃんに見せるにはちょっと刺激が強過ぎちゃうかなって思うのでやめておきますねぇ♪」

　た、助かった……。

『ちっ、つまんねーの』

　お前なぁっ！？

『あはは♪　でもたまにはこういうお遊びも許してくれたっていいでしょう？　いつも裏方で頑張ってるんだからね？』

　む……確かにそれは感謝しているが……だとしてもさっきのは悪ふざけが過ぎる。

　そして失われた俺の尊厳はもう二度と帰ってくる事はないんだ。

　さよなら俺の尊厳……。グッバイ俺の真面目なイメージ。

『もともとそんなもの無かったわよ大丈夫♪』

　俺の心をよめるお前からしたらそうかもしれんが人間ってもんには世間体という言葉があってだな、それぞれ自分に殻を被って他人に見せる用の鎧を展開してるもんなんだよ！　誰しも心に壁があって自分の本心を簡単に見せたりしないもんなんだ分かるだろう！？

『へーすっごーい♪』

　ダメだこいつまったく興味ねぇ。

『早口がとってもオタクっぽーい♪』

　ぐぅっ！？

　……悲しい事に、精神的ダメージはこれが一番大きかった。