第44話:女心とジャンクフード。
俺達はおっちゃんを外に残し、少し離れた所で待機してもらうように告げ、ゆっくりと遺跡……神殿の内部へと入っていく。
そこは一面ただ広いだけのボロボロな空間が広がるだけだったが、床は一面血の海だった
。
広がった、赤というよりも黒に近いどろりとした物。
流れ出したばかりならこんな質感では無いだろう。
外の遺体を見た時はそこまで気にする余裕が無かったが、こうやって床に広がる血痕を見ると一目瞭然だった。
『思ったより時間が経過しているわね』
そうだな……少なくとも丸一日以上は経ってる気がする。
こうなってくると奴等はもうここに居ないかもしれない。
念の為に引き続き警戒をしながら探索を続ける事にした。出来る事なら何かしらの手がかりを手に入れたいところだが……。
一番奥まで辿り着いたところでぽっかりと地下へ通じる穴が広がっていた。
「ごしゅじん、これって……下にまだ広がってるんでしょうか?」
「そうみたいだな。しかし階段じゃなくただの穴ってのが不気味だ」
そう、階段も何も無い。ただぽっかりと穴が開いていて真っ暗な空間が広がっていた。
「ちょっと灯りをつけてみましょうか」
そう言うとネコが両手を胸の前で組んで「光よ」と呟いた。
すると人の頭くらいの大きさの光源が現れる。
「お前こんな事出来たのか」
「にゃんにゃんすごーいっ♪」
「えへへ♪ これでも神聖魔法は一通り使える超優秀神官なんですよー?」
ネコは褒められたのが嬉しいのか隠すのも忘れてネコミミをぴこぴこさせた。
最近このネコミミも隠している時間が減ってきているような気がする。
俺達が偏見無いと分かって安心しているのかもしれない。
ネコミミは正義なので出来れば常に出しておいてほしいものだ。ついでに尻尾も外に出してくれたらいう事は無い。
ママドラ、神聖魔法って俺も使えたりするのか?
『うーん……一応君の記憶の中に神官だった人物は存在するんだけれど、かなり外法を扱う人物だったみたいだわ。明かりを灯すくらいなら出来るだろうけれど基本的には彼女が使うのとは別物かもしれないわね』
そうか……それならネコに頼らなきゃならない日も来るかもしれないな。
『まぁ君の場合は異世界の知識なんかもあるみたいだから他の方法で似たような事を出来る可能性が高いけれどね』
百万回生まれ変わってるのは伊達じゃねぇって事か……全然実感わかねぇけどな。
ただ俺の過去の記憶達を見る限り問題のある人物が多すぎやしないか?
『人よりも何か突出した部分を持っている人っていうのは良くも悪くも変わり者って事よ』
……なるほどね。確かにそれはちょっと分かる気がする。才能に溢れている人ほど変わり者っていうパターンは多いからな。
「ごしゅじん、地面まで結構距離ありますよー? どうやって降りましょうか?」
「とりゃーっ」
一瞬何が起きたのか分からなかった。
それくらい、信じられない光景だったし一瞬にして心臓が跳ねた。
光に照らされた穴の中へ、イリスが飛び降りたのだ。
「イリスっ!!」
俺も慌てて後を追うように飛び降りた。
『馬鹿! 骨が折れるわよ!!』
ママドラに注意されたが咄嗟に身体が動いてしまったのだから仕方がない。
そんな事よりもイリスは……!
「よいしょっ♪」
「……へ?」
『ぷっ、あはは♪ 良い恰好じゃないの』
俺はお姫様抱っこされていた。
「イ……リス?」
「なぁに?」
「ははは……イリスは凄いんだな」
「あたしつおいっ!」
イリスはかなりの高さから飛び降りたのに怪我一つ無かった。それどころか後を追って考え無しに飛び降りた俺をがっちりと受け止めてくれたのだ。
「お、降ろしてくれる?」
「あーいっ♪」
イリスは優しく俺を地面に立たせてくれた。
ネコの作り出した灯りによって周りはしっかり照らされている。
上とは違って岩肌がダイレクト。まるで洞窟の中……そう、ママドラの巣にちょっと似ている。
「ごしゅじーん! 大丈夫ですかぁ~?」
あっ、ネコがまだ上に居たんだった。
「大丈夫だから飛び降りてこい」
「えっ、普通にヤバい高さですってば!」
「だいじょーぶだよー♪」
イリスがにっこにこしながらネコに手を振る。
「イリス、あいつの事も受け止めてやってくれるか?」
「おっけ♪」
「おい、早く飛べ」
「む、無茶言わないでくださいよぉ……」
ネコは涙目で、なかなか降りてこようとしない。
まぁ俺だってイリスが飛び降りたりしなきゃ絶対に自分から飛んだりしない。
「おい、俺が保証するから早く飛べ。無理なら置いて行くぞ」
「わ、分かりましたよぅ……ちゃんと受け止めて下さいね? ……とうっ!」
ネコは完全に俺目掛けてダイブしてきたが、イリスに任せてその場から離れる。
「ぎにゃーっ!!」
俺が急に落下地点から居なくなったので死を覚悟したネコの悲鳴が響く。
「おーよしよしにゃんにゃんよしよーし♪」
がっちりとイリスがネコを受け止め、無事に着地できたのだが……余程怖かったのか、しばらく泣き続けていた。
「ごしゅじんのばかぁ~っ! 死ぬかと、死ぬかと思いましたぁぁ~ふにゃぁぁぁっ!」
「俺が受け止めるよりイリスの方が確実で安全だったんだよ。ほら、泣き止めって。そろそろ先に進むぞ」
「デルドロ焼き!」
ネコはまだ目に涙を溜めながら俺を睨む。
「な、なんだよ……」
「デルドロ焼き!!」
「……それを奢れって事か? 分かった分かった、無事に帰ったら街でデルドロ焼きを買ってやるから、な?」
「……うにゃ、それなら良いです」
デルドロ焼き一つでネコは途端に上機嫌になった。
……女って分んねぇわ。
『お楽しみの所悪いけれど……この先、何かあるわよ』
ふぅ……忘れてた訳じゃないが、気を引き締めないとな。
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