第63話:間の悪い王城潜入作戦。
俺達はローラの好意に甘える事にし、馬車の荷物に紛れ、その時を待った。
イリスは樽の中に、俺は木製の箱の中に。
かなり身体が痛かったけれど我慢してじっとしていると、馬車が止まったのが感覚で伝わってくる。
外で少し話声が聞こえ、ガラガラと荷物が運び出される音が聞こえだした。
どうやら荷台から台車のような物へ乗せ換えられ、倉庫へ運ばれるようだ。
やがて俺の番がやってきて、男のうめき声が聞こえる。そんなに重いかよちくしょうめ。
「じゃあ、よろしくお願いしますね♪」
「あいよー、いつもありがとね」
そんなやり取りが聞こえて、俺達は運ばれて行く。少し乱暴に放り出された後、人の気配が無くなるのを待って箱から這い出ると、事前にローラから聞いていた通り、ひんやりとした石造りの倉庫になっていて、俺達以外は誰も居なかった。
言うなれば巨大な冷蔵庫、という感じか。そこまで冷たくはないけれど。
「イリス、もう出てきて大丈夫だぞ」
そう声をかけると、一応音を気にしてなのか静かに樽の蓋を内側から押し上げてイリスが出て来た。
「ぱぱ、これからどうするの?」
「とりあえず人目に付かないように牢屋を探そう」
ローラの話によると、当初はこの倉庫へ直接納品していたらしく、その際に囚人用の食事を運んでいく所を見た事があるらしい。
彼女も城の内部構造についてはあまり詳しくないようだったが、どちらの方向へ向かって居たのかが分かるだけでもある程度絞り込むことが出来る。
幸いな事に城の一階部分は一般公開されている部分もあり、ホールのようになっている場所がある為厨房以外の設備があまり無い。
という事は、警備はホール側に集中していて厨房周りは最低限の人員だけという可能性が高い。
「とりあえず確率が高い所から調べていこう。付いて来てくれ」
「うん、早くにゃんにゃんを助けてあげないとね」
ゆっくりと倉庫の扉を開け、外の様子を伺う。
そこは通路になっていて、確か倉庫から見て左側へ行くと俺達が運ばれてきたルートへ繋がっていて、途中に厨房がある。
右側へ進むと、何があるかは分からないが囚人用の食事を運んでいた方角との事だ。
通路の角に差し掛かる度、その向こう側に人が居ないかを確認し、時に天井に張り付いてやり過ごしたりしながら先へと進む。
一本道だったのだが、途中で二手に別れていた。
今までの道順を考えると直進したら大きく迂回する形でホール側へ向かうだろうと判断し、もう一方の道を選択した。
するとさらに分岐が現れる。
左右に分かれる道と、地下への階段。
牢屋ってもんは基本地下にあるものだという俺の偏見から迷わず地下へ。
一度階段が折れ曲がり、更に先へ進むと……どうやらビンゴだったらしい。
空気が淀んでいる。換気の事など一切考えられていないようなじめじめした空気。
そして通路が鉄格子で塞がれており、その前には兵士が一人。
警備が一人だけというのは都合がいい。
俺は出来るだけ普通の女を装いながら声をかける。
「すいませぇ~ん、ちょっと迷ってしまって……」
「なんだ貴様、ここは一般人が立ち入っていいような場所じゃないぞ!」
兵士が俺に槍を向けたが、気にせずにそのまま近付いていく。
「それがぁ、ホールでいろいろ見てたら娘がどこかに行ってしまって追いかけているうちに迷い込んでしまって……」
兵士は槍を下げ大きくため息を吐く。
「はぁ……分かった分かった。とりあえずここは立ち入り禁止だ。ホールの方へ戻れ。娘はこちらで城内を調べて、見つけたらちゃんと報告してやるから」
かなりの強面兵士だったのだが、意外と優しい。なんていうか、すまんな。
「ありがとうございます♪ お兄さん、優しいんですね」
そう言ってにっこりと笑いかけると、顔を赤くして「気にするな、それより誰かに見つかるとまずい。早くホールに行った方がいい」とこちらの心配をしてくれた。
「あぁ、でも……もう大丈夫です。娘なら見つかりましたから」
「……? それはどういう」
強面の優しい兵士はそれ以上言葉を続ける事は無かった。
天井に張り付いて移動していたイリスが真上から強襲し、兵士の意識を刈り取った。
「……殺してないだろうな? 結構いい奴だったから出来れば殺したくない」
「大丈夫、加減はちゃんとしたよ」
「よし、偉いぞイリス」
「えへへ~♪ ほめられちゃった♪」
さてと、申し訳ないが鍵を借りていくぞ。
倒れた男が腰に付けていた鍵の束を奪い、鉄格子のドアを開けようとしたのだが……。
「はやくいこっ♪」
既にイリスが腕力でこじ開けた後だった。
……うちの娘は末恐ろしいな。
牢屋は全部で十部屋くらいあり、ずらっと一直線に並んで通路の両脇に並んでいた。
酷い臭いがする。中には既に死んでるのもいるのではないか?
そう思って適当に牢屋を覗いてみると、掃除が行き届いていないだけであまり人はいないようだった。
牢屋の中は簡素なベッドと、トイレが備え付けられていて、そのトイレから異臭が漂っているのかもしれない。
五つめくらいの牢屋の前に差し掛かった時、ガチャっと金属音が聞こえた。
「ぱぱ! にゃんにゃんだ!」
先導するイリスがそう叫び、鉄格子をぐにゃりとひん曲げ中に飛び込む。
俺もそれに続き中へと入ると……。
「にゃっ、にゃっ、あ、あのっ! イリスちゃんとごっごごごしゅじん……助けに来てくれたのは本当に嬉しいと言いますか感謝してもしきれないんですけどっ、今はちょっと向こう向いててくれませんかーっ!?」
やっとの思いで見つけた馬鹿ネコは、
トイレの真っ最中だった。
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