第69話:諸々の後始末その2。


「ちょっと、ミナトさん……どうなってるんだこれ」

「頼むからちゃんと説明してくれよ……」


 俺達は今ローラたちの家に押し掛け、小さ目のテーブルを八人で無理矢理囲んでいる。


 レイズ、ロイズ、ローラ、アリア、ライル、ネコ、イリス、俺。


 何の説明もなく押しかけたからレイズとロイズはかなり困惑している。

 ローラは二人の事を知っているらしくお茶を入れてくれようとしたのだが、カップの数が足りないとの事でアリアとライル、それとイリスの分だけ用意してもらった。


「あの、ごしゅじん、この人達はどちらさまなんです?」


「ミナト殿……もしかしてこの亜人の少女は……」


 ライルが眉間に皺を寄せながら聞いてきたので、「そうだ」と返してやると……。


「この度は本当に申し訳なかった! 何も知らなかったとはいえそちらの言い分を一切聞かずに捕らえてしまった事、本当に……」


「ごしゅじん、この人何言ってるんです?」


「……えっ?」


 急に亜人に頭を下げたライルを見てアリアはかなり面食らっていたが、ネコの返事を聞いたライルが口を半開きで俺に何か言いたそうな視線を送ってきた。


「あぁ、こいつ馬鹿なんだよ。だからライルは気にしなくていい。こいつに頭下げるのは王様だけで十分だ」

「し、しかしそういう訳には……」

「いいんだよ。そうやって頭下げてくれただけで俺はお前の事を信じられる」


「そろそろ俺達にも説明してくれって!」


 レイズがこの状況に耐えられなくなったのかそんな事を叫ぶ。だけどアリアやライルに言う勇気は無いらしく、その視線は俺に向いていた。


「あ、あの……私もその方と同じ意見です。兄上、そろそろ城で何があったのか教えて頂けませんか?」


 アリアも兄のライルに問う。アリアはミナトが指名手配されているはずなのに急にそれが誤りだったと言われたので混乱しているだろう。


「しょうがねぇな……じゃあ俺が今まで起きた事を一通り話してやるよ。長くなるから覚悟しろよ?」


 ライルは城でイルヴァリース関連の話も聞いてしまっているので隠しても仕方ない。

 俺はアドルフたちに崖から落とされた話からイルヴァリースとの出会い、俺の身体に起きている現象など簡単な経緯をざっと説明した。

 勿論レイズやロイズとの出会いはある程度ぼかして説明したので騎士達に目を付けられる事は無かったはずだ。

 アリアとライルが食いついたのはやっぱりイルヴァリースの話と、勇者で魔王のキララの話だった。


「ではミナト殿は勇者……いえ、魔王キララを倒したのですね?」

「まぁ、一応な。あれで死んでるかどうかは分らんけど」


 最後のあの感じだと死んでるって感じはあまりしないんだよなぁ。


「すごいです……! 私ミナトさんの事勘違いしてました。やっぱりお兄ちゃんたちを助けてくれたミナトさんは凄い人だったんですね」


 ローラの態度が明らかに変わっていた。騎士達を連れてきた事も彼女にとってはプラスポイントだったのかもしれない。


「ミナト殿……この国を守って下さったというのに私達はなんという失礼を……」


 アリアがテーブルに額を擦り付ける勢いで頭を下げる。


「もういいって。誤解が解けて相応の謝罪はこれからしてもらうし、今後の平穏さえ約束してもらえればそれ以上は望まないよ」


「それにしてもミナトさんやっぱりすげー人だったんだな……俺達の目は間違って無かった」

「俺も兄貴と同じ意見だぜ。力になれた事を誇りに思うよ」


 しかしアリアはどうにかならんものか……。

 俺の話を聞いてから態度が異常なほどに変わった。


 彼女は熱心な聖竜教徒らしく、信仰の対象である六竜の一人と融合している俺がモロに彼女の信仰対象になってしまったらしい。


 熱い視線を向けられるのは悪い気はしないが、それが俺にというよりママドラに向けてというのが若干気になると言えば気になる。


『私も君なんだからいいじゃない。今まで以上に二人で一つなのよ? つまり聖竜教は君を信仰しているという事になるわね。良かったじゃないこれから信者をつまみ食いし放題よ?』


 つまみ食いってお前なぁ……。


 なんというか復活したらしたで相変わらずのママドラなのが安心というかげんなりというか。


『私が居なくて寂しかった?』

 んなわけあるかぼけ。


『あらあら照れちゃって可愛いんだから♪』

 ……勝手にしろ。


 そう言えば今まで何してたんだ? あの時無理矢理表に出た後遺症にしちゃ長すぎないか?



『あれ? 説明しなかったっけ? 私は今後の為に君の身体を改造していた訳よ』

 改造って……俺改造人間になったのか……?


『君の言う改造人間っていうのが何かよく分からないけれど、私の力を受け入れるには君の身体が貧弱すぎたのよ。レベルも上がってきた事だし本格的にお互いの割合を均等に保てるような素体を目指したって訳』


 ……あぁ。だから俺が女のまま戻らなかったのか。


『それについては戻す気になれば戻せるけど、疲れるからやだ』

 別にいいよ。俺もこの身体に慣れちまったし、女物の服着てる時にいきなり男に戻されても困るからな。


『あのミナト君が知らない間に随分女の子になっちゃったのね……おもしろっ』

 なんか腹立つなぁ。


「あ、あの……ミナト殿はどうしてしまったのだ? 先ほどから難しい顔をされているようだが……」


「あぁ、ごしゅじんは頭の中で自分会議してるだけですよぉ♪ 頭の中にイリスちゃんのママがいるんです」


 アリアにネコが適当な説明をしている。でも俺の中にイルヴァリースが居ると分かっているのである程度伝わったようだ。

 ……が、問題はそこでは無かった。


「えっと……ミナト殿の中にイルヴァリース様がいて……それで、イリス殿の母上がミナト殿の中に? つまりイリス殿は……」


「あたし? あたしはまぱまぱの娘だよっ♪」



 アリアが不思議そうにこちらを見てくる。イリスに関しては敢えて説明しなかったのだが、ここまで来たら黙ってるのも不自然か……。

 イリスも自分の身に降りかかる問題は自分で解決できるようになってきたし、なによりアリアは信用できる気がする。ちょっと怖いけど。


「あぁ、イリスは六竜の……イルヴァリースの娘だよ」

「えへへっ♪ どやーっ」


 それを聞いていたアリアは一切表情を変え無かったが、突然涙腺がぶっ壊れた。


「神……神が、二人も……神と、神の娘が目の前に……兄上、私はもう死ぬかもしれません」


 しっかりしろ。


「ああ、私も同じ気持ちだよ」


 ライル、お前もか。




――――――――――――――――――――――――――


次回、最後のアドルフ視点回です。さらば。

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