第45話:遭遇。
イリスとネコを一歩下がらせて俺が先頭を進む。
ネコが灯してくれた光は自由に操作する事が出来るらしく、きちんと俺の行く手を照らし続けてくれた。
さすがにこの地下空間には衛兵の姿はなく、その遺体が転がっている事も無かった。
奥へとどんどん進んで行くと、やがて広い空間に繋がっていて、地面には何やら模様が描かれている。
……魔法陣?
『あら、これが何か分かるの?』
分からねぇよ。ただ俺が前に生きてた世界ではこういう地面に円と六芒星みたいなのが描かれてる物は魔法陣って呼ばれてたってだけだ。
『……貴方の前の人生に魔法が存在していたの?』
ねぇよ。魔術とかは眉唾な物として存在していたけどな。で、魔法陣ってのは何かの儀式に使ったりする物だった。
『効果があるかどうかは分からない物、として存在していたのね。それはもはや信仰とか文化に近いのかもしれないわ』
そんな感じだろうな。実際そういうのがあったのか、ただの与太話なのかは確かめようがないけど。
『まぁこれも似たような物よ。儀式、という訳じゃないけれど、きちんと意味があるし使うべき人が使う事で機能するタイプね』
どうでもいいけどやっぱり魔法陣って言ったら六芒星なんだなぁ……。何か理由があるんだろうか。
『これはある意味で古代文明の残した装置なのよ。ここまでしっかりした形で残っている事はとても珍しいわ。もしかしたら機能も生きているかもしれない』
使えるって事か? ママドラはこれがなんだか分かるのか?
『……おそらく、だけど移動用じゃないかしら? つまり……』
これで移動した先に勇者一行が居る可能性がある……?
『あくまでも可能性の話ね。でも手がかりという意味では悪くないんじゃない?』
……確かに、ここまで特に奴等に繋がる情報は何も得られていない。
だったらここから移動した先に居るという賭けに出るのもアリかもしれない。
『それにね、これ最近使われた形跡があるのよ。ほら、地面に埃が積もってるのに所々埃が無い場所があるでしょう?』
……ママドラが言うように、地面にはよく見ると足跡のような痕跡が残っていて、その部分だけ埃の層が薄くなっているように見える。
「ごしゅじん、もしかしてこれがこの遺跡の……?」
「そう、らしいな。多分王都はこれを厳重管理する為に警備していたんだろう」
もしくは管理、というよりも使用させないため、なのかもしれないが。
わざわざ警備を皆殺しにしてまで勇者が使おうとしていたこれは、いったいどこに繋がっている……?
「ネコとイリスは……」
ここで待っていてくれ、と言おうと思い振り返ると……。
「一緒に行きますからね?」
「からねー♪」
……だそうだ。俺の考える事はお見通しらしい。
「敵が現れたら必ず距離を取って自分の安全を確保する事。それだけ守ってくれ」
二人が頷くのを確認してから、俺はママドラに竜化を頼む。
この魔法陣はどうやらこれ自体が巨大なヴェッセルらしい。魔力を流す事で起動する筈だとママドラは教えてくれた。
いつものように髪の毛が伸び、色素が抜けていく。
「……じゃあ、行くわよ」
私は地面に描かれた魔法陣に手を触れ、魔力を流し込んでいく。
すると手を中心にして魔法陣が徐々に光り輝いていった。
その光が全体に行き渡ると、光の柱が立ち上る。
「これでよし……と。じゃあ行くわよ。ついて来なさい」
魔法陣の中へ足を踏み入れると、視界がぐにゃりと歪んで頭の中をぐちゃぐちゃにされたような感覚に包まれた。
「うっ……うえぇぇぇ……何これ、気持ち悪っ……」
「うにゃ……目が回りますぅ~」
「二人ともだいじょーぶ?」
イリスだけがピンピンしてる。やっぱりドラゴンは伊達じゃないのね。
『これは……やっぱり転送用だったみたいね。かなり嫌な空気が漂ってる……注意した方がいいわよ』
ママドラの言葉を聞いて自分の頭を何度かトントンと叩き、具合を確かめつつ警戒態勢に入る。
とりあえずいきなり勇者達に遭遇、って事はなさそうね。
周りを見渡すと、転送された先は同じように床に魔法陣が描かれているが、広さは魔法陣よりほんの少し大きい程度の部屋だった。
しかもかなり古い建物っぽい。
私はネコが落ち着くのを待って魔法陣の部屋から出る。
細い通路が真っ直ぐ伸びていたのでそれを歩いていくと、細かくあちこちに伸びていて、気を抜いたらあっさり迷子になりそう。
私達は地面に剣で傷を付けながらそれを目印にして、無事に帰ってこれるように進んで行く。
道中魔物に遭遇し何匹か片付けつつ奥へ進むが、私が倒した奴以外の魔物の死骸が転がっていない事が妙に気になった。
この道はハズレかな……?
と、思った頃通路の奥の方で激しい戦いの音が聞こえてきた。
「ネコとイリスはここで待機してて。大丈夫だとは思うけど後方には気を付けてね?」
二人にそれだけ伝え、通路の先の角を曲がる……すると、だ。
「あ゛ぁぁぁぁ」
な、何よアレ……!!
そこは広い空間になっていて、中央で緑色とピンクが混ざったような巨大なぶよぶよが暴れていた。
広い空間なのに天井につこうかというほどの巨体。ぶにぶにとした巨大な肉の塊から細い手足が何本も生えていて、縦横無尽に部屋の中を掻き回している。
それと戦っているのは……勇者などではなく、色々な姿をした魔物達だった。
ど、どうなってるの……?
『あの巨大な魔物は完全に理性を失っているみたいよ』
「うお゛おぉぉぉん!! あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!! ア…ぅ…ッ!!」
私は頭を鈍器で殴られたように目の前が真っ白になった。
巨大な魔物は、苦しみながら何か言葉を話している。そして、私の聞き間違いじゃなければその魔物は、彼女は……絞り出すようにこう言っていた。
「あ、ア、あド、アド……ルふ……」
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