第71話:ケジメ。
「ふぅ……ところでアリア、俺に何か用か?」
わざわざ騎士団長が俺に会いに来るんだからなにかしら理由があるんだろう。
「……ん?」
アリアを見ていたら何か、違和感を感じる。
「な、なんだ? あまりジロジロみないでほしい……」
「ああ、すまん。何か今日のアリアはどこか違う気がしてなぁ」
「分かるか!? さすがミナト殿、見る目がある。やっぱり分かる人には分かるんだな!」
なんかめっちゃテンション上がってるけど……何がどう違うのかはさっぱりわかってない。
というかただ違和感感じてるだけなんだけど……。
「それで、その……どうだろうか? これでもいろいろ頑張ってみたつもりなんだが……」
……この子はいったい何を言ってるんだ?
どうだろうと聞かれても……。
そう言えばこうやってまじまじ彼女の容姿を見るのは初めてな気がする。
いかつい鎧を身に纏っていた時には分からなかったがとてもスタイルがいい。
と言ってもただ痩せているとかではなく、しっかりと絞り込まれた整い方だ。
それでいて出る所はしっかり出ている。
兜を取った所も目にしていた筈だが、その時の俺は余程余裕が無かったんだろう。
こんな顔をしていたのか、というのが本音だ。
銀色の髪の毛を後ろで一つ縛り……つまりポニーテールにしている。よくよく考えたらこの世界の人間の髪の色というのは本当に様々だ。日本だったら銀髪なんてビジュアル系のバンドかそのファンくらいしかしてないんじゃないか?
本当にそういう部分も含めてアニメやゲームのようである。
切れ長で睫毛が長い少し釣り目よりな瞳はなんとなく狐を連想させる。
銀色の狐がいたら見てみたいものだが。
薄い水色のワンピースを着ていて、胸の下あたりに黒い大きなリボンが付いており、ボディラインをきゅっと引き締めている。
……あっ。
『やっと気付いたの? この子も可哀想に……ほら、意見を求められてるんだから早く答えてあげなさいよ』
そんな事言われたってこういうの慣れてないんだってば。
「あ……その、反応しにくい事を聞いてしまって申し訳ない。忘れてくれ」
『ほらへこんじゃったじゃない! 早くしなさい!』
お、おう……。
「今日は随分おめかしして来たんだな? 騎士姿も様になっていたけれどそういう女の子らしい服装もよく似合ってるよ」
『うーん……四十点』
採点が厳しくないか……?
「そ、そうだろうか……? ミナト殿にそう言ってもらえると頑張った甲斐が有るというものだ。城で働く女性たちにもいろいろアドバイスを貰ってな……って、そんな事はどうでもいいな、すまない」
「いや、そんな事はないさ。また違った一面を見れてよかったよ。それで、今日はどうしてそんな可愛らしい恰好で?」
『馬鹿。二十五点に引き下げ!』
えぇ……?
「えっと、その……可愛らしい、なんて言われるのは初めてなのでその……て、照れるな」
俺が可愛らしいと言ったのは服装の話だったのだが、なんというかまぁ、確かに可愛いな。
『なんだこいつ腹立つわ……』
なんでお前が怒ってるんだよ。
『君の無神経さに腹が立ってるのよ。この子は褒められ慣れてないから君のへぼい褒め言葉で喜んでくれてるけど、実際ダメダメなのを自覚しなさいよね』
うへぇ……がんばるわ。
『そうしなさい。勉強が必要よ』
「そ、そうだ! 今日は本当はミナト殿を誘って街を案内……なんて考えていたんだけれど、出かけ際に兄上に言伝を頼まれてしまってな。準備が整ったからいつでも城に来てくれ、だそうだ。何か心当たりがあるか?」
『無神経なのは君だけじゃなさそうね。わざわざ妹がおめかしして出かけようって時にそんな伝言頼むなんて』
準備……というと礼の件か。
それならネコとイリスを連れて城まで行かないとな。
「実は王と約束があったんだ。奴の処刑が終わったら話をする予定だった」
「そ、そうだったのか……ではせめて城までお供しよう」
『あーあ、かわいそ……』
うるせぇなぁ……こっちはこっちで大事な要件なんだよ。
「おいネコ、準備しろ。城までいくぞ」
「……」
「ネコ?」
「……もう喋っていいんです?」
『君に怒られてからずっと正座して黙ってたんだよこの子は。ちゃんと褒めてあげなさいよね』
……いや、褒める必要ねぇだろコレは。
「誰も喋るななんて言ってねぇよ。とりあえず早く出かける準備してこい。あとイリスも呼んで来てくれ。俺はおっちゃんに声かけておくわ」
おっちゃんも十分巻き込まれてるからな。王様に頭を下げさせる資格はある筈だ。
結果的に、王は大げさなくらい見事に土下座して謝ってくれた。
俺はあまりに見事な土下座にむしろ関心してしまって、憤りなんて消えてしまったくらいだ。
ネコは全然気にしてなかったのか、むしろ土下座してる王の頭を撫でて「大丈夫ですよ~♪」なんて言いやがるもんだから結構ヒヤヒヤした。
王様は何故か喜んでたので別にいいけど。別にいいけどなんか腹立つ。
イリスはそれこそどうでもいいやって感じで成り行きを見守っていた。
おっちゃんは終始困惑し、慌てふためいていた。
それもそうだろう。いきなり王様が頭下げるとは思わんもんな。
そんなこんなで通過儀礼は終了し、俺達は晴れて無罪放免。
これで本当に自由の身というやつだ。
誰に追われるでもなく悠々自適に……。
『とはいかないでしょうね』
はぁ……やっぱりそうだよな。でも現状こちらから動きようが無いんだから今はしばらくゆっくりしたっていいだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます