第41話:採掘所事件の真相。
「ごしゅじーん、そろそろ出発の時間ですよぉ~?」
「まぱまぱ、にゃんにゃんが呼んでるよー」
はぁ……いい加減いつまでも拗ねてる訳にもいかないか。
俺はゆっくりと身体を起こし、イリスに手を引かれ部屋から出る。
「あっ、ごしゅじん……その、朝はごめんなさい」
「べ、別に……」
気まずすぎて顔を直視できなかった。
チラチラと様子を伺うと、どうやらネコの視線は一点を見つめていて……。
思わず馬鹿ネコの頭をぶっ叩いた。
「てめぇどこ見てやがる!」
「ぎにゃーっ!? ご、ごしゅじん痛いですぅ……」
「うるせぇ! この発情ネコが!」
「それは……人の事言えないと思うですぅ」
「アレはただの生理現象だ! 忘れろ!!」
「……まぱまぱー、何かあったのー?」
「ごしゅじんのごしゅじんが……」
「イリス、こんな馬鹿の言う事は無視しなさいっ!」
なんとしてもこの話をこれ以上続けさせてはならない。
これ以上余計な性知識を植え付けられたらたまらん。
「ネコ、それ以上イリスに変な事を吹き込んだらお前はデルドロに置いていくからな」
「ふにゃっ!? そ、それは困りますぅ! 私はごしゅじんについていくって決めたんですからっ!」
「だったら分かるな?」
ネコはちょっと悔しそうな顔をしたり、顔を赤らめたりしながら結局首を縦に振った。
「まぱまぱー? 何があったのー? あたしにも教えてーっ!」
「あ、あぁ……朝ネコとばったり会っていろいろ話をしたってだけだよ」
「そ、そうなんですよ! 一緒にお風呂でお話しただけなんでいだぁぁいっ!! 叩かないで下さいよぉごしゅじん」
「余計な事は言わんでいい!」
まったく、こいつはどんなに過去に悲しい事があったんだとしてもそれを帳消しにしてしまえるくらい頭がお花畑過ぎる。
優しくしてやろうと思ったそばからアホ発言でぶち壊してくる。
こいつはこういう奴なんだ。妙な期待はするな。
『妙な期待、って何かしら? うふふ♪』
ママドラが考えてるようないかがわしい話じゃないよ。
『あら、いかがわしい事なんて考えて無かったのだけれど……?』
……くっそ、やはり俺の味方はイリスだけだ……。
みんなして俺を振り回しやがって……!
「そろそろ準備は出来ただろうか? 採掘所を確認に行きたいのだが」
痺れを切らしたのかオリオンがこちらの様子を伺いにやってきてしまった。
「あ、ああすまん。こっちはもういつでも大丈夫だ。すぐ出発しよう……そうだ、宿の方に俺達の同行者が一人居て、そいつが馬車を持ってるからまず宿に寄って貰ってもいいか?」
「そうだったのか。ならばその者もこちらへ招待するべきだったな」
俺達はまず徒歩で屋敷を出ておっちゃんの居る宿へ向かった。
「オニーサン! 全然来ないから心配したヨ! 何かあったのかと……」
そう言えば俺達もすぐに宿へ行くと言ったっきり放置してたな……。
「すまん、いろいろあったんだよ。でもちゃんと待っててくれて助かった。もう一人で出発してるんじゃないかと……」
「ワタシオニーサンに一生ついていくと決めたネ! 悲しい事言わないでほしいヨ!」
「そ、そうか……ありがとな。一生はちょっと困るけど……」
そもそもなんで俺についていくって発想に至ったのかが不思議なんだが……まぁその辺は聞かないでおこう。
「君が商人のオーサンだな。私は貴族連盟のオリオン。よろしく頼むよ」
「お、オリオンさんネ……? オニーサン、また知らない間にお偉いさんと仲良くなってたの? ワタシにも声かけてほしかったヨ」
しょんぼりと肩を落としたおっちゃんに詫びつつ、採掘所までの移動をお願いした。
歩いたらそれなりにかかった距離も馬車での移動だと二十分もかからないくらいだった。
その時からおっちゃんに頼んでればもっと楽できたのにな。
「う、まさかこの残骸は……」
採掘所に到着すると、まだゴリーブ女王の下半身がそのまま転がっていた。
