第33話:最低勇者。


『おやおやおやおや~? 赤髪の冒険者というのは君が探していた男の事じゃないかしら?』

 そんなの分かってるんだよ……!


『あはは♪ これは面白い事になってきたわね』

 笑い事じゃねぇよ……。何がどうなってアドルフが勇者のパーティに入る事になったのか分からんが、万が一俺がアドルフを殺したら勇者の仲間を殺した大罪人確定じゃねぇか……。


『さぁどうするの? このまま追いかけて赤毛の冒険者を殺す? それとも諦めるのかしら?』

 うるせぇ! ちょっと黙ってろ! 今頭の中ぐっちゃぐちゃでお前の相手をしてる余裕が無いんだ。


『あら、悲しい事言うのね? 私達はもう一心同体だって言うのに』

 ……あぁ、そうだったな。今後の事については本当に考えなきゃいけないかもしれない。



「おや、住民からの報告を来て見れば……君がライアンの……という訳ではなさそうだな?」


 あぁ次から次になんなんだ畜生。


「お、オリオン様! この兄ちゃんが助けてくれたんです。あいつら懲りずにまた来やがって……」

「ほう? ではこの地の管理者として礼を言わせてもらおう。感謝する。しかしこの街の問題なのであまり首を突っ込まない方がいいぞ」


 まさかこんな所に貴族のオリオン本人が出てくるとは思わなかった。

 オリオンは綺麗な銀髪の、いかにもナイスミドルといった風貌だ。


「なんですかこの人! せっかくごしゅじんが助けてあげたって言うのに」

「おい馬鹿ネコやめろ」

「でもごしゅじーん……」


 こいつが話に絡むとややこしくなるだけだ。


「あんたがオリオンか? ノインからこれを預かってるから目を通してくれ。わざわざ行くのもどうかと思ったんだが本人が来たなら渡さないのも不自然だからな」


 我ながら言い訳臭くなってしまったが、したためてもらった物を上手く使わせてもらおう。


「ノインだと……? あいつめ、なかなか連絡を寄越さなかった癖に……どれ、読ませてもらおうか」


 いつのまにか俺の足元に来てしがみ付いてきたイリスをひょいっと持ち上げて肩車をしてやると頭の上であちこちキョロキョロ見回し始めた。

 きっとこの状況が退屈なんだろう。


「ふむ……ノインからの連絡かと思ったが少し違うようだな。君の事をよろしく頼むと書かれていたよ。しかし……これはある意味好都合か」


 何かを企んでいる人間というのは分かりやすく表情に出るもので、このオリオンという男も俺達に何かを押し付けようとしているのが手に取るように分かった。


 ライアンの件だろうか?


「よし、とにかく君達は一度私の屋敷へ来てくれ。そちらで詳しい話をしよう」


「食事は出ますかっ!?」

「この馬鹿ネコ……!」


 どうしてこんな状況でそんなアホな発言が出来るのか理解ができん。


「ふふっ、手紙にあるようになかなか面白い人達のようだ。いいだろう、用意させるからついてきたまえ」


 俺達はオリオンの後ろについて街を進み、やがて大きな屋敷まで辿り着く。

 よく考えたら貴族が護衛もつけずにっ街中を一人で来るなんておかしな話だ。

 しかも対立している奴等がいるっていうのに不用心にも程がある。


「さ、入ってくれ」

「お帰りなさいませオリオン様」


 屋敷の門をくぐるとメイドが数人と執事が一人頭を下げて出迎える。


「そちらの方々は?」

「ノインの知り合いだ。これから少し話があるから皆に食事とお茶の用意を」

「はっ、かしこまりました」


 執事がオリオンの言葉をメイド達へ伝え、部屋に通される頃には既にお茶が用意されていた。


「お食事は少々お時間がかかりますのでお待ちいただけますようお願い致します」


 執事がそれだけ告げて部屋から出ていく。


「さて、食事が用意できるまで少し話でもしようか。君がギュータファミリーを壊滅させたという話は本当かな?」


「……ああ、一応な」

「この文には恩人だから粗相をせずデルドロに居る間は面倒を見てやってくれと記してあるが……残念ながら私は君達の事を良く知らない。先程は世話になったが恩人、というほどでもない」


「……そうか、邪魔したな。おいネコ、帰るぞ」

「えっ、でもこれからご飯が出てくるんですけどー!?」


 こういうしたたかな男がこういう話し方をする時は決まって相手を利用しようとする時だ。俺は日本の生活でそれを学んでいる。早くここを出た方がいい。


「待ちたまえ。君の腕を見込んで一つ頼みがある」


 ほら来た……。


「断る、と言ったら?」

「ふっ、特に何もないさ」


 その返答すら予想していたかのようにオリオンは笑った。こういう人間は苦手だ。人を見透かしたような態度が腹立つ。


「俺はたかがレベル31の冒険者だぞ? そんな俺に何を期待してるんだよ」

「普通の冒険者が一人で……それも子供連れでギュータファミリーを壊滅させる事が出来るとは思えないが?」


 ……ちっ、ノインの奴そんな事まで手紙に書いたのか?


「で? 一応聞くだけは聞いておくよ」

「助かる。頼みたいのはこのデルドロから西に行ったところに私が管理している鉱石の採掘所の調査だ」


 採掘所? てっきりライアン絡みの件かと思ったんだが……。


「その採掘所に数日前から何故か魔物が大量に発生して何の罪もない鉱夫が何人も犠牲になった。その原因の解明と、可能ならば問題の解決を頼みたい。鉱石が取れなくなるのはデルドロ全体にとってもかなり痛手なのだ」


 ……魔物の大量発生、か。最近確かに普段群れる筈の無い魔物が集団で行動したり、どこからともなく湧いて来たりというケースに遭遇する。これも同じ原因の可能性があるか……?

 気になる問題ではあるが……。


「それを受けるメリットがこちらには……」

「赤毛の冒険者についての情報、というのはどうだ?」


「……なんでそれを?」

「それも手紙に書いてあったよ。どういう理由で探しているのかは分からないが……その者は勇者のパーティに迎え入れられたそうじゃないか。私はその一行が次に行く場所を知っている。これでは不足かね?」


 エリアルもきっとアドルフと一緒だろう。

 二人の行き先が分かると言うならありがたい話だ。この先勇者と一緒に行動するとしたら俺とのレベル差は開く一方だろうし、早く追いつく必要がある。


「実はね、先日勇者殿に同じ件を依頼したのだ。その時に君の探し人が次の行き先について話しているのを聞いてね」


「……だったら何故その勇者様とやらは助けてくれなかったんだ?」


 勇者と呼ばれる程の人物ならばそれくらいか簡単だろう。


 オリオンは「ふん」と腹立たし気に鼻を鳴らし、その時の事を語った。


「先を急ぐからこんな街の些末な問題に関わっている暇は無い、のだそうだ。もしどうしても以来したければとあり得ないほどの見返りを要求されてね。泣く泣く諦めるしか無かった」


 あいつらをパーティに迎え入れるような勇者だからどれだけ懐の深い奴なのかと思えば……ただの同類かよ。


『あはっ♪ 勇者が聞いて呆れるわね』

 全くだ。

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