第49話:お嫁さん。
緊迫した空気が流れる。
アドルフは完全にこちらを敵と認め、こちらの動きを見定めようとしている。
生憎と私が緊張しているのはお前じゃなく後ろのキララとかいうどっかの猟奇女を思い出す名前の勇者で魔王な属性てんこ盛り女のせい。
私はあいつから目を逸らす事が出来ない。
「何処を見ている……? 命のやり取りをしているというのに随分余裕じゃないか」
「それだけお前が弱いって事よ」
「……」
静かにアドルフの眼に殺意がこもる。
「やはり腕くらい切り落とさないと君の心は折れないみたいだなッ!!」
アドルフが剣を高く構え、叫ぶ。。
「紅蓮修羅覇道轟雷け……」
「長い」
奴が何かスキルを発動し、赤く輝いた剣をこちらに振り下ろそうとした瞬間にその手首を切り飛ばした。
「……えっ?」
「えっ、じゃないわよ。覚悟しなさい」
「えっ、えっ……?」
アドルフは自分の手首から噴き出す真っ赤な液体を見つめ呆然としていた。
あの女は、その赤を見つめて満面の笑み。
あの口角を吊り上げた狂気じみた笑顔は記憶の中にある二度と見たくない表情とまったく同じだった。
「なっ、何をしたぁぁぁっ!? お、俺の腕っ、腕がっ!!」
「うるさい」
「ひぃぃぃっ!!」
アドルフは私が斜め下から切り上げたのを、その場から逃げ出すように飛びのいたおかげで腕一本吹き飛ぶだけに留めた。
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」
こちらに向かってくるようなら楽に死ねた物を……。
「腕が無くなっちゃったのは貴方の方だったわね」
「腕、腕がぁぁっ!! お、お前何者なんだっ!! 俺は、俺はレベル53だぞっ!? 負けるはずが、こんなはずがないんだっ!!」
顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながらアドルフが泣き喚く。
いつの間にか53までレベルアップしていたとは……この成長加速も勇者の能力なのかしら?
「もういいわ、さっさと死になさいよ」
「き、キララっ!! 助けてくれっ! お前ならこの女を殺せるだろう!? 早くっ! 俺が殺されてしまうっ!!」
「……うふふっ♪ これは貴方達の戦いでしょう? 私が手を出すのはおかしくない?」
「そ、そんなっ! 話が違う! 俺はお前に従う代わりに富と、名誉を……!」
「勇者のパーティに入れたのよ? そして一時でも魔王直属の部下になれた。これ以上の誉れがあるかしら? むしろ貴方にしては上出来すぎる肩書だと思うけれど?」
「そ、そんな……!」
「……と、言いたいところだけれど、貴方に聞きたい事が出来ちゃったのよねぇ……さっきミナトって言った? そのミナトってどんな人? 教えてよ」
先程までの笑顔が完全に消え、表情を無くしたキララが血塗れのアドルフに迫る。
「そ、そんな事はいいからっ、この女を……!」
「……そんな事? 私には何より大事な事なのよ。話すか今ここで死ぬか選びなさい」
「な、なんなんだよ……お前までミナトか!? いったいミナトの野郎がなんだって言うんだ!!」
「うるさいわね。ミナト君の事を話すか死ぬか選べって言ってるのよ」
倒れてもがいているアドルフへ近付き、しゃがみ込んだキララがアドルフの膝に指先を触れさせると、まるで内部から爆発したかのように奴の膝から下が破裂した。
「ぎゃぁぁぁぁっ!! 痛いっ! いだいぃぃぃっ!!」
「話すの? 話さないの?」
こいつ、間違いない……。
二度と会う事が無い筈だったあの女。
キキララ……。どうしてこの女がこんな場所に居るの?
しかも勇者……? そして魔王だなんて……。
そこで頭に一つの可能性が浮かぶ。
まさか六竜の力を手に入れた私をどうにか殺す為に神が送り込んで来たの……!?
『……なるほどね、大体事情は察したわ。でも好都合よ。このままあの男に喋らせましょう』
ママドラの言う通り、これは都合がいいかもしれない。
「話すっ! 話すからぁぁぁっ!! だから、だから助けてくれぇぇぇっ!!」
「……ほら、もう血は止まったわよ。ちゃんとミナト君の事を話したらその腕と足も治してあげるわ」
「……! 血が止まった……痛みも無い! 助かった!!」
「早く言え。死にたいの?」
「わ、分かった、分かったから! ミナトは俺が以前パーティを組んでた男の名前だ」
「……今どこに居るの?」
キララは眉間に皺を寄せ、アドルフに問う。
あぁ……アドルフ、お前の事は私が……いや、俺が殺してやりたかったよ。
「ミナトは、もう居ない。死んだんだ!」
「どういう事? 誰が? いつ? 彼は何故死んだの?」
キララが一歩前に出る。
「あいつは……エリアルの男だったんだ。俺がエリアルと遊んでやったらあの女、あっさりとミナトの奴を崖から突き落としたよ。……ま、待て! あのミナトがキララの言うミナトと同一か分からないだろ!? ほら、話したんだから治して……」
アドルフが逃げるようにずるりと後ずさる。
「ミナト君を殺したのね……? 貴方が」
「お、俺じゃない! 突き落としたのはエリアルだ!!」
「そのエリアルをけしかけたのはお前でしょう?」
「み、ミナトが何だって言うんだ! お前はミナトのなんなんだ……!」
「私が、ミナト君の……? そんなの……」
俺の背筋に尋常じゃない悪寒が走るのと、アドルフの体が氷漬けになったのはほぼ同時だった。
キララが一瞬だけ恍惚の表情を浮かべ、呟く。
「そんなの、お嫁さんに決まってるじゃない」
――――――――――――――――――――――――――
アドルフ終了のお知らせ……かどうかは御察しという事で。
ざまぁはちゃんとある、とだけお伝えいたします(笑)
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