第74話:ほんまもんのアホ。
「つまりだな、簡単に言うと……」
まず空間の指定を行い、その範囲内に有る物を切り取る。
これは空間魔法に特化した魔導士がいたのでその記憶を利用させてもらった。
次に、異空間への干渉という異能を持った人物の記憶を取り出し、その中で切り取った家を展開する……という訳だ。
まさにカット&ペーストがしっくりくるんだが、この世界の住人にはうまく伝わらない。
「なるほど……つまりミナト殿は巨大なマジックストレージを所有していて、どんな物でも自在に出し入れできる……という認識で合っているだろうか?」
アリアが顎に手を当てて真剣に考察を始める。なるほど……こちらの人にはマジックストレージという認識の方がよほど分かりやすいようだ。
とはいえイリスもネコもよく分かってないみたいだが。
「オネーサン! それって、もしかして荷物入れ放題カ!?」
「えっ、うん、多分ね?」
「凄いヨ! 物量を気にせずどこにでも運ぶ事が出来るネ!」
ああ、商人的な目線からだと確かに便利な能力かもしれない。
俺もこの力の組み合わせを見つけた時、ペンとか本とか徐々に大きくしていっていろいろ実験したものだ。
家丸ごととなると成功するか分からなかったからダメならダメで諦めるつもりだったけれど、思いのほかうまく行った。
「これなら商品の移送がいくらでも出来るネ!」
確かにおっちゃんの言う通り荷物の運搬はこの力を使うと解決する。可能性しか感じない。
うまく使えば某猫型ロボットの道具みたいな便利能力だろう。
「まぁ見ての通りって感じだよ。指定した物をしまって、好きな場所で展開できると思って貰えればいい」
「凄いです……でも、残念でもありますね。これでミナトさんがここに帰る理由がなくなってしまいましたから」
そのレイラの呟きを聞いて少し申し訳なくなってしまったが、その考えは少し違う。
巻き込まない確信が持てればいつでも来るし、逆にそれまではここに家があってもなかなか寄り付かないかもしれないから。
「そんな心配してたのか。大丈夫、たまには顔を出しにくるよ」
「……ミナトさんは優しいですね」
俺にはその言葉を字面通りに受け取る事は出来なかった。
彼女があまりに悲しそうな顔をしていたから。
きっと俺の嘘なんてお見通しなんだろう。
少なくとも、事情があるのは理解している。
それが分かるからこそ、俺はそれ以上何も言えない。
「……また、会えますよね?」
「当たり前だろ? それは約束するぞ。必ずまた会おう」
「それは、ですか。なら私は信じます。待ってますからね?」
レイラの様子を心配するようにレインが彼女を背後から抱きしめる。
レイラは我慢できなくなってしまったのか、俺に背を向けてレインと抱き合うように泣き出してしまった。
「ごしゅじん……」
「何も言うな。今生の別れじゃねぇよ」
『罪な男ねぇ』
うるせぇ。罪があるのは認めるけどこれじゃねぇよ。
俺はいい生き方なんて出来てない。それは自分でよく分かってる。
だからいつもろくな死に方はしない。でも、今回ばかりは……大切な娘、そしてついでにネコの為にもまともな人生送らないと。
「じゃあ俺達はそろそろ行くよ」
「みんなまたねー♪」
馬車から身を乗り出しイリスが手を振る。
俺は、馬車に乗り込む直前に手を振ったのを最後にした。
それ以上はどの面下げて別れを惜しんでいいか分からなかったから。
『相変わらずこじらせてるわねぇ。寂しいなら寂しい、悲しいなら悲しいでいいのに』
人間はそう単純じゃねぇんだよ。
『人間は、じゃなくて君は、の間違いでしょ?』
……違いねぇ。
何はともあれ、俺達は新たな旅へと出発した。
今まで行った事がない場所へ行こう。
出来れば人里からそれなりに離れていて、のんびりと暮らせるようなそんな場所へ。
「そう言えばお前ほんとについてくるんだな……」
「ん、私の事か? 迷惑だろうか……?」
馬車の振動で小刻みに揺れながらアリアがちょっと困ったような顔をした。
「いや、別に迷惑とは思ってないけど……俺達はまだどこへ行くのか、何をするのかも決まってないし、ついてくるのは大変かもしれないぞ? なによりお前にメリットが無いからな」
「む? 心配は無用だ。私は私の意思でここに居るのだからどんな辛い旅だろうと乗り越えてみせよう。それに私は強い。きっと役に立ってみせるぞ」
「お前国の命令で監視に来たんじゃなかったのかよ」
「ぬぉっ、そ、そそそれはそうなのだが、ぐぬぬ……ミナト殿は意外と意地悪なのだな……」
「なんの事だか」
いまいちアリアの本心が読めない。どこからどこまでが本心でどれが建前だ?
『わざとか? わざと言ってるのかこいつ』
俺は腹の探り合いみたいなのあんま得意じゃないんだわ。特にアリアの奴みたいに何考えてるか分からないのは特に。
言う事がコロコロ変わるし、国に対する忠誠心も本物だろうし、何か裏があるんじゃ……。
『アホや、こいつほんまもんのアホや……』
「うっせぇな! だったらアリアが俺の事好きだとでも言いたいのかよ!」
「なっ、なななっ、何を言い出すんだそそそそんな事……私の口から、言わせないでほしい……まだ、そんな段階じゃ、ない……」
しまった、また声に出てた!!
というかなんだその反応、俺はどうするのが正解なんだよ……。
アリアは両手で自分の頭をくしゃくしゃやりながら「ふぉぉ……!」などと呻いていた。
一部始終を見ていたネコとイリスから向けられる視線が、何やらとても痛かったが、それよりもまた厄介なメンバーが増えた事による不安で頭がいっぱいだった。
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