第42話:それぞれの決意と覚悟。
「うにゃぁ……ごしゅじん、難しい顔してどうしたんですぅ?」
「ちょっとな……」
俺達は一度デルドロに寄り、オリオンを降ろしてルイヴァルの遺跡へ向けて出発した。
今はその馬車の中、なのだが……。
そろそろ俺も真剣に自分の答えを出さなければいけない時が来ている。
これから行く場所は王都が管理している遺跡だ。
もし本当にアドルフとエリアルに復讐をするのだとしたら、間違いなく王都ダリルへ知れ渡る事になるだろう。王の耳にも届くはずだ。
そうすれば本格的に俺は大罪人として追われる日々が始まる。
イリスと気楽に漫遊する事は出来なくなるだろう。そして、ネコにも迷惑をかける事になる。
その辺りの決断は王都へ行くまでお預けだと勝手に思っていた部分があったので、こんな所で覚悟を決めなければいけなくなるとは……。
しかも今アドルフと、おそらくエリアルも……勇者と一緒に居る。
あの二人に復讐をするという事は勇者との敵対も避けられないだろう。
勇者がろくでもない奴なのはもうハッキリしているが、だからと言って初対面の女性を手にかけるというのはやはり気分のいい物では無い。
「ごしゅじんってばぁ~! 悩み事なら相談くらいしてくださいよぉ」
「お前に相談してもなぁ……いや、お前にも関係ある事だからちゃんと話しておくか。俺はもしかしたらこれから行く場所で罪を犯すかもしれない。そうしたらきっと国中から追われる身になる」
「うにゃ」
うにゃじゃ分からん。本来こいつは王都へ換金の為に付いて来ただけなんだからここで降ろしてデルドロに帰らせるべきかもしれない。
「今ならまだ間に合うから一人でデルドロに帰れ。路銀が必要なら少し持たせてやるから」
「なんでです?」
ネコは本当に不思議そうに俺の顔をまじまじと見つめた。
俺の隣でイリスが静かに寝息を立てているので起こさないようにしながらもう一度「降りろ」と告げた。
「ごしゅじんがもし犯罪者になってもごしゅじんはごしゅじんですよね? もし国から追われる事になったら他の国に行けばいいじゃないですか」
……亡命、か。
勇者殺し、という汚名を背負ってそれが可能なのかどうかは分からないが、確かにダリル王国と敵対しているリリア帝国あたりに逃げ込めば簡単に手を出せないだろうが……。
そうか、そういう手もあるのか。馬鹿と話すのもある意味収穫があるものだ。
『この子は意外といろいろ考えてる気もするわよ?』
馬鹿は馬鹿だろ? どうせろくでもない事ばかり考えてるに違いない。
「お前……この先ずっと俺についてくる気か?」
「私はずっとごしゅじんと一緒に居たいです。本当なら奴隷として売られていくはずだったんですし、今更犯罪者になる事なんて怖くないですよ♪」
「はぁ……お前は本当に馬鹿だな」
「えへへ♪」
褒めてねぇって……。
……俺に万が一の事があったとしてもイリスの事だけは絶対に守る。
もしもの場合は俺の身体を上手く使ってくれて構わないからな?
『あのねぇ……それは本当に最終手段よ? 出来る事なら自分でうまくやりなさい。まだ君の身体の準備が万全じゃないんだから』
おう、よく分からんがママドラもありがとな。
『君にはイリスを助けて貰っているから出来る限りの事はしてあげるわ』
そりゃ俺の娘でもあるからな。
『……君は本当にそう思ってくれているの?』
なんだよ。どういう意味だ? イリスは俺の娘……あぁ、そういう事か。
『うん、君は私と同化したからイリスが娘なのは確かだけれど、君個人の感情としては結局他人でしょう?』
……それがなぁ。確かに俺とイリスは血の繋がりなんか無いし、なし崩しで出来た娘ではあるけれど……今は全く気にしてなかったな。
普通に娘として大切に思ってる。
『そっか。あの時私の巣に訪れたのが君で良かったわ。イリスを助けてくれたし、ちゃんと大切に思ってくれてるもの』
急にしんみりするなよ。俺はただ人との距離感がよく分かんねぇだけなんだ。
昔からそうだった。人を信じられないから好かれようなんて思っていなかったし、思った事を思った通りに口にする事でしか自分を表現出来ないクソガキ。
その代わり、そんな自分を気に入ってくれる人の事はコロっと信じてしまう馬鹿だった。
頼られるのも人から好かれるのも慣れてなさ過ぎて、好意を寄せられると放っておけなくなってしまう。
だからイリスみたいな純粋な愛情を向けられたらもう俺はあっさり陥落してしまうのだ。
俺にとってもうイリスは他人とは思えないほどに自分の一部になってしまった。
『なるほどねぇ……それがいつもの童貞ムーブに繋がってるのね♪』
お前なぁ……まぁ好かれたら気になっちゃうのは否定しないよ。
だからイリスはもう俺の娘だ。娘を大切にするのは当然だろう?
『だったら尚更よ。娘を大切に思うから復讐を思いとどまるのも愛情かもしれないけれど、イリスからの愛情は君が何をしたって変わらないわ。たとえ国を追われたとしても君が無事に傍に居てくれるのなら、ね』
……俺だって出来る事なら自分の立場を悪くしたくはないさ。
だけど……。
遺跡が近付くにつれて、崖から落とされた時のエリアルの言葉が強く思い出される。
あの時の絶望と、崖下で冷たくなっていく体、そして……。
その時に感じた二人への殺意が。
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