「あぁ、それがここの親玉だよ。こいつのせいで中が少し削れてるだろうけど問題はない……と思う」
「繰り返しになるが中にはもう魔物は居ないんだな?」
「ああ、それは大丈夫だ。それと毒ももう消えてるはずだよ」
その後俺とオリオンの二人で採掘所の中へ入り、ざっと様子を確認したのだが……。
「た、確かに魔物は全滅しているようだ……しかしこの死骸の山は……」
採掘所の中はゴリーブの死体が至る所に転がっていて地獄絵図だった。
正直俺は見たくも無いので結構苦痛だったのだが、確認に付き合わなきゃならなかったのでなんとか死骸を踏みつぶさないように意識を集中していた。
「……私の依頼は原因の解明と対処だったが、魔物の討伐は完璧にこなしてくれたな。感謝する。ちなみにこれの原因についてはこちらの方で解決しそうだよ」
ああ、そう言えばゴリーブはぶち殺したがなんで急にこいつらが大量発生したかまでは分からなかったな。
「実はこれもライアンの仕業だったらしい」
「なんだって? ライアンってあんたと敵対してたもう一人の管理者だろう? なんだってそいつが……というか人間が意図的に魔物を発生させたってのか?」
それはそれでいろいろ問題があるぞ。
「それが、おかしな話なんだ。ライアンの父親はそれなりにきちんとした人間なのだがね、息子に権限を譲った事を後悔していて相談を受けたんだ。ちょうど君がここの魔物と戦っていた頃だろう」
「……親はまともだったんだな。それで? その親父さんがこの件とどう絡んでくる?」
オリオンは眉間に皺を寄せて語り始めた。
「これはここだけの話にしておいてほしいんだが……どうやら勇者が関係しているらしい」
勇者だと……? 話を聞く限りろくでもない奴なのは分かっていたが……。
「ここで魔物が現れるようになった少し前に一度勇者がライアンの元を訪ねていたらしい。そして、彼女らが去った後、ライアンが何か妙な丸い物を持って出かけて行ったのを見た、と……」
今彼女、って言ったか? 新しい勇者は女だったのか……?
『今重要なのそこじゃないでしょ?』
分かってるって。
勇者はデルドロにしばらく滞在していたのか?
「勇者がゴリーブの卵をライアンに渡してこの事態を引き起こしたっていうのか?」
「……正直そこまでは断言出来ない。しかし、何かしら関係があるのは確かだろうな」
確かに勇者が来て、帰った後妙な球体を持ってライアンがどこかへ行った、じゃなんの証拠にもなりはしない。
だけど……流れ的に勇者が持ち込んだと考えるのが一番しっくりくるな。
「既にライアンが街を出た後の足取りについてある程度調べがついている。やはりここへ向かったという話だ。その時同行していた男を突き止め尋問している最中なのでほどなく悪事が暴かれる事だろう」
……俺が巨大ゴキブリ退治している間に裏でそんな事してやがったのかこいつは。
「全てはっきりすればライアンから管理権限を剥奪する事も可能だ。そこから先はこちらでどうにかするさ。とにかく依頼を無事達成してもらえた事に感謝する」
「いいって事よ。俺も有益な情報貰えたしな。とりあえず一度街まで送るよ。それで俺達はそのままルイヴァルの遺跡へ向かうつもりだ」
「遺跡へ……? そこへ行っても中に入れるとは……いや、確かにあの勇者には何かある。君に任せるのが一番いいのかもしれないな……ただ、あまり無理をしないでくれたまえよ。我が街の恩人が勇者に殺されたなどという知らせは聞きたくないからな」
……確かに、そんなふざけた事にならねぇようにするさ。
どっちかっていうと俺が勇者を殺すかもしれないけどな。
―――――――――――――――――――――――――
ついに勇者&アドルフたちの足取りを掴んだミナト君。
邂逅の時は近い!
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