第34話:決意と迷い。
勇者が提示した報酬というのは、鉱山の問題を解決したのち鉱山にて得られる収入の三割を永続的に、だそうだ。
どう考えても馬鹿だろう?
デルドロの運営の八割以上は鉱山から採掘される鉱石関連だそうで、それの三割を永続的にというのはどう考えても法外としか言えない。
さすがに断るのは当然だろう。
結局俺はオリオンからの依頼を受ける事にした。
まだあいつらをどうするかという問題に答えは出ていないが、諦める気になった訳じゃない。怨みはまだ色褪せず俺の中でくすぶっている。
それに……少なくとも放っておいていい奴等ではなさそうだ。
世界の為にあいつらをどうにかしないと、なんて殊勝な気持ちではないが、どちらかというと俺の元パーティメンバーにこれ以上堕ちてほしくないという気持ちの方が強い。
勇者もどうしようもない奴だと分かってしまったが、俺が勇者に喧嘩売って勝てるのだろうか?
やるにしても相手は三人、こちらは役立たずの馬鹿ネコと子供が一人……ほぼ一対三になるだろう。
ママドラの力を使ってなんとかするにしても出来る限り短時間で人目に付かない場所で一気に始末しないと、その後の俺の人生が終わる。
いや、俺は最悪大罪人になろうが牢に繋がれようが死刑になろうが構わないが、イリスを一人にするわけにはいかない。
イリスの事を考えるならば俺が死ぬ、或いは一生繋がれるような事だけは避けなければいけない。
だとしたら、やはり人目の無い所で一気に奴等を皆殺しにするしかない。
勇者に恨みはないがどっちにしても生きていたって善行をするタイプとは思えないから構わない。
それで魔王を倒す奴が居なくなるって言うなら新しい勇者でも選出してくれ。
『あらあら、思ったより決意が固まっちゃったのかしら?』
正直まだ迷う部分はあるさ。でもあいつらがこれ以上馬鹿な事をする前に俺の手で殺してやるのが一番いいだろ。
『放っておけばいいと思うけど……ま、私にとっては勇者と戦うって方が面白そうだからそれでいいわよ♪』
お前は気楽でいいなぁ。
『安心しなさいな。最悪の場合たかがヴェッセル一つ持っていきがってる勇者なんて私が捻り殺してあげるから』
それじゃあ意味がねぇんだが……まぁ、頼りにしてるよ。
俺からしてみればヴェッセル持ってるってだけでかなりの脅威だがな……。そもそも効果も何も分からないし、それに認められただけで勇者とまで呼ばれる古代文明の遺物……。
やはりママドラの所で俺も貰っておくべきだった。とはいえ自分が使いこなせるかどうかは別問題だが。
『ヴェッセルってのは効果も性能もピンキリだからねー。勇者が使う物はそれなりに良い物なんだろうけど……君が戦える相手かどうかは実際見てみないとなんとも言えないわね』
ま、あとはなるようにしかならんな。とりあえず目の前の問題を解決しよう。
ネコとイリスはオリオンの屋敷に置いてきた。あそこならある程度面倒を見てくれるだろうし。……ネコが面倒を起こさなければだが。
『君のその気遣いも何の役にも立ってないのよね。気付いてないのかしら?』
……どういう意味だよ。
『あの木の陰を見て見なさいよ』
……?
「ふにゃっ!? こ、こっち見てますよバレちゃいましたかね?」
「大丈夫だよにゃんにゃん! あたしたちは今木だからっ!」
「そうでした! 自然と一体化……一体化……」
……あの馬鹿ネコぉ!
いつから付いて来ていたのか分からないが、採掘所の手前で一休みしているうちに追いつかれてしまったようだ。
「あっ、イリスちゃん! ごしゅじんこっち来ますよ!?」
「……」
「イリスちゃん!? 木になりきってる……!! わ、私も……! 私は木、私は木ですっ!」
「……」
「私は木……私は……って、なんでこっち来るんですかやめて下さい触らないでへんたいっ! ぎにゃーっ!! みみ引っ張らないで下さい痛い痛いっ!!」
「あははっ、バレちゃったねー♪」
「こらイリス、ここは危ないんだぞ? ついて来ちゃダメじゃないか」
「ごめんなさい」
「許す。ここまで来たならしょうがない、一緒に行こうか」
「わーいっ♪」
俺は馬鹿ネコのネコミミの方を摘まんだまま引きずるように採掘所へ。
「ご、ごしゅじんっ! それはダメですさすがに痛いっ! 千切れるーっ!!」
さすがにこんな騒がれていたら魔物を呼び寄せてしまうので離してやった。
「い、痛いですぅ……」
「お前は本当に馬鹿だな」
『でも君少し楽しそうだったわよ?』
……嘘だろ?
でもアドルフ達の事で頭の中が殺伐としていた所に馬鹿ネコを見て気が緩んだのは間違いない。
こいつと居ると真剣に悩むのが馬鹿らしくなってくるからな。
「な、なんです……? まだ怒ってるんですかぁ?」
今度はその頭を乱暴にわしゃわしゃかき回してやった。
『照れ隠しもここまで分かりやすいと面白いわね』
うるせー。
「わ、わわっ、なんなんですかもぅ……」
髪の毛が乱れに乱れたのを一生懸命直そうとしているネコを見ていると気持ち的に落ち着いてきた。
なんだかんだこいつも俺の役に立っているのかもしれない。
『お、それはもしかして恋の予感かしらっ!?』
こいつ相手に八つ当たりするとスッキリするんだよなぁ。
『あ、ハイ。そうですか』
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