第72話:ミナトの歪んだ処世術。
「お久しぶりですミナトさん……それに皆さんも。お元気そうで何よりです」
「あぁ、レイラのおかげであの時は本当に助かったよ。感謝してる。いつか必ず礼をするから俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」
俺達はおっちゃんの馬車でシャンティアまで戻り、ノインが用意してくれていた俺の家に帰って来たところだ。
さすがに俺達を見送りに来たアリアが泣きそうになってたのはびっくりしたが、また会おうと約束した。
勿論ローラ達三人とも再会を約束し合った。
しばらくはのんびり暮らそう。俺達に与えられた家で、ごく普通の家庭のように。
「お礼だなんてそんな……でも、何でも……ですか? えへへ」
「お姉ちゃんが悪い事を考えています。きっと何でも言う事を聞いてくれるならそれを理由に結婚を迫ろうとかそんな感じですよ」
「レイン! こ、こらっ! なんでそれを……じゃなくて、私がそんな無理矢理結婚を迫るなんてするわけないじゃないですかっ!」
『あらあらモテモテね?』
これはそう思っていいのかねぇ? というか妹のレインが随分性格変わってないか?
『思春期の女の子は成長早いからね♪ でも相変わらずイリスとは仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ』
そう、レインは成長したイリスを見てかなり驚いていたが、当時と変わらず接してくれている。二人で話している時はかなり楽しそうだ。
親としては娘にいい友達が出来るのは本当に嬉しい。
「あ、あの……ミナトさん。レインの言った事は、その……」
「大丈夫、分ってるよ。きっと何かの間違いだろうからな。でも俺に出来る事があったら本当に遠慮なく言ってくれよな」
「えっ、えっと……いや、その……あ、はい。そうですね……いざという時にはお願いしようと思います」
『さいてー』
何がだよ……。
『君からあんな風に言われちゃったら間違いじゃないなんて言える訳ないじゃない』
分かってるよ。だからわざとああいう言い方したんだってば。実際求婚されても困るし、俺の勘違いだったらめっちゃ恥ずかしいし、何より万が一俺に対して本気になってたりしたら彼女が大変だからな。
『……君は、自分に関わる人が不幸になるとでも思ってるのかしら?』
不幸かどうかはしらねぇけど人生歪むだろうなとは思ってるよ。
『本当にバカな人ね……』
うるせぇ。
「お姉ちゃんの意気地なし。あんまりのんびりしてると私が取っちゃうからね?」
「なっ、えっ!?」
『ほんと、なんでこんなのがモテるのかしら?』
マジレスするとこいつらはお嬢様で俺みたいな冒険者と接する機会が少ないから変わった物に興味が出るお年頃なのさ。
『……君さぁ』
なんだよ。
『まぁいいわ。そういう事にしておいてあげる。でも一つだけ言わせてもらうわね。いつまでもそんな誤魔化しで逃げられると思わない事ね』
なんだよそれ……脅しに聞こえるんだが。
『脅してんのよ』
そう言ってママドラは笑った。
どっちにしたって俺は当分恋愛の事なんか考える余裕ないっての。身体も女のままだしな。
そう言えばママドラが帰ってきたら聞こうと思ってたんだが、俺はなんで女のままなんだ?
『それは単純な理由よ。私との同化がほぼ完了したって証拠ね。君は今男よりも女に傾いてしまってるの』
まじかよ……。ずっとこのままって事か?
『意図的に男性の姿に戻る事は出来るわ。今の標準が女性に傾いてるってだけの話よ。でも別に男の姿じゃないと困る事ってそんなにないでしょう?』
……この先生きていく上で男じゃないと困る事。確かにあまりないのかもしれない。
大衆浴場的な場所へ行く時は男じゃないと都合悪いかもしれないが……でもそれだといちいち男物の服に着替えて男として風呂に行く訳で、とてもめんどくさい。
『それに気を抜いたら女の子になっちゃうしね。一緒に浴場に居たおじさん達が欲情しちゃうわ』
誰が上手い事言えと……。
『いいじゃないいっそ女湯入っちゃえば』
いや、流石にそれはその……。倫理的に、なぁ?
『そこで迷う素振りを見せるあたりキショイのよね』
キショイとかママドラも言うんだな……。
『話題をすり替えないの。でも男に戻れるってのが分かっただけでも有意義だったでしょう? ほら、可愛いネコちゃんといざって時には男に戻れるわけだし。別に女の子同士でもあの子は気にしなさそうだけど』
ばっ、おまっ、何をっ。
「ごしゅじん? どうしたんですー? またママさんとお話中ですかぁ?」
「な、なんでもないこっち見んな!」
「えー、酷いですぅ……」
「まぱまぱ! 今のはひどいよ!」
ネコがしょんぼりした【フリ】をして、俺はイリスに怒られてしまった。馬鹿ネコはいちいちそんな事気にしないってば……。
「にゃんにゃんに謝って!」
「う……ネコ、なんというか、その……すまん」
「うにゃ……べつに私は気にしませんけど、それよりどうして見ちゃダメだったんです?」
『言ってあげなさいよ。君とあんな事やこんな事するところ想像してたから気まずかったんだーって♪』
このやろう……!!
「ごしゅじん……?」
「あ、あぁ……なんでもない。ほんとなんでもないからマジで」
「変なごしゅじんですぅ。でもなんだかこういうの久しぶりですね♪」
『……確かに、こういうのも悪くないわよね』
……まったくだな。
『でも私が出てこない間にネコちゃんに手を出しておかないなんて本当に奥手というか臆病というか甲斐性無しというかむっつりというか……』
おおそうか、そんなに前言撤回してほしいか。
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